私達の思いは、誰かが拾ってくれました
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『元魔王な令嬢は、てるてるぼうずを作る』では1度、野辺送りをしています。今回は2度目の野辺送りの話となります。
『元魔王な令嬢は、てるてるぼうずを作る』のep.231『元魔王な令嬢は、花畑を作る』のミネルバ&オルツァーバージョンです。
私は、オルツァーさんを連れて、マリアンのお墓を探した。
おかしい。この辺りだと思うのだけれど、墓石が見当たらない。
父親が、墓石を排除したのか。いや、あの人は別段、マリアンの墓には興味もなかっただろうし。違うと思う。
考えられるのは、ここを根城にしていた仮面の男爵達が排除したのかも。
「確か、この辺りだと思うんですけれど、マリアンの墓石が見当たりませんね」
「うーむ。見当たらないな」
墓石が倒れていたり、壊されていたりする可能性も考えて、草を手で避けながら、私達は辺りを探し回った。
オルツァーさんのお腹の虫も、この辺りだと感じているらしく、オルツァーさんは先程から辺りをグルグルと回りつつ足で地面を突っついている。
その内に、王太子殿下や子供達がやって来て、私達と同じ様にウロウロ、キョロキョロし始めた。
「ベル、何だか、むずむずする場所があるな」
何だか難しい顔をしたベルリーナ様に、王太子殿下が話しかける。
2人は仲良く手を繋いで歩き出し、急に何もない所で止まり、考え込み出した。
「ああ、私が認識阻害の魔術を掛けたヤツだな。これを探していたのか。
仮面の男爵が『邪魔だから何とかしろ』と言っていたんだが、墓を潰すのは忍びなくて。見えなければ問題ないだろうと、墓石に認識阻害を掛けたんだ。
元々、妙なバリアーが掛かっていて、潰せなかったのもあるんだが」
はたと思い出した様に、ベルリーナ様のお兄様のフレン様が、そこへやって来て、何もない空間に手をかざして何かを呟くと、認識阻害が解除され、墓石が現れた。
フレン様はハジェスと共に仮面の男爵と暮らしていたけれど、どうやらハジェスと違って少し自由があったらしい。
「バレなければ、問題ないからな。それでも、他の子供達は救えなかったが。ところで、これは誰の墓なんだ?」
「祖母の猫の墓よ。守ってくれて、ありがとう。マリアンは、私の小さい頃の親友だったの」
フレン様の問いに私が答えると、フレン様は何か考える様な顔をした。
どうかしたのかしら。
まあ、取り敢えず。さっさと本を取り出してしまおう。
『障壁解除、認識取出』
私が小さな墓石に手を翳して、大叔母様から聞かされた複合魔法を唱えると、墓石が光ってバリアーが無くなり、次の呪文で空中に光を纏って一冊の本が飛び出した。
「ありがとうマリアン。お祖母様のレシピを守ってくれて。安らかにお眠り」
私は、飛び出した本を両手で受け止めると、それを胸に抱き締めた。
母の形見は何もない。思い出は屋敷と共に崩れ落ちたもの。
そして、父親や仮面の男爵から逃げる為にお祖母様の指輪を売った今、このレシピだけが、お祖母様のたった1つの形見となった。
身軽と言えば、身軽かも知れない。
オルツァーさんが、私の肩を抱いて、自分の元に引寄せてくれた。オルツァーさんから、彼の温もりが私に伝わってくる。
これで、ここでの私の使命が果たされた。私が小さかった頃に一緒に遊んだ猫のマリアン。彼女の墓をここに置いていくのは忍びないけれど、ここは既に、ベルリーナ様のイースタン公爵家の土地だ。
今後、私がこの墓を参る事は無理だろう。
「小さい子と仲が良かった猫の墓、か。ミネルバ嬢、この猫のお墓の横に、私達の仲間の墓を作ってはダメだろうか」
考え込んでいたフレン様が、そんな事を言い出す。
それは、願ってもない事なので、私は二つ返事で了解した。
そうすれば、マリアンも寂しくない。フレン様が、ここに仮面の男爵の犠牲になった子供達の墓を建てるなら、私がここに来る事は叶わないにしても、フレン様やイースタン公爵家に勤めるハジェスやジェンナが、墓を参ってくれる筈だから。
イースタン家の嫡男ハリザード様が話に加わり、公爵様に相談の上、墓を建てる事になったらしい。
「少しは元気が出たか」
オルツァーさんが、心配そうに私を覗き込む。
うん。少しだけ気持ちが上を向いた気がする。
イースタン家のご兄妹達が、ここを花畑にすると言う。亡くなった子供達やマリアンの魂がここで楽しく遊べる様に。
嫌な思い出は、全て塗り替えられるのだ。色取り取りの一面の花達によって。
「オルツァーさん、早く花が咲いたら良いですね。一面の花畑、素敵でしょうね」
「いや、案外、すぐじゃないか?ほら、やって来たぞ。おーい、ガイ!久しぶりだな」
荷馬車が次々と到着し、帽子を被り作業着を着た男女が次々と荷馬車から鎌やスコップを持って降りてくる。
先頭のゴツい老人が、オルツァーさんに軽く手を上げて挨拶すると、ベルリーナ様達がお茶を飲んでいる場所へと足を速めた。
「お嬢様、お帰りなさいやし」
彼は、ベルリーナ様に挨拶をすると、一緒にいた少女に指示を出し、皆をまとめて、どんどん元男爵邸の土地の雑草を抜いていった。
「ガイが率いている所をみると、彼らは多分、魔法薬材料採取係の奴らだな。普段は、こんな所でウロウロしてる奴らじゃないんだが」
ガイと言う老人は、大叔母様の様に元魔法薬材料採取係で、今はベルリーナ様の専属庭師をしつつ、採取係の仕事を請け負っているらしい。
そんな彼らは慣れた手つきで次々と地面をきれいにして行き、あっと言う間にマリアンの墓を残して、全てがきれいな更地になった。
素早い。魔法なしで、これ?これが、魔法薬材料採取係の実力?
「お褒めいただいて恐縮です。素早く丁寧に採取するのが、仕事でやすからね。ささ、お二人共、あちらの皆さんと合流していただけやすか?今から、うちのベルリーナお嬢様がお仕事をなさいやすので」
私とオルツァーさんが皆が集められている場所へと移動すると、ガイさんと助手の少女は、大きな袋をベルリーナ様の足元へと置く。
大きな袋は、ベルリーナ様のお祖父様である魔法薬剤師長からの言付けらしい。
どうやらそれは、全部、薬草の種らしい。
袋を開けて、見てみたい。一体、何の種が入っているのか。
今から自分1人でそれを全部、蒔かなければならないと聞いて、ベルリーナ様はショックを受けて、意気消沈している。
やがてベルリーナ様は、意を決して、テクテクと可愛らしく歩きだした。
どうやら野草の類いの薬草の種らしく、ガイさんが大きな種袋を持ち、ベルリーナ様は自棄糞の様に、小さな手を袋に突っ込んでは、辺り一面にパッパと種を振り撒いて、歩き回っている。
可哀想だけれど、こればかりは誰も手伝えない。薬草達は、ベルリーナ様が種を蒔き、水をやって育てる事で素早く大きく立派に育つのだから。
頑張ってください。そして私に、立派な薬草を下さい。がんばれ~。
実は水魔法の使い手だった魔道具製作部長の手を借りてベルリーナ様は辺り一面に水を撒き、更に聖者である王太子殿下と聖女のアメリア様と共に3人で歌いながら、はしゃいで歩き回ると、その3人の足元からどんどん芽が生え、次々と育って花が咲いていく。
まるで、奇跡みたい。
どんどんどんどん草が生え、色取り取りの花が咲いて、辺り一面が花でいっぱいになると、ベルリーナ様達は、手を繋いだまま、地面に寝転んで、楽しそうに笑いだした。
花達はベルリーナ様達の笑い声に、嬉しそうに揺れ、風に吹かれて踊り出す。地面から溢れ出た光が花達を包んで、くるくると舞い、空へと上って行った。
まるで、沢山の魂が空へと上っていく様に。
ふと、隣を見ると、空を仰ぐオルツァーさんの目から涙が溢れている。
私は、手を伸ばして、そっとオルツァーさんの涙をハンカチで押さえた。
「ああ、私が出来なかった事を、あの小さなベルリーナ様達が、やってくれた」
そう言って、オルツァーさんは涙を流す。私は、そんなオルツァーさんが愛しくてたまらず、両手を伸ばしてオルツァーさんの頭をかき抱いた。
オルツァーさんは私を見ると、屈んで私の肩に頭を乗せると、静かに泣いた。
オルツァーさん。オルツァーさん。
仮面の男爵は、ハジェス達や難を逃れた子供達だけでなく、オルツァーさんの心にも傷跡を残していた。
オルツァーさんが見たと言う仮面の男爵達の犠牲となった子供達の遺体。
実験対象とならなくて、資金源として売られた子供達。
男爵達を後一歩と言う所で逃してしまい、更なる犠牲者が出てしまった後悔。
そして、私だけは男爵に渡すまいと、頑張って彼らの痕跡を追ってくれた何年もの月日。
事件が解決しても、オルツァーさんの心の中に、それらは積もり積もって澱りを残していた。
「彼らは不甲斐ない私を赦してくれるだろうか」
ふと、私がマリアンの墓を見ると、そこから微かな光が立ち上ぼり、私の足元まで来ると、私とオルツァーさんの周りを螺旋の様に辿ってくるくると回り、空へと上って、他の光を追いかける様に消えて行った。
「マリアンが、皆を追いかけて行きました。子供達の魂の事は、女神様とマリアンにお任せしましょう」
私達は、所詮、人でしかなく、大きな力を持たない。
足掻いても足掻いても為せる事は少なく、その手は届かないモノの方が多い。
フレン様が、ハジェスが、ジェンナが、ただ空を見上げていた。
彼らは、空へと飛んでいった光達に、自分達の思いを伝える事が出来たかな。
「オルツァー団長。泣いてばかりじゃ喉が渇くからな、お茶を飲め」
「あ、ありがとうございます。殿下」
「オルツァー団長さん!大変、大変。薬の魔女さんが、オルツァー団長さんの涙でビチャビチャなの」
「ああっ!ミネ、大丈夫か。すまない」
「すまないじゃありませんわ、オルツァー団長さん。これは、とんでもない案件ですわ」
「そうだな、アメリア。オルツァー団長。責任を取れ」
「そうですわね。殿下。オルツァー団長さん、好いた女にドレスの1着や2着、買ってあげる甲斐性はあるんでしょうね?私の青いにしている仕立て屋と髪飾り屋を紹介しますわ。オーッホッホッ」
「アメリア、それは、青いじゃなくて『懇意』だ。それに、どうせ、その店はお前がオーナーをしている店だろう。聖女の仕事を終えた途端に商売っ気を出すんじゃない」
アメリアの商売の信条は、『チャンスを逃すべからず』です。
次回からは、『元魔王な令嬢は、てるてるぼうずを作る』から離れたお話になります。やっと!やっとです!




