一体全体、何が起こったのやら
読みに来て下さって、ありがとうございます。
時々ラブストーリーを見失う作者です。
食堂は、昼食時間が終わったので、閑散としていた。そう、閑散と。いつもなら、昼食時が終わると、誰も居ないのに、今日はチラホラと何人かが食事をしている。珍しい。
「昨日の今日だからな、料理人達がサービスでサンドイッチを用意してくれているんだ。ほら、ミネの分だ」
ふらついていた私の分のサンドイッチまで、オルツァーさんが取ってきてくれた。
レタスとハムとチーズを挟んだだけのサンドイッチだけれど、それが妙に美味しい。
「昨日は、大活躍だったんだって?それで、疲れてふらついているのかもしれないな」
「多分、これは変な体勢で眠ってたせいだと思います」
確かに私は、あの時は疲れていて、小屋にたどり着いた途端、崩れ落ちる様に眠ってしまったけれど。
魔樹は、親切で私を蔓で包んで木の上に寝かせてくれて。
でも、ほら、魔樹は人間じゃないから人間が眠る正しい姿勢が判らなかったらしい。ちょっとばかり変な体勢で蔓で包まれたので、私の足が痺れてしまっていたのだ。
よく考えたら、魔樹は、いつも捕縛しかしてないしね。とにかく、縛っときゃ落ちないだろうと思っているのかも。
「まあ、色々あってな。後始末が終わったのは昼前だったんだが。何人か客が増えた。デザリスタのお姫様と侍女が2人、侍女の内の1人は元々グリーナリーの魔術医だ。後、デザリスタの王弟で、魔術医の恋人。
一応言っておくが、デザリスタのお姫様とベンデンは恋仲だからな」
と言う事は、オルツァーさんのお嫁さん候補は、残った侍女さん。
「判りました」
「もう1つ言っておくが、残った侍女も、私の好みじゃないからな」
何だ。違うのか。オルツァーさんのお嫁さん候補、中々いないよね。
昼食を終えた私達は、オルツァーさんの執務室へと移動し、副団長さんとオルザインさんを交えて、昨日の件について言及され、そのまま皆で現場検証と賊の侵入経路について調査する事になった。
何しろ、私と行動を共にした相棒は、喋れないので。魔樹は、動けるクセに、昼間は普通の橘の木のフリをしている。人参果の実さえも、橘の実のフリをしている。
その橘の実は、私達の食卓にも並ぶのだけれど、誰からも苦情が出ない所を見ると、普段は本当に橘の実らしい。どういう原理になっているのか、1度調べてみたい。
「痛っ!」
「大丈夫か、ミネ」
「ちょっと、橘の実が落ちてきただけ。大丈夫」
オルツァーさんが心配してくれたけれど、おそらく、魔樹は私が変な事を考えていた事を察したんだと思う。
魔樹は、完全に無害な橘の木のフリをして、突っ立って、風に吹かれて葉を静かに揺らしている。
「ねえ、魔樹。手伝ってよ。手伝ってくれたら、ベルリーナ様に『魔樹が手伝ってくれたので侵入者が入ってきた場所が判りました。魔樹は、素晴らしく賢い魔樹です』と伝えてあげる」
魔樹の弱点は、ベルリーナ様だ。ベルリーナ様が到着すると、その日の内に魔樹が走ってきて、自分で穴を掘って、ここに生えたらしい。
ベルリーナ様が頼めば、蔓でブランコを作ってベルリーナ様や王太子殿下を乗せてやっているし、ベルリーナ様の為に橘の実を蔓で捥いでやる。
そして、ベルリーナ様はと言えば、
『魔樹は、私のペットなの』
と、仰る。
さて、私の魔法の言葉『ベルリーナ様』が効いたのか、魔樹から蔓が伸びて私の手首に絡み付き、ブチッと自ら切れた。
「ミネ!」
「大丈夫ですよ、オルツァーさん。まあ、ちょっとばかり魔力は吸われますけれど」
蔦は、先端をヒョイと私の方に向け、まるでお辞儀をするかの様に、ヒョコヒョコと踊った。
この蔓は、魔樹の一部じゃない、魔樹の共生体だ。
蔓は、ピッと砦の壁の方角を指すと、私の手首をクイッと引っ張った。どうやら、私達を何処かへ案内してくれるらしい。
「ミネちゃん、気を付けろよ。ドワーフ達が、そいつをえらく怖がっていたぞ。何でも、以前、そいつと同じ種類の奴に魔力を吸い取られて囚われた事があるらしい」
確かにオルザインさんの言う通り。蔓は、私から少しずつ少しずつ魔力を吸収して、それを使って、魔樹から得た情報を元に、隠遁魔術で砦に入ってきた魔術師の魔術の残滓を探しているのだ。
「昨夜の件で、魔樹のくれた人参果が、隠遁の魔術を使う魔術師を噛みました。魔樹は、その時に魔術師の生体情報を得たんだと思います」
恐ろしい話。魔樹は、魔獣等とは違い、八咫烏の様な魔物なのだ。それをペットと呼び、龍に主と呼ばれる5歳の小さなご令嬢。
心して共同事業を進めないと、こちらが食われて取り込まれてしまいそう。勿論、比喩だけど。
やがて、私達は、砦の壁の傍の草むらに隠れる術式の書いてある握りこぶし大の平たい石を見つけた。
「認識阻害の術式ですね」
森の小屋に私が仕掛けたモノと同じ様な術式が使われている。それを退けると、壁の下側に人が這って通れそうな穴が開いていた。
「チッ。こりゃあ、下手すりゃ、他にも入り込んでる奴がいるかも知れねえな。どうする?オルツァー」
「叔父上は、この件をエルディアナ様に報告し、修復作業班をこちらに寄越して下さい。副団長は、ここに残って、この穴を見張ってくれ。
私とミネは、このまま壁を一周して、他にも穴が開けられていないか探してみます」
オルザインさんは私達から離れ、私達はそのまま蔓に導かれて更なる壁の穴を探して歩いて行った。
「オルツァーさん、気のせいか、少し機嫌が良いですね」
「何か、二人きりだなぁと思ってな。なあ、前からミネに言おうと思ってたんだが」
「二人きりって……あ!オルツァーさん。あの辺りから反応があるみたいです」
「おい、ミネ。先に1人で行くと、危ないぞ」
「わぁっ!オルツァーさん」
「どうした!ミネ」
「誰か、穴に詰まってます」
「た、助けてくれ」
「おう!お前、私がミネに肝心な話をしようと思ってるのに、よくも邪魔してくれたな」
そろそろ、ちゃんとミネと話し合いたいオルツァーですが、何故かいつも、邪魔が入ります。




