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貴方に恩はありませんので、出奔させていただきます  作者: Hatsuenya


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突然の出来事で、頭が付いて行きません

 読みに来て下さって、ありがとうございます。


 この話は、『元魔王な令嬢は、てるてるぼうずを作る』のep.223『元魔王な令嬢は、魔女と一緒に商売をする』の裏話となります。読まなくても楽しめますが、ベルリーナから見たミネルバについては、そちらをご覧下さい。



 とんでもない赤い服の女に出会ったけど、ジルバさんに蜂蜜を貰い忘れなかったわたしを褒めてあげたい。

 幸いにして、小屋の中に赤いモノはなく、私は乾かした薬草の仕分け作業をしながら落ち着く事にした。

 ああ、良い匂い。薬草の香りが、私の心に染み込んで、少しばかり安らかな気持ちになった。

 これもまた、昨日まで乾かしていた赤い花でなくて良かった。赤いモノは、暫く我慢ならないから。


 赤い花と言えば、あの女、髪に真っ赤な花を飾ってたっけ。町に住む、男なのにおネエ様と呼ばれる方々にご好評の脱毛剤の原料のあの赤い花。

 あれ、どう見てもベルリーナ様の畑から盗った花よね。

 『その花、髪に飾るとハゲますよ』と忠告しようかと思ったけれど、あの女がひたすら喋って私は口を挟めなかったし、その内容に何だかムカついて、すっかり忘れてた。


 まあ、いいか。


 それにしても、まさか、オルツァーさんの女の趣味があんなに悪いとは。あの女がオルツァーさんのお嫁さんになるのは、見たくない。

 もうすぐ、ベルリーナお嬢様達も王都に帰ると言う話だし、私も森の小屋に帰ろうかな。

 デザリスタの似非騎士達やオルツァーさんが壊した物も、砦の修繕係さん達が直しておいてくれたらしいし。


 はぁ。オルツァーさんが悪い。何かイライラして、腹立たしい。


 オルツァーさんの、莫迦たれ。



「ミネ、ベルリーナお嬢様達がおいでだよ」


 小屋の扉を乱暴にノックする音がした。オーベンさんだ。


「ひゃい!い、今、開けます」


 私が思わず立ち上がると、何故だかそれまで座っていた椅子が弾けて、その辺に置いてあった大きな鍋の様な容器にぶち当たり、蓋が吹っ飛び中身が飛び出そうになった。

 あ、危ない。このミントは後で砕いて粉末にする分で……。あ、蜂蜜飴にミントを入れてもスッキリして美味しいかも。


 これも、ベルリーナ様に御相談案件って、いや、それよりも扉、扉。


 ギイギイ言う扉を開けると、可愛いベルリーナ様とアメリア様の他にも、綺羅びやかな美女が!はっ!眩しい。


「あら、ミネルバじゃない」


 お三人の少し後方から声がした。もう一人は、んー?何処かで見たような。


「あ、マリシアさん。お久しぶりです」


 あー、何て事。こんな所で会うなんて。

 かつての知り合いが、侍女のお仕着せを着てビックリ眼で突っ立っていた。いや、こっちがビックリなんだけど。

 貴女は、魔術医になるんじゃなかったの?


「あら、マリシア。知り合いなのかしら?」


「はい、ミザリア殿下。学園の魔術医コースの同級生でした。ですが、卒業前に学園に来なくなって、行方不明に。まさか、こんな所に巣食っていたとは」


 巣食うって……まあ、確かに巣食ってますね。私。


「うっ。行方不明と、されていましたか。いっその事、死亡としてくれていた方が良かったんですが」


 私は、「取り敢えず中へ」と、小屋の中に入ってもらう様に促した。

 オーベンさんは、男性は小屋の中に入るのをエルディアナ様に禁じられているので、用事があるからとか何とか言いながら、そそくさと帰って行った。


「狭い所で申し訳ありませんが、お茶を入れますね」


 私にとっては、狭いながらも楽しい楽しい我が家だけれど、ご令嬢や王女様には物置小屋。いや、実際そうですが。

 こんな所まで足を運んでもらって申し訳ない。

 けれども、あちら方面には、あの赤いのが居るので足を向けたくないんですよ。すいません。


 マリシアは学園にあった薬草畑の小屋でも思い出しているのか、懐かしそうに小屋を見回し、ベルリーナ様とアメリア様、ミザリア殿下は小屋の中の色んなモノに興味津々だった。


 私は、部屋の中央にある大きめの丸テーブルの上から先程仕訳していた薬草を退けて台所に運び、隅に重ねてあった使った事のない椅子を出して、ティーセットを持ってきた。


「鍋とおたまじゃくし、寝袋とティーセット。これだけは、大叔母の小屋から持ってきたんです」


 ベルリーナ様は、何かを聞きたそうに可愛くきょときょとして私を見ていたけれど、ミザリア殿下に促されて、アメリア様が椅子に座ると慌てて椅子に座った。


「そう言えば、今日は、ラインハルト殿下は、ご一緒じゃないんですね」


「男性陣は、最後の仕上げの大特訓とかで、タンディン様が鍛練場に連れ去ってしまいましたの」


 扇を半開きにして口許を隠し、カップの中身をジッと見ていたアメリア様は、残念そうに答えた。


 明らかに場違いなお三方にキョドキョドしていた私は、アメリア様の言葉を聞いて、明らかにホッとした。

 ラインハルト殿下はともかく、ミザリア殿下といつも一緒に居るゴリラの様な大男のベンデンが来たら、この小屋には明らかに入りそうにない。


「ところで、このお茶は何かしら。何だか少し酸っぱい匂いがするわね」


 先程から怪訝そうにお茶を睨んでいたアメリア様が、カップに入った紅茶の香りを嗅いでいる。


「ローズヒップティーです。美容や身体にいいんですよ。酸味がありますので、こちらの蜂蜜を入れて飲んでいただくと、飲みやすいですよ。こちらの蜂蜜は、ベルリーナお嬢様と私共の共同開発しております商品でございます」


 相手は公爵家のお嬢様。ここは、宣伝、宣伝の一手である。


「そのまま飲むには、確かに酸味がきついけれど、蜂蜜を入れると、確かに美味しいわ。ベルリーナちゃん、これが貴女が言っていたオススメのお土産なの?」


「はい、ミザリア殿下。私の薬草の花で作られた蜂蜜は、従来の蜂蜜よりも濃厚で栄養価も高く、甘くて美味しいです。

 元々、お庭に咲いていた野バラは、薬草と同じく私がお世話をしていますが、その実を使ったローズヒップティーは美肌・美白効果、免疫力向上、便秘解消、疲労回復に、良く効きます。

 かりんの蜂蜜漬けは、妊婦さんの風邪予防にも効きます。

 蜜蝋を使ったリップクリームは、これからの季節の唇の乾燥やひび割れを防ぎます。就寝前に塗っておくのもオススメです」


 私が話す事なく、ベルリーナ様が一気に捲し立ててくれた。皆は、フムフムと聴きながら、蜂蜜を入れたローズヒップティーを飲んでいる。


 いえいえ、私もベルリーナ様に負けていられません。

 私は、カウマン教授の言葉を思い出す。『セールスは舞台だ。お前は役者だ。客を惹き付け、引き込んで売り付けろ』と。


「他にも、今朝完成しました蜂蜜を使ったのど飴も、これからの寒くなる季節にオススメです。ミザリア殿下」


 コロコロと丸いキレイな黄色くて透明な琥珀色の飴を私がお皿に盛って皆の前に差し出すと、皆の視線がキラキラと光って飴に集中した。

 美しいでしょう?


「まあ、レシピが完成したのね。宝石みたいで、とてもキレイ」


 『まずは、お毒見を』と、一番にベルリーナ様が飴に手を出し、幸せそうに飴を舐め始めた。いや、それは本来は私の仕事では?

 相変わらず、破天荒な小さなご令嬢です。


 ベルリーナ様が皆にもすすめると、ミザリア殿下が扇を口許に持って行き、そして、ミネルバに話しかけた。


「それも、試食したいけれど。

 それよりも、マリシアが言っていた王都で行方不明とされている貴女が、どうしてここに居るのかが気になるわ」


 ミザリア殿下の目が、キラリと光った。


 あー、やはり、気になりますか。気になりますよね。


 皆の目が、私に集中した。


 事件も終息した様だし、話しても大丈夫かなと、私が話そうとした矢先に、小屋の扉をノックする音がした。

 続いて扉が開き、赤い薔薇の花束が入ってきた。


「やあ、ミネ。今日はちょっと時間が出来たから町に出掛けたんだ。これは、お土産だ。どうか、受け取ってくれ」


 オルツァーさんが、花の影から顔を覗かせた。

 え、よりによって、赤?何故、今、赤い薔薇を。


「騎士団長、タイミング悪すぎ」


 ベルリーナ様が、呆気に取られてオルツァーさんを見て言う。


「そうですわね。しかも、ノックしてすぐに扉を開けるとか、無しですわ」


 ミザリア様が、扇の影で眉をひそめる。


「ミネルバ、硬直してるじゃない。ちょっと、ミネルバ、大丈夫?」


 いや、マリシア。その、赤がね。いや、何故、赤い薔薇の花束を持って、よりによって今、オルツァーさんが登場したのかと。

 何本持っているのか知らないけれど、これじゃあまるで、私にプロポーズしに来たみたいに見えるのですけど?

 誤解されるよ、オルツァーさん。


「へ?ミネルバ?ミネの事ですよね?あれ?」


 当のオルツァーさんは、何故だか、すっとんきょうな顔でそう言い、皆を見回していた。





「くっそー、あの女、腹いせに、ミネに買った薔薇をメチャクチャにしやがって」


「お客さん。ピンクの薔薇は売り切れです。申し訳ありません」


「あー、じゃあ、黄色?それともオレンジか白?」


「何言ってるんですか、お客さん。プロポーズですよね?プロポーズなんでしょう?」


「そうだよ、にいちゃん。何言ってんのさ。プロポーズっつったら、赤い薔薇だよ!ほら、108本だよ!赤は他の薔薇よりもちょっとお高いけれど、それくらい、払えんだろ。騎士団長さんなんだから」


「お、おう。そうか?赤い薔薇なのか?」


「あんた、キレイにリボンも掛けて渡してやんな」


「はいよ、お前」





 ピンクの薔薇も良いけれど、やはり、赤い薔薇かなーと。

 とにかく、花屋のご夫婦が気を利かせて、赤い薔薇をオルツァーに持たせました。



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