寂しい気持ちが、愛を育てるのかも知れない
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ミネ、お留守番中です。
約束は守られる事もなく、オルツァーさんは忙しくなった。
砦は、益々、剣呑な雰囲気になり、オルツァーさんは国境に向かう事が増えた。
「だからと言って、あいつは、ミネを蔑ろにしてる訳じゃねえからな」
オルツァーさんが留守の夜は、オルツァーさんの叔父様のオルザインさんが、オルツァーさんの布製の簡易小屋に泊まってくれた。
「蔑ろにって……私とオルツァーさんは、腐れ縁とか、ただ何となくオルツァーさんが心配症とか、そんな感じだと思うんですけど」
私の作業小屋に入ったらオルツァーさんに殺されるとか何とか大袈裟な事を言うので、私は笑いながらオルザインさんと小屋の外で焚き火を囲んでいた。
「そうそう、オルツァーの元婚約者の話なんだが、ちゃんと決着は着いているからな。安心してくれ。
オルツァーがキチンと相手の弱みを握って貸しを作っておいたから、もう煩わされる事は、ないさ」
5年の間のオルツァーさんの活躍を、オルザインさんは砦の騎士団の機密に反しない範囲で、語ってくれた。
中には、私がオルツァーさんにプレゼントしたクマのぬいぐるみをオルツァーさんが執務室に置いて癒されていた等の、嬉しい話も混じっていた。
クマは、キチンとオルツァーさんの役にたってくれたらしい。
「とにかく、オルツァーは根は真面目だからな。ミネちゃんがここに来て、自分と一緒に安全に暮らせる様に、休みも取らずに一生懸命、仮面の男爵の行方を追ってたよ。
だから、オルツァーには女の『お』の字も、男の『お』の字も、1つもなかったから、安心してくれ」
女の『お』の字はともかく、男の『お』の字って……ああ、オルツァーさん、私の事を男の子と思ってたものね。
「あの、その、オルザインさん。つかぬ事をお聞きしますが、オルツァーさんの元婚約者の方って、どんな方だったんですか?」
それを聞いたオルザインさんは、ニヤッと笑って、私の顔をジッと見た。
いや、別に気になるとかじゃないんですけどね。まあ、本当の所は、気にはなってますけど?
「調べた限りでは、一見、清純そうに見えるけど、気が強くて計算高い女だったらしいね。関係を持った男は何人もいて、むしろ、婚約者だったオルツァーだけとは、男女の仲では無かった様だよ」
嫌な女。オルツァーさんを蔑ろにするなんて。オルツァーさんは、あんなに好い人なのにね。まあ、妙な酒癖を持ってるけど。
「あの女は、オルツァーが騎士になれなければ貴族の称号が無くなるのが、嫌だったらしい。まあ、今でも1代限りの騎士伯の位しか持っていないけどな」
私だって……あれ?持ってるのか。一応、父親が亡くなれば男爵家の跡取り娘だったわ、私。
もう、とっくに捨て去って忘れた不要なモノだけれど。
「オルツァーさん、貴族の位、欲しいんですかね」
「そう言うミネちゃんは、どうなんだ?貴族の位は欲しいのかい?」
「私は、ここで骨を埋めるつもりですので、必要ないです。今のところ、この砦には医師どころか薬師も居ないし。
何しろ、ここでは好き勝手に研究させて貰えますので。
それに、オルツァーさんも、ここに居るので。私に必要なモノは、全てここにありますから」
「オルツァーも、隅に置けねえな」
オルザインさんは、私をジッと見て、やがて、決心した様に大きな溜め息を吐いた。
「あんな、オルツァーは黙っていたが、今夜か明日の朝が決戦なんだ。ミネちゃんには、安全な場所にいて欲しいから、皆は黙っていたけどな」
何だか砦に人が少ないのは、わかっていた。ベルリーナお嬢様も、王太子殿下も、うろうろしていた小さい龍も、朝から見かけなかった。
今日は畑はひっそりしていたし、オーベンさんもフォスターさんも、ジルバさんの蜜蜂でさえも落ち着きがなかった。
「薬の魔女を置いていくなんて、ふざけてますよね。皆、怪我をしたら、誰が治してくれると思っているんでしょうか」
オルツァーさんは、過保護だ。私だって、闘える事を知っている癖に。
なのに、オルザインさんを私に付けて、私を置いていった。
「俺は、騎士団の相談役だからな。オルツァーやエルディアナ様、タンディン様の代わりに留守を守る事になっている。他のジジイ達も同様だ」
「そうですよね。留守居役が居ないと、駄目ですからね。小さなお嬢様方もいらっしゃる……え?あれ?ベルリーナお嬢様は?朝からお見かけしてないんですが」
オルザインさんは、私から目を反らした。小さな私の天使のベルリーナお嬢様は、どうしたの。
「あー、ベルリーナお嬢様はな、まあ、お出掛けだ」
オルザインさんは、私の方を見ない。
「エルディアナ様もタンディン様も、せめて後方支援にミネちゃんを連れて行く様にと仰ったんだが、オルツァーがガンとして譲らなくてな」
私は、あの小さなベルリーナお嬢様よりも戦力外なわけ?
そもそも、ベルリーナお嬢様が居ないと、私の研究も出来ないのだけれど?
かと言って、置いてかれた私が、今更、闘いには参加出来る筈もなく、私は意気消沈しながら、皆が帰って来るのを待っているしかなかった。
「私、薬を作ります。皆が怪我をして帰ってきても、すぐに治してあげれる様に」
オルザインさんは、作業小屋に戻る私に小さく微笑んで
「頼むよ」
と言った。
皆が怪我をせずに、戻って来ます様に。団長の癖に先頭を切って闘ってしまうオルツァーさんが、無事に帰って来ます様に。
心配で、どうにかなりそうな心を叱咤しながら、私は、とにかく、必要になりそうな薬を片っ端から作り始めた。
「ところで、何の薬を作るんだい?」
「傷薬に、湿布薬、回復剤に、解熱、解毒……夢も見ない位ぐっすり眠れる睡眠薬」
「夢も見ない位ぐっすり眠れる睡眠薬?」
「オルツァーさん、私の小屋まで聞こえる寝言で、私の名前を時々呼ぶので。ちょっと恥ずかしくて」
「あー、オルツァーに言っとく」
オルツァーさん、どんな夢を見てるんですかね。




