拾いたくもないので、元いた所に送り返す事にした
読みに来て下さって、ありがとうございます。
オルツァーを訪ねて来た女は、お察しの通り、今まで名前だけ出てきたあの女です。
オルツァー side
そいつは、騎士団の応接室で澄ました顔をしてお茶を飲んで、小さなメイドのデイジーをネチネチと苛めていた。
「これはこれは、オベロン嬢。妙な所で会うな」
私はデイジーに目で合図をし、部屋から下がらせた。デイジーに何かあったら、デイジーの兄のジグナムが黙ってないし、ジグナムが臍を曲げると、騎士団の書類作業が壊滅する。
今、騎士団の書類作業はジグナムでもっているみたいなものだ。
「あら、エルミラと呼んでくれないの?いつも私の事を名前で呼んでくれるじゃない。薔薇も私の為に用意してくれたのでしょう?でも、お忘れかしら?私は赤い薔薇が好きよ。この髪に付けている様な赤い」
「次期侯爵に買って貰え。これは、お前のじゃない」
私の抱えたピンクの薔薇の花束を、エルミラが物欲しそうに眺める。
花束は私の手から離れ、そっと部屋の隅のサイドテーブルに大事に置かれた。
この女は、昔からそうだった。婚約者だった私がプレゼントを用意すると、散々文句を言うくせに、目は物欲しそうにジッとそれを見ているのだ。
厭な目だ。今も昔も、この目が嫌だ。
「あの男が、私に何か買うわけないでしょう」
そう言いながら、エルミラは澄ました顔で、新たに入れられたお茶を飲む。
「それで、態々こんな辺境の地に何の用だ」
「貴方と結婚してあげようと思って」
エルミラの言葉に、私は咄嗟にドアを見た。追い出すか、いや、窓から放り投げた方が早いか。
「本当に、ここには女は年寄りと小さなガキしか居ないのね。貴方も身体をもて余してるんじゃなくて?
だから、私が貴方と結婚してあげるわ」
1人で来たのなら好都合だ。袋に放り込んで、ちょっと森まで馬を走らせて捨ててくれば良い。
後は、魔獣が跡形もなく始末をしてくれる。
「エビアンは、どうした」
急に自分の兄の名前が出てきて、エルミラが怪訝な顔をした。
「エビアン?お兄様に何の関係があるの?」
「聞いてないのか?私に関わるなと言われなかったか?」
エルミラの顔が不機嫌そうに歪む。言われては、いるようだな。
それでも、ここまで乗り込んできたか。
「貴方に関わるな、領地に引っ込んで修道院に行けと言われたわね。馬鹿馬鹿しい。逃げてきたわよ」
「エビアンに連絡してやろう。迎えが来るまで大人しく部屋にいろ」
「あら、そんな必要は、なくてよオルツァー。貴方は私と結婚するしかないもの。ほら、こうして悲鳴を上げれば、いくら貴方でも騎士団長の地位は惜しいでしょう?」
エルミラは、ただでさえ胸が見えそうだった自分のドレスの胸元を破き、胸をあらわにし、悲鳴をあげようとして、目を見開いた。
「痴女かよ、この女は」
「お兄様。口が悪いですよ。お嬢様の前では、絶対にそんな言葉を使わないで下さいね」
「だ、誰?いつの間に」
慌てて自分の胸を隠すエルミラを、2人は面白そうに見た。
やはり、エルミラには、2人が見えてなかったらしい。エルミラは、魔力も余りないからな。
「ずっと、居ましたよ。誰が、騎士団長の薔薇を受け取ったと思っていたんですか。何処の誰かわからないお客様を1人で部屋に残すとお思いでしたか」
執事見習いの服を着た少年が、ニッコリとエルミラに微笑んだ。目が笑ってないぞ、目が。
「小さなメイド見習いが、1人でお客様をおもてなしする訳は、ないでしょう?彼女が退室した後に、誰があなたにお茶のお代わりを注いだと思っておられたのですか?」
少年に似たメイドの少女が、蔑む様にニヤリと笑って、エルミラのカップに、もう一度お茶のお代わりを入れる。
相変わらず、ハジェスは自分の気配を殺して姿を隠すのが上手い。そして、その妹のジェンナも同様のようだ。
「オベロン嬢。お前、何度も私を自分の元に無理やり連れて来させようとして、男達を雇っただろう?その中にデザリスタの密輸業者がいてな。お前の父親のオベロン男爵がそれを基に脅されて、本人も知らない内に密輸の隠れ蓑にされてたんだ。
去年、うちの騎士団が潰した密輸団にお前の父親の名前があったんだが、実際は密輸とは関係なかった事は取り調べてわかった。だが、名前があがっているので無実とするわけには、いかなかった。
代わりにお前の父親は引退してエビアンに家督を譲り、その元凶であるお前を領地の修道院に入れる事が決まった。
お前が産んだ侯爵の跡取り息子の為に、侯爵がお前の経歴に傷を付けたくなかったらしい。侯爵が、直々に、私に国への口添えを頼みに来た」
エルミラは、私を睨んだ。
何故、私が睨まれるのか。あの時に捨てられた私の方が、被害者だろう。もう、私の人生に関わらないで欲しい。
「私を陥れようとした罪で牢屋に入るか、大人しく部屋に監禁されてエビアンを待つか、どちらか選べ」
「1人で来たんだから、1人で帰るわよ」
私が差し出した選択肢に、エルミラはわなわなと怒りながら言い返した。冗談じゃない。確実に帰って貰わないと、また何をしでかすやらわかったもんじゃない。
「ああ、そんな事は、どうでも良いんです。
これからが、本番です。私から貴女への罪状を申し上げましょう。貴女、ここへ来る途中で畑を踏み荒らしたそうですね」
「畑?ああ、真ん中に赤い花が咲いてたから、摘んで髪に差そうと思ったのよ。ちんけな花だけど、何もないよりは、マシかと思って。お陰で、私のドレスに少し土埃が付いてしまったわ。
でも、何?私をここまで案内した黒っぽい緑の髪のみっともない女が、何か文句を言ってたわけ?」
「黒っぽい緑の髪の……お前、ミネに何かしたのか」
咄嗟にエルミラに掴みかかろうとした私の腕を、いつの間にか私の隣に移動していたジェンナが押さえた。ちっ、無理やり動くとジェンナに怪我をさせるか。
「畑のお手伝いをしているご老人から咎められて、すぐに出られた様ですが。その髪に差しているその花を盗まれましたね」
「たかが花一輪でしょう?」
ハジェスの問いに、事も無げにエルミラが言う。
それは、ヤバい。あの畑は。
「私の主が大切に育てた花を、たかが花一輪とは。まったくもって、赦しがたい。ですが、私は主より殺人を禁止されている身。このまま、この女、袋に放り込んで森に捨て、魔獣か魔物に始末させましょう」
ハジェスから魔力が漏れ出す。ジェンナは……おい、止めろ。私の腕が折れるからな、力を込めるな。やるんなら、エルミラをやれ。
どうりでこいつらが部屋にいると思ったら、そう言う訳か。
「エルミラ・オベロン。お前が荒らした畑、そして盗んだその花は、王太子殿下の婚約者のイースタン公爵令嬢が育てた花だ。
選択肢は無くなったな。牢屋に直行だ」
「はぁ!?何言ってるの、オルツァー。たかが、ちんけな花一輪じゃない」
「余程、命がいらないらしいな」
ハジェスの笑顔が歪んだ。ジェンナは口を開けてエルミラに鋭い歯を見せつける。
エルミラ、ハジェスを煽るな。そいつは、私よりヤバい奴だぞ。いいから、大人しく牢屋に入っていろ。
「え?あのお花を髪に差したの?」
「そうなんですよ、ベルリーナ様。知らないって恐ろしいですね。私も注意しようと思ったんですが、あの女の人が一方的にどんどん話されるので、つい言い忘れてしまって、可哀想な事をしました」
「あのお花、脱毛剤の材料でしょう?」
「はい、そうなんです。特にベルリーナ様の育てられた花はスゴい効き目で。長い時間、髪に差しておられましたし、花も大きいですから、10センチ位のハゲが出来るかと」
見知らぬ花に手を出しては、いけません。花泥棒は、罪です。




