ミツバチ達の飛行曲
読みに来て下さって、ありがとうございます。
お久しぶりの人が、ちょこっと出てきます。
武器庫の扉の隙間から侵入した蜜蜂達が、ジルバさんの元に帰ってきた。
「ああ、ありがとう、お前達。
魔女様、蜜蜂が言うには、どうやら誰かが、ここで、剣やら何やらを物色している様ですよ」
蜜蜂が何て言っているのかは、私には判らない。だが、ジルバさんには判るらしい。ジルバさん曰く、ベルリーナ様の育てた花の蜜を体内に取り込んだ蜜蜂達は、身体の大きさや外見に変化はないが、すばしこく、魔獣の蜜蜂達並みに頭が良くなっている為に意志疎通が図れる様になったそうだ。
「まあ、武器庫と言っても、普段使わない槍やら弓矢、剣の類を仕舞って置くだけの場所ですからね。騎士達は、自分の剣は、きちんと自分で管理してるはずです」
ああ、そう言えばオルツァーさんも、どれだけ酔っぱらっていても、どんな時でも、自分の剣だけは手の届く範囲にかならず置いていた。
それにしても、何?何?武器庫に入ったのは、ただのこそ泥なわけ?
『障壁反射』
魔術を唱えながら扉を開けると、部屋の中から飛んできた幾つものナイフが私の身体の周囲に張られたバリアーに弾かれ、元来た方へと飛んでいく。
私に向かってナイフを投げた武器庫への侵入者が、それを全て手に持ったもう1つのナイフで打ち落とし、拾い上げる。
これじゃあ、駄目か。
『吸着回収』
再び飛んできたナイフは、私の周囲に張られた膜に刺さり、私の手の中にあった袋に勝手に入っていった。
これは、かつてのバイトで研究塔内に教授達の研究に使用した虫や鳥が逃げた時に捕獲するのに重宝した魔術。カウマン教授は、この魔術を『ハエ取り紙の魔術』と呼んでいた。失礼な。
「なあんだ。俺の相手は、お嬢さんと、じじいか。それにしても、お嬢さん。俺の投げたナイフを全部回収するなんて、中々面白い魔術を使うな」
お褒めにあずかり、光栄ですとも。
「だが、生憎ここは武器庫だ。飛ばせる物は、いくらでもあるぞ」
苦無、打根、礫、手斧。この男は、投擲武器がお気に入りらしい。
まあ、こんな所狭しと武器が置かれている部屋では、剣や槍を振り回すスペースは無いか。
私は、投げられた物を『吸着回収』しながら、侵入者の元へと近づいて行った。
「大体、どうしてこの部屋に潜り込んだの?」
「人手をかき集めれば、武器が必要になるだろう?ある計画があってね。ちょっと人手不足なのでここの牢から補充しようかと思ったんだよ。俺は、武器調達係だ」
私の問いかけに侵入者が答えた。
いい迷惑だ。
人材を、かき集めるのなら、冒険者ギルドにでも行けば良いのに。お金さえ払えば、武器付きで人員が手に入る。
まあ、そのお金も無いのかもしれない。テザリスタの色んな組織をオルツァーさん達の騎士団が片っ端から潰していったもの。
けれども、どれだけオルツァーさん達が組織を潰しても、後から後から彼らは湧いて出てくるのだ。
「あ、痛」
「流石に魔力が尽きたか?」
飛んできたマキビシが1つ床に落ちた。
私は、床に屈み込んで床に手を着く。
「おい!何だ?」
私の頭上で、ブンっという音がする。
続いて違う方向からも、同じ様に音がする。
侵入者は、自分の目の前や、耳元、頭の周りを手で払うが、手応えが無い様でイラついている。
「おい、何が飛んでる。虫か?おい、止めろ。クソッ、クソッ!」
侵入者は、次々と自分の周囲に聞こえる羽音に苛立ち、手を振り回し、グルグルと回りながら踊る様に移動する。
ジルバさんの蜜蜂達に侵入者を任せて、私はジルバさんの元へと少し下がった。
「う、わああぁぁ」
悲鳴が上がり、侵入者が姿を消した。
「魔女様。この穴は……」
床にポッカリ開いた黒い穴に、ジルバさんが恐ろしいモノでも見る様に恐る恐る指を指した。この穴は、先程、私がわざと床に手を着いた時に開けた穴。
あの時、手に持っていた鍵を床の上の何もない空間に差し込み、クルリと回した。ただそれだけで、この穴が現れた。
私は、手に持った鍵を今度は黒い穴に差し込み、クルっと回す。
これで完了。
穴は消えて、後には元通り床が存在している。
「蜜蜂達は、巻き込まれてない?」
「え、ええ。それで、何ですか?先程の穴は。僕には、何もない闇の様に見えたんですけどね」
まあ、何もないと言えば何もない。これは、アレグサー教授の研究の産物だった。
空間に向けて鍵を回すと、そこがアレグサー教授の作った空間に繋がる。空間と言っても、実際は小さな部屋の様なモノらしい。
私が教授の下でバイトをしていた頃に教授が作ったソレは、そちらの空間とこちらの世界の壁が薄く、何匹もの水豚を閉じ込めれば彼らの水魔術で壁を破られ、火蜥蜴達を閉じ込めれば彼らの魔術の炎に焼かれて壁を破られていた。
この度、ありとあらゆる攻撃に耐えうる空間の小部屋が完成したらしい。アレグサー教授は人体実験をしたがっていたが、当然ながら希望者は、未だにない。
教授はレガスさんと、今朝方、いつもの如く、研究塔と私の小屋を繋げて私の作る商品を買い付けに来た。
「ミネルバだったら、使う機会もあるだろう?機会があれば、使ってくれ」
と件の鍵を置いて教授は帰って行った。相変わらず、恐ろしくタイムリーな人だ。
「と言う事は、これを使えば、誘拐が、し放題ですね」
いや、ジルバさん。これを作る以前から、教授は誘拐し放題だったからね。
「あ、おい、アレグサー。チャイムが鳴ったぞ」
「早速、ミネルバが例の部屋に、お客さんを入れてくれたんだね。どれどれ」
「おい、止めておけ。鍵を開けるな。部屋を覗くな。相手は犯罪者だぞ。
どうしても気になるんなら砦に行って、向こうから鍵を開けろ」
「でも、ちょこっと出しておいて、違う鍵で作った部屋に入れておけば、後々、実験が必要な時に被験者として使えるんじゃない?」
「1度めは、過ち。2度めは、犯罪だからな。止めておけ。俺に、迷惑をかけるな」
相変わらず、アレグサーに振り回されるレガスです。




