1度あるコトは、2度あるモノです
読みに来て下さって、ありがとうございます。
一難去ってまた一難です。
ミネルバ、頑張れ( ω-、)
夕方も遅い時間だと言うのに、その店には色んな店の店主が勢揃いしていた。
「アメリアお嬢様から、伺っております。どうぞ、心置きなくお選び下さい」
「え?そんな。もうそろそろ閉店時間ですよね?ご迷惑だと思いますので、さっさと選びますね」
私が、お店の人達にそう言うと、皆さんは、ニッコリ笑って首を横に振った。
「大恩のあるオーナーのアメリアお嬢様の滅多にない頼みですから、どうって事ありません。むしろ、ようやくご恩を少しでも返せます上に、商売をさせてもらえるのですから、一石二鳥ですわ。どうぞ、ごゆるりと」
アメリア様は、まだ5歳だと言うのに、一体、皆にどんな事をしてあげたのか。かえって、こっちが退いてしまった。
小さな頃もお金に余裕はなかったし、学園に入学してからも制服以外は教授達のプレゼント、他には古着屋でしか服や靴を買った事がない私だ。
こんな高級な店では、どうしたら良いのかわからない。
「オ、オルツァーさん。ど、どうしましょう」
「そうだな。取り敢えず、茶色だと地味か?後、グレーだな」
茶色とグレー?何処かで見た色よね。
ん?それってオルツァーさんの髪と瞳の色じゃない。
「と、取り敢えずだな。それをベースに」
慌てた様子でオルツァーさんは、店員に話しかけた。
オルツァー色……。オルツァーさんとお揃い?
「お嬢様、お待ち下さい」
「お客様、本日は、もう閉店でして」
「何を言ってるのよ。先程、彼が入っていくのを見たわよ!ほら、彼の連れですのよ。オルツァーお義兄様。お久し振りですわ」
店のドアが勢いよく開き、そう言いながらピンクのヒラヒラのドレスに包まれた美しい令嬢が店員達を押し退けて、オルツァーさんに飛び付こうとした。
「ああん?誰だ」
「痛たた。嫌ですわ。お義兄様。アニータですわ。お忘れですの?」
アニータ嬢は、飛び付く寸前にオルツァーさん避けられ、多々良を踏んだ。おや、中々の身体能力をお持ちで。
店の入り口を見ると、青い顔をした侍女が、こちらを向いて頭を何度も下げている。
「お嬢様、早く帰りませんと」
「五月蝿いわねっ!お黙り」
困った声で小声で言う侍女に、アニータ嬢が大声で叱咤する。
オルツァーさんは、嫌そうな顔をしつつ、本気で悩んでいる。
えー?ちょっとキツイご令嬢だけど、綺麗な方なのに、オルツァーさんってば、覚えてないの?
「いや、申し訳ないが、覚えがないのだが」
「え!?そんな。この私を覚えてないなんて。アニータ・フレイドンですわ。尤も今は、アニータ・ホールドですが」
心なしか、アニータ嬢の笑顔が引き吊っている気がする。少し、怖い。
あ、しまった。つい、思わず抱き締めてしまっていた茶色のドレスに皺が寄ってしまっている。売り物なのに申し訳ない。ちょっと撫でて引っ張っておけば、直るかも。すいません。
「ああ、フレイドンと言えば、マージョリー義姉上のご実家の。あー、んー。アニータ……嬢?」
オルツァーさんは、右手を顔に当て、左手で自分に飛び付こうとするアニータ嬢を牽制しながら、悩んでいる。
「もうっ!マージョリーお義姉様の弟のメルビンの妻です……尤も、メルビンの浮気三昧に愛想を尽かして離縁し、今は独身なんですのよ」
「あー、メルビンの奥方か。そう言えば、メルビンの結婚式でお会いしました筈?」
「はい、そうですの。今では、独身ですのよ。それにしても、オルツァー様は、相変わらず凛々しくて素敵ですわね」
アニータ嬢は、オルツァーさんにすり寄り左腕に抱き付こうとするが、またもやオルツァーさんに避けられた。
うん。『今では、独身です』アピールが2度も入りました。
「そうですか。では、また。ちょっと今、取り込んでいます。今日は、この店は貸し切りですので出て行っていただきたい」
「あら、憧れのオルツァー様にやっと再会できましたのに。あの時、私に美しいと仰いましたでしょう?つれませんこと」
アニータ嬢は、オルツァーさんを下から見上げ、睫毛をパタパタさせて、ニッコリ微笑んで媚びを売る。
そして、チラッと私を見ると一瞬ニヤリと笑い、再び可愛らしい笑顔を張り付けてオルツァーさんを見上げた。
オルツァーさんの顔がどんどん不機嫌になっていく。あー、ヤバいヤバい。
「オ、オルツァーさん。落ち着いて」
「あら、もしかして、あちらの垢抜けない、平民の女の子にドレスを?オルツァー様には少し、幼すぎるんじゃありません。オルツァー様には、もっと大人の女でないと」
アニータ嬢は、自分の胸の前で腕を組み、キュっと胸を持ち上げ、再びこちらを向いて、ニタリと笑った。
但し、残念ながら、私の方が胸が大きい。うん。
あ、いやいや、駄目だって。うわー。よく見てアニータ嬢、オルツァーさんの顔をよく見てってば。不機嫌極まりないから。
私は、持っていた服を店員に手渡し、オルツァーさんに抱き付いた。
「ホールド家の侍女の方、今の内にご令嬢をお連れして下さい」
「ミネ。抱きついてくれるのは嬉しいが、そいつを放り出すのは私だ」
オルツァーさんは片手で私を抱き、もう片手でアニータ嬢を掴もうとした。
ようやく事態を悟ったのか、アニータ嬢がオルツァーさんを見て顔を引き吊らせ、後退りする。
「お、お嬢様。早くお帰りにならないと、旦那様に叱られます」
「五月蝿いわね、使用人の分際で!」
アニータ嬢は、自分の近くに寄った侍女の頬を腹立ち紛れに平手打ちし、侍女が床に倒れる。
一体、何なのか、このご令嬢は。
「ちょっと!オルツァー様。こんな楽しい事に私を誘わないなんて、酷いじゃありません?」
侍女にドアを開けさせて、今度は、オルツァーさんより少し年上の貴婦人がデデンっと入ってきた。決して背が高い訳でもない。どちらかと言うと小柄なその貴婦人は、何故か存在感がある。
「マージョリー義姉上?どうして、ここに」
オルツァーさんがビックリした顔で、貴婦人を見た。
「あら、アニータじゃない」
オルツァーさんの義姉上であるマージョリー様は、オルツァーさんを一瞬見た後にアニータ嬢に視線を移すと、途端に視線を凍らせて低い声を出した。
ええと?まさか、楽しい事って、アニータ嬢の事じゃない、ですよね?
「薬の魔女さんのドレス選び……楽しそうね。セルマン、私達も行きましょう」
「アメリアお嬢様。そう言うのは、お二人にお任せして下さい。それより、私がアメリアお嬢様のドレスを選びたいのですが」
「え!?また今度で、良いわよ。ねえ、アーバス伯爵様。オルツァー団長さんは、ドレス選びのセンスは良い方かしら?」
「あー、まあ。どうでしょうか。万一の為に、妻に店に行く様に伝言しておきます」
「セルマン、やっぱり楽しそうだから、私達も行くわよ」
「アメリアお嬢様。ノースター公爵様が寂しくて泣いておられますので、家に帰ってあげて下さい」
「あら、つまらないわね」
この後は、『元魔王な令嬢は、てるてるぼうずを作る』も一騒動ですが、こちらの話も単体で一騒動です。




