ああ、少なくとも君は私の側に居る
読みに来て下さって、ありがとうございます。
今回は、オルツァーさん視点です。
オルツァー side
デザリスタとの共同戦線を終えて砦に戻ってきた私が、砦の事件のあらましを聞いて、慌ててミネを探しに行くと、ミネは魔樹に掛かったハンモックで、ぐっすりと眠っていた。
「ミネ、ミネ。おい、魔樹。どうして、ミネをこんな処で寝かせているんだ。風邪を引いたら、どうする。
ほら、蔓をほどいて、ミネを私に返せ」
魔樹は、知らん顔だ。
色々と魔樹に話しかけて、ミネを返して貰おうとしたが、埒が明かない。
「わかった。取り敢えず、用を済ませてくるから、それまでミネを頼む」
ミネは、疲れたのか、ただ熟睡している様だった。可愛い寝顔は、かつて一緒に旅した頃と違って少々大人びたが、懐かしく、後ろ髪を引かれながらも私は仕事に戻った。
何度もミネを守ってくれた魔樹だ。奴の側に居るのが、今は一番安全かもしれないしな。
そう思った事もあったが……。
私が急いでエルディアナ様への報告を終えて戻ってきても、魔樹は私にミネを返してくれなかった。
「判った、判った。ああ、もういいよ。私もここで寝るからな。お前の幹を貸してくれ」
私はミネの顔に掛かっている彼女の髪をそっと手で払い除けてやると、大人しく魔樹の根元に座り、幹に身体を預ける。
ミネの大叔母の薬の魔女のばーさんが、私に言った言葉を思い出した。
『自分の愛する者が、目の前で消えた事が、お前のトラウマになっているんだよ』
ああ、ミネは、ここにいる。少なくとも、私の側に居る。いつかの様に消えて居なくなったりは、していないのだ。
さやさやとそよぐ風が吹き、魔樹がまるで子守唄を歌ってくれるかの様に、枝葉を鳴らす。私は、いつの間にか本当にミネの眠るハンモックの下で眠っていた。
とうに昼を過ぎた頃に起きたミネは、元気に八咫烏と喋り、一悶着あった末に、私の腕の中に落ちてきた。
「おう、やっと返してくれたか魔樹よ」
またもや魔樹に取られない様に、私はミネを抱いたまま食堂へと移動した。ミネは、軽い。もう少し、沢山食べた方が、身体に良いかもしれない。まあ、胸はちゃんと育っているみたいだけれどな。
途中、一悶着あり、ミネを地面に下ろして歩かせたが、ミネをジロジロと物欲しそうに見る奴らに牽制する為もあって、ふらつくミネを再び抱いて移動し、食堂に入って、椅子に座らせる。
昨夜の事件で疲れたとは言え、ミネは食事もせずに眠っていたので、とにかく心配だ。
ミネにサンドイッチとお茶を勧め、彼女が食事を終えるまでは、話をしながらも一挙手一動を見守り、更には私の執務室まで運ぶ事にした。
執務室には、副団長と叔父上というお邪魔虫も居たが、仕事があるので、仕方ない。2人と私とミネで、昨夜の砦での事件について話し合う事になった。
それにしても、まったく、デザリスタの奴らときたら……おっと違った。デザリスタの第2王子一派だったな。
とにかく、町に潜伏していたその魔術師は、私と砦の騎士団が砦を出て決戦に赴いている間に(実際は後方支援、後始末部隊だったが)、砦に入り込んだ。
どうやら第2王子一派は、その魔術師に命令し、砦に収監していたデザリスタの罪人達に怪しい薬を飲ませて、砦を混乱に陥れ、泡よくば、そのまま後ろから戦場にいる筈の騎士団を襲おうと画策していたらしい。
フフン!砦を舐めるな!
こっちには、うちの賢くて可愛くて美人でスタイルも良くて性格も良くて料理も上手くて優秀で……とにかく、そのミネと元騎士団長の叔父上が率いる手練れのじい様軍団、そして、ベルリーナお嬢様の残した魔樹が居るのだから。
まあ、騎士見習い達も居たが。一応。
副団長と叔父上を伴い、私とミネが魔術師の侵入経路を探すに当たって、ミネが魔樹を説き伏せ、魔樹の蔓に自分の魔力を与えて協力させたのには、驚いた。
時折、ミネの行動は大胆で危なっかしい。魔樹は信用しているが、魔物に魔力を与えるのは、少々自殺行為に思える。
だが、その姿はキリリとして、自信に満ちていて、見ていて眩しい。
1つ目の侵入経路の穴を見つけた所で、私とミネは再び2人きりになったので、最近の私に関するミネの大いなる誤解について話し合おうとした。
例えば、ミネがやたらと私に『お嫁さん』を貰う事を勧めて来る事についてだ。
私は、ミネ以外に目を向けていないと言うのに。
話し合おうと意を決した時に、砦の外壁の穴に詰まっていた莫迦が居た。
そいつは、デザリスタの間者で、食堂の賄いの旨そうな匂いにつられて、賄いをコッソリ食べている所を、猫のぬいぐるみに追われて穴まで来たものの、穴に詰まったらしい。
まあ、うちの料理は旨いからな。食べ過ぎても可笑しくはない。だが、私とミネとの一時を邪魔した罪は、重い。
取り敢えず、牢屋に突っ込んだ。
牢屋に居た他の罪人達は、ミネが治したとは言え、薬を飲んだ奴の末路を見て恐れをなし、
第2王子と側妃を初め主だった一派が捕えられたのを聞くと、前にも増して大人しくなった。
昨夜、牢屋に潜入してきた魔術師は、ミネが治療しようと近づくと、泣き叫んで赦しを乞い、計画の全てを吐いた。
「オルツァーさん、言っとくけど、あの魔術師が怖がってるのは、魔樹の人参果のせいだからね」
いや、ミネの可愛さにひれ伏したのだろう。
「そう言えば、オルツァーさん。私に話って、何?」
「あー、その、なんだ。私に嫁を斡旋しなくていいからな」
「でも、まあ……そうか。こういう事は、人がとやかく言う事じゃあないよね。ごめん」
「いや、そうじゃなくてな」
「あっ!こんな所にも、まだ穴が!!誰かが頭を出して……って、つるぎ姉!?何、やってるの」
「え!?嫌だ、もう。ミネったら、目敏いんだから。私、コッソリ2人の話を聞いてたんじゃない……からね?」
ちゃんと言い出せないオルツァーさん。皆の邪魔が、これ以上増える前に、頑張れ。




