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貴方に恩はありませんので、出奔させていただきます  作者: Hatsuenya


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ワイバーンに、罪はない(むしろ可哀想)

 読んで下さって、ありがとうございます。


 この時は、ああだったんじゃないかな。こうだったんじゃないかな。と思って、裏バージョンを楽しんで書いています。

 この話は引き続き『元魔王な令嬢は、てるてるぼうずを作る』ep. 226『ワイバーンの捕まえ方』の裏バージョンです。



 どうしてもワイバーンを捕まえに行くと言うオルツァーさんに、タンディン様が笑った。


「お前も、とうとう覚悟を決めたか」


「まあ、私はこんな日が来るとは思ってもいませんでしたが。必要とあらば、何でもします」


 覚悟とか必要とは、何の話かよく判らなかったが、オルツァーさんとタンディン様は、真剣な顔をして、うんうんと頷いている。


 そんなオルツァーさんの周りに、タンディン様が稽古をつけていた子供達が集まった。王都からやって来た高貴な生まれの子供達。

 いや、タンディン様が既に元王配で公爵家嫡男という、高貴な方だったわね。タンディン様を見ていると忘れそうになるけれど。


 子供達はニコニコしてウロウロし、ワイバーンを捕まえに行くと言うオルツァーさんを羨望の眼差しで見上げた。


 可愛い。


 オルツァーさんの目も、やに下がっている。子供好きだからね、オルツァーさんは。甥児さんの事も、可愛がってたみたいだし。

 そんなオルツァーさんは、屈んで子供達と同じ目線になり、唐突に子供達にお願い事をした。

 

「団長が増えたんで、名前の方で呼んでいただけると嬉しいんですが」


 と、モジモジしながら言うオルツァーさんに、子供達は少しビックリしたみたいだけれど、子供達は戸惑いながらも呼んでくれた。


「「オルツァー団長っっ!」」


 か、可愛い。本当に可愛い。ベルリーナ様の兄君達は、少し鼻白んで引いていたけれど、王太子殿下やベルリーナ様をはじめチビッ子達は、声を揃えてオルツァーさんにそう言って叫んでくれた。


 オルツァーさんは、デレデレしてニヤつき、照れて頭をかきながら、身を捩る程嬉しかったらしい。

 わかる。わかるわあ。


「……まったく、相変わらず、子供好きなんだから」


 私は、初めて会った頃のオルツァーさんを思い出しながら、オルツァーさんと子供達を見た。


「相変わらずって、ミネルバさんは、昔からオルツァー団長の事を知ってたの?」


 ベルリーナ様は私の横に来て、私に尋ねた。ベルリーナ様の隣には、いつの間にか王太子殿下が陣取っている。王太子殿下は、いつでも何処でも、事あるごとにベルリーナ様の隣をキープしようとする。ご本人曰く、『他の男に牽制している』そうだ。

 

「17歳で王都からこっちに来た時に、旅の途中で出会って、一緒にここまで連れて来てもらったんです。まあ、出会いは、結構、最悪でしたね。

 いい人なんですけど、時々、とんでもない事をするので。

 当時の私は男の子に変装してたので、12歳位の男の子に見えてたらしくて。甥っ子と同じ年だからと言われて、結構、構い倒されてました。

 ですから、結婚を前提にと急に言われても、ねえ?」


 ついベルリーナ様には大人に話す様にそう言ってしまう。ベルリーナ様は、自分の胸の前で腕を組み、頭を傾げてしまった。


 その仕草は、とても可愛い。ふと、私がオルツァーさんと結婚したら、こんな可愛らしい子供が産まれたら良いな……と思ってしまった。何か、恥ずかしい。


 オルツァーさんは、タンディン様と共に颯爽とワイバーンに乗り、もう一頭のワイバーンを伴って飛び立った。

 あの雌のワイバーンはエルディアナ様のワイバーンじゃなかった?どうして、一緒に連れて行くのだろう。しかも、騎手のエルディアナ様をここに置いて。


 そのエルディアナ様は、子供達に質問責めにあっている。


「ひいお祖母様、ワイバーンは、どうやって捕まえるのだ」


「後学の為に、是非お聞かせ下さい」


 王太子殿下や王都の騎士団長の息子のゴンザレス君が、興味津々で問いかける。


 うん。私もそれは知りたい。足手まといになるから一緒に行かなかったけれど、出来れば一緒に行って見学したかった。


「ワイバーンはメスが少なくてね。メスがちょっと甘い声で鳴くと、イソイソと寄ってくるのよ。そこを捕まえて、素手で闘い、屈服させるのよ」


 そう言うと、エルディアナ様はニヤリと笑い、皆の顔を見回した。


 結婚詐欺みたいなモノ?ちょっと雄のワイバーンが可哀想な気がする。そうすると、何?この砦にいる雄のワイバーン達は、皆、エルディアナ様のワイバーンに惚れて、ここにいるの?


 これは、ひょっとして、以前、王都で流行ったと言う小説に出てくる、逆ハーレムとか言うやつ。

 この話の筋を研究塔の女性教授から聞いた時には、眉唾物だと思っていたけれど、実際には動物界には存在するのね。


 しかも、人間側も素手で闘うって、とんでもない気がする。

 気がするけれど、エルディアナ様が言うのなら、本当の事だろう。あのタンディン様だし、本当に素手で闘ったのかもしれない。そして、辺境伯のご子息達もまた、しかり。


「取り敢えず、私は薬を用意しておきます」


 途端に私はオルツァーさんが心配になった。いくらオルツァーさんが手練れだとしても、無事に帰って来れるだろうか。

 私は自分の言葉の通り、考え得る限りの薬を用意する為に小屋に駆け戻った。




「ただいま、ミネ。無事、ワイバーンを捕まえて来たよ」


 私の心配をよそにオルツァーさんは、その日の夕飯時に砦へと戻ってきた。思ったよりも早くてビックリした。


「お帰りなさい、オルツァー団長。大丈夫だった?何処にも怪我はない?」


 私は、ちょっとした皮肉を元に、オルツァーさんをオルツァー団長と呼んでみた。オルツァーさんは、疲れてはいる様だけれど、出掛けた時よりも、むしろ、晴れ晴れとしている。

 少し、腹立たしい。


「ああ、大した怪我はないな。ちょっとかすり傷が出来た程度だよ。心配してくれてありがとう」


 ふーん。何だか、楽しんで来たみたいな気がする。私は、食堂の料理人にお願いしてお湯を貰って疲れによく効くお茶を入れ、持ち歩いていた薬をテーブルの上に並べた。


「頬に切り傷が」


「あ、痛たたた。しみるなぁ。もうちょっと、お手柔らかにしてくれ、ミネ」


 ふふふん。よく効くのだけれど、この薬はちょっとばかり滲みるのだ。


「あ、こんな所にも怪我が」


 大怪我はないものの、小さな怪我が沢山ある。この程度で済んで良かった。この人は、私の心配をよそに、いつでも大した怪我もせずに私の前に姿を現す。


 ああ、いつものオルツァーさんだ。強引で、ちょっと甘えたで、それでいて保護者ぶっている、初めて会った時から変わらない。

 オルツァーさんだ。


 私は、少し幸せな気分になった。


「ストップ!続きは、ミネルバさんの小屋でお願いします。ライ殿下の情操教育によろしくありませんので」


「いや、アンナ。ラインハルト殿下とベルリーナ嬢の方が、もっとイチャイチャしてるからね?」


 アンナさんが、腰に手を当てて、顔を赤らめてこちらを見て叱りつける。オルツァーさんは悪びれもしないで、いけしゃあしゃあと上機嫌で私に手当てを続けてくれと言う。


 私は恥ずかしいので、料理人にオルツァーさんの分の夕食を持ち帰れる様にして貰って、食事と共に、ニコニコと笑っているオルツァーさんを小屋に持ち帰った。


 自分の食事の入った籠を持つオルツァーさんと、薬の入った籠を持った私は、いつしか手を繋いで月明かりの夜道を小屋へと歩いて行く。


 何だか照れ臭い様な嬉しい様な、フワッとした気分がした。





「オルツァー団長、デレデレです~」


「さっき見てきたんですが、ワイバーンの小屋でも、新しいワイバーンがエルディアナ様のワイバーンにデレデレしてました。お陰で、タンディン様のワイバーンが機嫌が悪くて、お世話係の人が大変そうでした」


「ハーレムって、大変よね。ライ殿下」


「私には、関係ない話だな。群がる虫には、速攻で対処する事にしている」


「流石、ラインハルト殿下ですね」





 ラインハルト王太子は、叔父が婚約破棄した叔父の元婚約者が教師なので、婚約破棄もハーレムも、絶対反対派です。

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