眠れる美女ならぬ、眠らされる私
読みに来て下さって、ありがとうございます。
「ただいま」「お帰り」な、お話です。
いつもの声がした。私を呼ぶ、優しい声が。
「ミネ、ミネ。おい、魔樹。どうして、ミネをこんな処で寝かせているんだ。風邪を引いたら、どうする。
ほら、蔓をほどいて、ミネを私に返せ」
何故か、押し問答をしている。
「判った、判った。ああ、もういいよ。私もここで寝るからな。お前の幹を貸してくれ」
優しい風が私の顔にかかる髪を撫で、離れて行った。私を包む何かが、ゆらりゆらりと揺れて、再び私を夢へと導く。
目が覚めると、重なる木の葉の隙間から、太陽が日差しを運んでいた。
……って、ここ何処。
「おう、起きたかミネ」
「あれ?オルツァーさん。お帰りなさい。向こうは、片付いたの?怪我はない?
で、何、これ」
私は、何故かグルグル巻きにされて木にぶら下がっていた。
いや、違うな、これ。ハンモックだ。ハンモックにグルグル巻きにされてるのか。
『魔樹が言うには、何かね~昨日の騒ぎ?が、あった後、フラフラとここに戻った貴女が、小屋のドアを開けながら寝ちゃったんですって。
魔樹はドアを開けるのは禁止されているから、蔓で寝床を作って、貴女を寝かしてたらしいわ』
黒い影が飛んできて、私のお腹に乗った。鴉?つるぎ姉か。ちょっと重いんだけど?
「何で、つるぎ姉が、ここに?つるぎ姉は『あたしは魔物だから』って、砦には一切、近寄らなかったじゃない」
『事情が変わったのよ。ここに居なきゃなんない事情が出来てね。それより、魔樹。もうミネは大丈夫だから、降ろしてやりなさい』
つるぎ姉は、カァと鳴いて小屋の屋根の上に飛び移る。
ぐぇっ。人を足場にしたわね、つるぎ姉。
蔓がスルっと一瞬で解けて、私は空中に投げ出され……なかった。
「おう、やっと返してくれたか魔樹よ」
オルツァーさんの腕の中に居た。
「よし、飯を食べに行くぞ」
このまま?恥ずかしいから、降ろして欲しい。
道行く騎士見習いや、砦で働く人達が、ぎょっとした顔で私とオルツァーさんを見る。オルツァーさんは、上機嫌で私をお姫様抱っこしたまま食堂へ向かって行った。
「オルツァーさん、私、ちゃんと歩けるよ?」
「フフン、牽制だ。牽制。いや、懐かしいな。ミネと出会った頃は、こうして、よく抱っこしたまま歩いたものだったな」
「今では、もう大きくなったし、重くなったから、降ろしていいよ?」
「まあ、大きくなったな」
そこで、どうして私の胸を見る?
だから、お嫁さんが来ないんだよ。
「いいから、降ろして」
「久し振りに、抱っこして歩けたのにな。まあ、いいか。お仕事から帰ってきたオルツァーさんを労って、手くらい繋いでくれよ」
私を下に降ろしたオルツァーさんは、ほれほれと、手を差し出した。
まあ、手くらい繋いでも良いけどね。
「まあ、聞いてくれよ。酷いんだぞ、私達は騎士団なのにな」
つらつらと興奮しながら話すオルツァーさんの話を要約すると、オルツァーさん達騎士団は後方支援だったらしい。騎士団なのに。
「まあ、一見の価値はあったな。何しろ、王太子殿下とアメリア様、セルマンがケルベロスに股がって、仮面の男爵の犠牲者を引き連れ、エルディアナ様が率いるワイバーン部隊が空を覆い……」
え、ちょっと待って。頭の整理が大変だから。
チビッ子2人とセルマン少年が、あの黒くてデカくて強面の3つ頭の魔物に乗って、人間より魔物に見える軍団を引き連れ、ワイバーンが空を覆い尽くしたって、ちょっととんでもない絵面だと思う。
「そこへ、デザリスタから逃亡してきたデザリスタの第2王子一派がやって来て、ケルベロスに乗った王太子達が突進した所に、デザリスタの第2王子を追って、龍のイカロスにエルフと共に乗ったベルリーナ様が飛んできて、全てを制圧したんだ」
ちょっと待って、ちょっと待って理解が追い付かないんだけど。
あまりの情報量に、私は頭がクラクラしてふらつき、そこをオルツァーさんに掬い上げられた。これは、お子様抱っこ。いや、これは、ちょっと待て!
「オルツァーさん、降ろしてよ!」
「いや、だってな。ほら、ふらついてたぞ。久し振りだな、この抱っこの仕方。今だと丁度……」
そう。そう。丁度、オルツァーさんの顔に私の胸が当たるよねっ!
だから、降ろして。嬉しそうにしてないで、降ろして。
「まあ、でも、ふらついてるしな」
「さっきの!さっきのお姫様抱っこの方が、数倍マシだから!」
仕方ないなぁ。と言いつつ、オルツァーさんは、私をお姫様抱っこしたまま歩いて行く。
これだから、オルツァーさんはっ!
残念なちょいイケメンなんなんだよ!
オルツァーさんは、先程にも増して上機嫌で鼻歌を歌いながら、食堂への道を、通りがかる騎士見習い達や騎士達に自慢気に、これ見よがしに歩いて行った。
「それにしても、エルフ……」
「あー、うん。何でも、ベルリーナ様が、落ちてたエルフを拾ってきたらしい」
「ベルリーナ様が拾ってきた……いや、それもだけれど、龍に乗ったベルリーナ様が、全てを制圧って、可愛さで?」
「いや、こう、手をパンっと叩いて『お座りっ!』て言ったら」
「お座り?」
「そう。全員、座り込んで、ワイバーンも空から降りて座って、騎士団の馬達も全部座り込んだから」
「だから?」
「私達も全員、馬からズルズルぺたりと落ちて、座り込んだ」
「何、それ?」
「威圧の魔術かな?強制の魔術?
立っていた王太子殿下とアメリア様に後で聞いたら、『慣れた』と仰っていたが」
「私は、あの可愛さには慣れないと思う」
時系列的には、今回は『元魔王な令嬢は、てるてるぼうずを作る』の186話~199話の裏話&翌日になります。
当時の事を振り返りながら書くのは、ちょっと大変です。( ;∀;)
騎士団が出ていくと戦争になっちゃうんで、騎士団はいざという時に備えて隠れて待機、ワイバーンや仮面の男爵の手下にされていた半分魔物になっている人達は『早朝のお散歩』という形で、そこに登場しました。




