心の準備以前に、敷居が高過ぎて胃が痛い
読みに来て下さって、ありがとうございます。
ようやく、二人きりになります。
花畑には、やがてやって来た一団によって、養蜂箱が設置された。
砦の養蜂事業の話を聞きつけたベルリーナ様のお祖父様の魔法薬剤師長が、新しく魔法薬材料採取係養蜂部門を立ち上げ、ここで養蜂を始めると言う。
蜂達が怯えるので、イカロスやワイバーン達は先に王城に行ってもらい、砦での養蜂について説明する為に私だけが残る事になった。
期間限定と諦めていたベルリーナ様の薬草畑での養蜂が継続できるなんて。嬉し過ぎる。
流石に、これまでの様にしょっちゅう蜂蜜を貰うわけにはいかないけれど、エルディアナ様にお願いすれば、砦の為に時々手に入れてもらえるかもしれない。
要交渉案件よね。
私1人を残して行くのを嫌がり、散々ごねたオルツァーさんを説得して、後で馬で迎えに来てもらえる様にお願いした。
「ガイ、薬の魔女さんを守ってね」
「へい。あっしが、責任をもってお預かりしやす」
腰に両手を当て、少しそっくり返ったベルリーナ様が、可愛らしくガイさんに言うと、ガイさんがベルリーナ様にニッコリ笑って言い切った。
オルツァーさんは渋々、皆と同じ様にワイバーンをそうっと、花を散らさない様に飛び立たせ、王城へと向かった。
王城には、ワイバーン達の宿舎があるらしい。ちょっと見てみたいけれど、私には縁遠い場所。
教授達は、表彰される時とかに綺麗におめかしして王城に呼び出されていたけれど、皆、一様に面倒臭がってたのを思い出す。
どちらにしろ、一介の元男爵令嬢でしかない平民の私には、王城は敷居が高いもの。本音は、置いて行ってもらえて、ちょっと嬉しい。
ガイさんを交えて養蜂師達と話をしている間に、オルツァーさんが何故か立派な馬車でやって来て、私を馬車に押し込んだ。
「すまない、待たせたな。ミネ。王城から馬を借りて急いでここに戻ろうとしたのだが、エルディア様に怒られた。
女性を服を買いに連れて行くのに、馬で行くな、馬車で行けってな」
まあ、確かに荷物が乗らないかも?いや、でも馬車が立派すぎて、私には身分不相応かも。
座席はフカフカだし、壁や床は艶々でお高そう。私が乗っても良いのかな。
「あー、そんなに気にしなくて良いぞ。実は、この馬車は、私の実家の馬車だ。登城していた兄が貸してくれたんだ。ミネは疲れているだろうから、ゆっくりくつろいでくれ」
「オルツァーさんこそ、お疲れ様です。態々、迎えに来てくれてありがとう。私の服は、明日、砦に帰る時でも良かったのに」
途端に、オルツァーさんが申し訳なさそうな顔をして、目を泳がせる。
「その、この馬車に乗っているのは、もう1つ事情があってな。まあ、その何だ。兄が、ミネの買い物が終わったら、そのまま2人で、私の実家まで来いと。
まあ、その為に服を買いに行くのも、ある。急で、すまない」
今、何気に爆弾発言したよね!?オルツァーさんっ。
開いた口が塞がらないんですけど?
「エルディアナ様が、王城の客室にミネと私の部屋を用意しようとしたんだが、兄が家族水入らずで過ごしたいとエルディアナ様に申し出て」
いや、ちょっと待って。最初は、私は王城に泊まる予定だったの!?私とオルツァーさんは、城下町の宿屋に泊まるのかと思ってた。
オルツァーさんの実家もハードル高いけど、王城の客室は、もっとハードルが高いから。
いや、どっちもどっちかも。
いきなり、オルツァーさんのご家族にご挨拶とか。
しかも、オルツァーさんの実家って、実家って。聞いた事も、気にした事もなかったけど、爵位は何だろう。この馬車からして、お金持ちの高位貴族っぽいんですけど。
「オルツァーさん、つかぬ事をお伺いしますけど、オルツァーさんのご実家のお名前は……?」
「ああ。言ってなかったか。すまん。私は、アーバス伯爵家の四男なんだ。と言っても、兄が後を継いでいるから、私の爵位は、ただの騎士伯だな」
頭の後ろをガリガリと掻きながら、オルツァーさんは、明後日の方を向いて話をした。
いやいやいやいや、確かにこの服で伯爵家の門は、潜れないわよね。オルツァーさんは正面の門から入れても、どう見ても私は裏の使用人入り口から入らなきゃ駄目だわ。
と言うか、オルツァーさんと私、結婚なんて出来ないんじゃない?ご家族は反対するんじゃないかな。
「オルツァーさん、町に着いたら、適当な宿屋の前で降ろしていただいても?」
「だ、駄目だ。絶対に駄目だからな。その場合は、私も降りて一緒の宿屋に泊まる。じゃないと、ミネは1人で砦に帰る気だろう」
大当たりです。
だって、他のどの同行者も爵位が高過ぎて、門扉を叩けないもの。日数は掛かるけど、砦まで1人で帰れない事は、ないものね。
降ろして~。今すぐ、降ろして!
「皆、喜べ。ついにオルツァーに春が来たぞっ」
「父上、帰るなり何なの?それ」
「いきなり過ぎだよ」
「客室の用意をしてちょうだい。食事は、2人分追加で良いのかしら」
「とにかく、オルツァーの相手を逃がすな。最後のチャンスかも知れん。皆、頼んだぞ」
踏ん張れ、アーバス伯爵家。貴族にしては、ちょっと型破りな一家です。オルツァーさんの家族だしね。




