あなたには、関係ないと思いますが?
読みに来て下さって、ありがとうございます。
オルツァーが町に出かけたその隙に、そいつは、やって来た。( ゜Д゜)ノ
「ねえ、そこのあなた。騎士団長が何処にいるか知らないかしら?」
研究材料の蜂蜜を切らしたので、ジルバさんの小屋へと向かう途中で、私は女の人に声をかけられた。
「そう、あなたよ。ぼーっとしてないで、さっさと返事をしなさい」
ぼーっとしてしまったのには、訳がある。だって、砦でこんな真っ赤でド派手なドレスを着た女の人を見かけたのは初めてだったもの。しかも、薬草畑のすぐ側で。
こんな場所でそんな綺麗なドレスを着ていると、土埃で汚れますよ?
「まったく、気が利かないったら。ほら、さっさと騎士団長のオルツァーの所に案内して頂戴。こんな所に立っていたら、せっかくのドレスが汚れてしまうわ」
同感です。はぁ。それにしても、この人はオルツァーさんに何の用なんだろう。
「この砦にも、若い女の子がいるのね。掃除婦?小間使い?お肌や髪の毛の質はキレイだけど、その髪型と服を何とかしないと、お嫁に行けないわよ」
そー言えば、試作品作りで邪魔になるからと、今日は適当に髪を三つ編みにしたんだっけ。
「シミの付いたエプロン、焦げ付いた流行遅れの服。若いんだから、もうちょっとマシな格好しないと、私みたいに、いい男を捕まえれないわよ」
隣を歩いていた赤いドレスの女は、やたら胸元の開いたドレスで胸を張り、フフンと鼻で笑う。
ああ、そー言えば、試作品作りの最中に袖口を少し焦がしてしまったんだっけ、シミは、染料が飛んだのかな。着替えてから来れば良かったなぁ。ちょっとすぐそこに蜂蜜を貰いに行くだけだったから、そのまま来ちゃった。
「まあ、でも胸も私程じゃないけれど大きいし、スタイルもいいから。ちょっとキレイな格好をすれば、その辺の騎士見習いなら捕まえれるかもね。
私みたいに、イケメンの騎士団長を捕まえるのはムリでも」
派手な真っ赤な唇に片手の指先を近付け、赤いドレスの女は、私を横目で見る。
嫌ぁな女。まあ、でも、派手だけれどキレイなのは事実。年の頃は、30歳近いみたいだけれど。
ところで、イケメンの騎士団長って、誰だっけ。
「ねぇ、あなた。オルツァーには会った事があるのでしょう?騎士団長のオルツァーよ。彼、いい男でしょう?」
ああ、オルツァーさんの事ね。オルツァーさんは、まあ、イケメンといえばイケメンよね?
女の目が、いやらしそうにひかり、口の端がニヤリと上がる。私は、女から顔を背けて、前を向いた。
私は、女の口からオルツァーさんの名前が出るのが嫌だった。
「ダメよ。あなたでは、ダメ。あれは、私の男なの。
あなた、オルツァーに気があるのでしょう?私がオルツァーの名前を言ったら、顔色が変わったもの。
高々、平民の雑役婦が私のオルツァーに色目を使わないでね。
あら、私は親切で言って上げているのよ。あなたが、ムダな夢を見ない様に」
嫌ぁな女。オルツァーさんには、勿体無い。オルツァーさんには、もっと……もっと……いい女が似合う。
優しくてキレイで、おしゃれで背が高くて……私には程遠い、そんな女の人。
「オルツァーは貴族よ。私みたいに、貴族の令嬢で、極上の女じゃないと彼には不釣り合いよ。諦めなさい」
畳み掛ける様に、女は話を続ける。髪をかき上げ、オルツァーさんから貰ったと言うピアスをこれ見よがしに見せつける。
ふーん。オルツァーさんはこう言うタイプが好きなのか。ふーん。
心が、どんどん冷えていく感じがした。
「私達、結婚するのよ。もう、随分前から決まっていたの。あなたは、オルツァーとどうやって知り合ったのかしら。オルツァーは誰にでも優しいから、声を掛けて貰ったとか?それとも、嫌な男から助けて貰った?
ああ、でも、あなた位の容姿じゃあ、その嫌な男でも我慢しなきゃねぇ」
嫌ぁな女。嫌ぁな女。
でも、何も言ってやらない。オルツァーさんとの思い出を汚して欲しくないから。あなたには、何1つ教えて上げない。
私達の思い出は、何1つ、あなた何かには、あげない。
「あ、魔女さん。こんにちは。どうしたんです?オルツァーさんなら、お留守ですよ」
私達は、いつの間にか騎士団の建物近くまで来ていたらしく、騎士見習いのジグナム君と、同じく騎士見習いの、えーと、ケグレブ君だっけ?が私達に気がついた。
「あら、素敵な騎士見習いさん達ね。私は、騎士団長のオルツァーに会いに来たのだけれど、お留守なの?」
ジグナム君達は、「ええ」とか「まあ」とか言って言葉を濁した。
場違いな赤いドレスをいぶかしんでいるのか、それとも女の外見の良さに騙されているのか。特にケグレブ君の目は、女の大きな胸に吸い寄せられている。
うん、まあ、大きいよね。確かに。
「ほら、ご覧なさいな。これが私への評価よ。ねえ、格好いい騎士見習いさん達、私とこの子、どちらがいい女だと思うかしら」
ジグナム君とケグレブ君は、流石に怯んだ顔をした。
うん、普通の人は、初対面の人に、そんな事を聞かないわよね。この女の人は、本当にオルツァーさんの恋人なのかな。だんだん怪しくなってきた。
「え、まあ、お二人共、キレイですよ?胸もどちらも同じくらい立派、痛てっ!何するんだよ、ジグナム」
ゴン!っとスゴい音がして、ジグナム君がもうケグレブ君の頭を拳骨で殴り、ケグレブ君は痛さのあまり頭を抱えた。
「お前、最近、どんどん容赦がなくなってくるなジグナム」
「勿論、薬の魔女さんの方が、優しくてキレイで魅力的ないい女です」
ジグナム君は、優しいね。ありがとう。お世辞でも、嬉しい。
「ふんっ。高々、騎士見習いのこんな坊や達には私の良さがわからないのよ。まったく、失礼ね。
その点、オルツァーは大人の女の魅力がわかるいい男だし、私に優しいわ。年々、益々いい男になって。お前の様な小娘なんて目じゃないわ」
「オルツァーさんは、誰にでも優しい人なので、あなたにも優しいんですね」
私がそう言うと、女は心底嫌そうな顔をした。ふーん。図星か。
女の顔は、どんどん険しくなっていき、怒りで赤く染まる。
「お前みたいな小娘に、何がわかるってのよ。オルツァーが、お前みたいなチビを相手になんかする訳ないじゃない。自惚れてるんじゃないわよ。
オルツァーは、私の様な、いい女と寝たがるのよ。お前の様な乳臭い小娘と、結婚なんかしないわ」
「それは、そうですね。オルツァーさんは私を養女にしたいと言ってますから」
私の言葉に、ジグナム君達がギョッとして目を大きく見開いた。まあ、そうよね。いくら身寄りが居なくなったからって、既に大人の私を養女になんて、本当に、オルツァーさんは何を考えているのやら。
「あ、あら。養女に?そ、そうなのね。そう、そうしたら、私はあなたの母親になるのかしら。あら、ごめんなさいね。まあ、私がオルツァーと結婚したら、あなたを着飾らせてキレイな女の子にしてあげるわよ。そして、私の知り合いの令息に紹介してあげてよ?」
女は、慌て取り繕い、ニヤニヤと笑って私の全身を見回した。
気分が悪い。機嫌も悪い。オルツァーさんの趣味も悪い。この女がオルツァーさんの恋人なら、オルツァーさんの女の見る目も悪い。悪すぎる。
「と、とにかく。後は、僕達がこの方を案内しますので、魔女さんは、仕事に戻られて下さい。お忙しいのでしょう?」
ジグナム君は、そう言って私に微笑むと、赤いドレスの女をギロリと睨んで、慇懃無礼だけど丁寧に騎士団の建物の中に案内した。
ふんっ。オルツァーさんの莫迦。赤いドレスなんて嫌い。
私は、この日、赤が大嫌いな色になった。
「ヤバい、ヤバいぞ。ジグナム。いや、好都合か?ここで一気に魔女さんと団長を引き離して、私の魅力を魔女さんに」
「ケグレブ。もう一発、その莫迦な事を考えている頭に拳を落としておこうか?」
「お前だって、そう思ってるんだろうが」
「後、今日みたいな下品な話を私の妹の前でしようものなら、もう何発か追加するからな。しっかり覚えておけよ、ケグレブ」
2日に渡って書いていたので、長くなってしまいました。
女の正体は、次回のオルツァー視点で。
ジグナム君とケグレブ君は『元魔王な令嬢は、てるてるぼうずを作る』と『元魔王なちび令嬢は、今日も元気です』に登場しています。




