留守番は、留まりて守るお当番です
読みに来て下さって、ありがとうございます。
ミネルバですから、お留守番してても事件は起こるんです。
嫌ぁな奴。嫌ぁな奴。
「デザリスタの未来の国王陛下が、お前達を待っていらっしゃる。
内側より崩して、我が軍に合流せよと。英雄として戻って来いと仰っていたぞ」
甘言を用いて、人を丸め込む。
『英雄』という甘美な言葉が、彼らに纏わり付く。
私とヘムスさんは、顔を見合わせた。こいつは、食わせ者だ。ロクな奴じゃない。
「おい、飲むな。止めておけ。ロクな薬じゃないぞ」
私が森の小屋で捕まえた魔術師の声が響いた。
身体強化の薬は、一過性の物が多い。薬が効いている間は良いが、薬が切れた途端に、それまで戦ってきた相手にやられてしまう覚悟が必要だ。
「なに、砦に残っているのは、ガキとジジイとばばあだけだ。ちょいと蹴散らしてやれば、蜘蛛の巣を蹴散らした様に逃げ惑うさ」
「薬の魔女は、手強いぞ」
魔術師は、押し殺した声で、私の事を言う。
「ああ、薬の魔女は連れて帰れと言われている。必要なんだとさ」
ヘムスさんは、私に目配せするが、私は首を横に何度も振っておく。
知りませんってば。何でこんなにデザリスタの奴らは、しつこく私を狙ってくるんだか、もう。
「英雄か、ここで朽ち果てるか、どちらかを選べ」
「飲む!俺が、飲む。飲んで『英雄』になって、第二王子殿下の元に馳せ参じる」
悲鳴が聞こえた。
誰かが、薬を飲んだ?
「先に行くんじゃねえ。私が、先に行く。犠牲は1人で十分だ」
「私の方が、薬に関しては、強いし」
「いや、魔女さんが行って怪我すると私がオルツァーに殺される。
私一人が行って死んでも、オルツァーは魔女さんを殺しはしないから、犠牲は私一人で済む」
どういう理屈なの?それ。
いいから、2人で行こう。
「確実に、オルツァーに殺されるな」
そこから、離れてよね。どれだけ、オルツァーさんが怖いのか。そう言えば、マイクの住んでた町の騎士団もオルツァーさんの事を怖がってたっけ。
良い人なのにな、オルツァーさん。何か誤解されてるのかも。
「おい。ヘイゲン。大丈夫か、ヘイゲン」
「お前ら、そいつに近付くな。おい。私達を先に牢から出せ。くそ、出せよ。やっぱり、あの薬を使ったんだろう」
私とヘムスさんが隠れ場所から出て牢の見える場所まで来ると、牢から少し離れた所で、黒装束に身を包んだ奴がニヤニヤと笑っていたが、私とヘムスさんを見ると、姿を隠した。隠遁の魔術を使うのは、こいつか。
「魔女さん!」
「はい、こっちは任せて。『顕現貼付』」
黒装束は、姿を現して壁に貼り付いた。蚊とか、水の中に紛れた透明のスライム等に使う呪文だけれど、結構、役に立つ。
「魔女さん、こっちの方も、ヤバイかも知れん」
のたうち回るデザリスタの騎士の1人をヘムスさんが槍で床に縫い止めている。正しくは、おそらく騎士だったモノだ。のたうち回るそれの側には、腕や腹を押さえて踞る囚人達がいた。
のたうち回るそれは、やがて、悲鳴を上げて暴れまくり、ヘムスさんの槍を素手で真っ二つにする。
「出してくれ、頼むから、私達をここから出してくれ。頼む!」
魔術師が片手でお腹を押さえて、牢の檻を必死で揺する。彼の後ろから騎士だったモノが、彼に縋る。
「タ、スケテ」
そう言いながら、魔術師の肩を掴む。厭な音を立てて、魔術師の肩が歪んだ。
魔術師は悲鳴をあげながら、こちらを見て檻の間からヘムスさんに手を伸ばした。
「ヘムスさん、下がって!」
『分離解毒』……相手のかつて騎士だったモノが暴れすぎていて、狙いが定まらない。
「魔術師、離れ……ムリか。檻の中の奴らも、動けないか。ちっ、使えない」
イライラする私のポケットから、何かが飛び出し、檻の間から騎士だったモノに飛び付き、檻から押し退け、壁に縫い付けた。
人参果……騎士だったモノの首に、両手に赤ん坊の様な実が噛り付き、壁に押し付けている。
『分離解毒、抽出浄化』
どす黒い何かが騎士だったモノの身体から滲み出て、蒸発して浄化されていく。
取り出して研究してみたかったけれど、しょうがない。下手に触れると馬鹿を見るとんでもない薬品もあるのだ。
おそらく、これはとんでもない薬品の方。触らぬ神に何とやらよね。
ドカドカと人達が走り寄る音がして、ヘムスさんが、牢屋の鍵を開けた。
「よし、任せろ」
オルザインさんが檻の入り口から投げた網の様な物が、騎士だったモノを覆い、壁にそのまま一緒に貼り付いた。人参果は、いつの間にか、消えてなくなっている。
何だ。戻って来ないのか。ちょっと研究してみたかったのに。
「おう、無事だったか?ミネ」
「まあ、私は何とか」
「怪我とかしてないよな?」
「大丈夫ですっ」
私は、そう言いながら、手をヒラヒラとオルザインさんに向けて振って見せた。
「あれ、何ですか?オルザインさん」
「魔道具製作部長の部屋から借りてきた網だ。何でも、ワイバーンから落ちない様にする為の安全シートみたいな奴らしいぞ」
「網、ですよね?」
「そうだな。あれでワイバーンに身体を押し付けるらしい」
ふーん。あの部長さんって、そんな物も作ってるのか。へー。ほほおー。
オルザインさんを始め、じいさん達は、明らかにホッとして肩の力を抜いた。
いや、まだ終わってませんからね。ホッとしてないで、倒れてる奴らを何とかせねば。
私は、怪我をして立てない2人のデザリスタの騎士と死にかけている魔術師の治療をすると、オルザインさんと共に牢屋番の詰め所に戻った。
後の始末は、じいさん達がしてくれるだろう。よろしくお願いしておこう。
「ミネに怪我がなくて良かったよ」
「はい、お陰様で、無事です。何か、皆さん心配症ですね」
「いや、心配にもなるって。オルツァーの留守中にミネに怪我でもさせた日には、俺達、皆、オルツァーに殺されるからね」
「またまた、オルザインさんたら、大袈裟なんだから。自分の甥子さんでしょう?信用して上げて下さいよ」
「いや、血は争えないからな。自分の甥だから、よく判る。あいつは、やると言ったらやる」
違う意味で信用されているオルツァーさんです。
新連載『悪役令嬢予定だったので、修道院に駆け込みました』を書き始めました。よろしかったら、そちらも読んで戴けたら嬉しいです。




