その罪状は、騎士の名折れ
読みに来て下さって、ありがとうございます。
ハリスは、賢いです。そしてオルツァーさんは、やっぱりオルツァーさんです。
森の入り口の木から、黒い立派な羽を広げて、大きな鳥が荷馬車の幌の上に降り立った。
「ミネ、顔見知りか?」
「はい。大叔母様の頃からの友人です」
八咫烏の子のつるぎ姉は、幌から、私達が座っている御者席に飛び降りる。しかも、オルツァーさんのいる場所とは反対側の私の隣に。
つるぎ姉は、カァーと鳴いて、腹立ちを表現している。
おそらく、私に話があるのに、オルツァーさんがいる手前、喋れないから怒っているのだと思う。
「まあ、ばあさんは、森に住む薬の魔女だったからな、魔物の知り合いがいてもおかしくないか」
流石、ワイバーンを何頭も保有する砦の、騎士団長。私が魔物と交流していても、非難の1つも出やしない。
つるぎ姉は、不機嫌そうに、今度はハリスに向かって、カァーと鳴いた。ハリスは、ヒヒンと声を返し、心持ち脚を速める。
小屋に、何かあったんだ。
しばらくすると、馬が数頭、木に繋がれているのが見えた。
小屋にかけてあった隠遁の魔術が消えている。魔術師が一緒に居るのか?
「ハリス、つるぎ姉と一緒に、ここにいる馬を頼める?」
荷馬車からハリスを放してやると、ハリスは心得たと言う風に、頭を私の方に1度振ってから、馬達の方に歩いて行く。
私が木にくくりつけられた馬達の手綱をほどき、つるぎ姉が一声鳴いて魔力を飛ばすと、馬達は怯えてハリスの後に従い、森の更に奥へと歩いて行った。つるぎ姉も、それを追って行くのが見えた。
「馬の数から行くと、相手は4人か」
こんな広くもない小屋に、4人も入っているのか。邪魔じゃないの?それに、普通は1人は外に見張りを置かない?油断し過ぎでしょう。
私とオルツァーさんは、開いている木製の窓から、こっそり中の様子を伺った。
小屋の中では、4人の男達が引き出しや籠をひっくり返し、物色中だった。3人は、騎士の格好をしている。
「何か食える物、見つかったか?」
「いいや。枯れた草ばっかりだな」
干してあった薬草や香草を、騎士達が乱暴に引きずり落とす。
何て事をするのか。私が森を駆けずり回って採取し、折角きれいに乾燥させた薬草達が千切れて飛び散る。
許すまじ。
「うえっ!これは明らかに飲み物じゃないな。薬か」
飲んでも、いいよ。飲んでも。
それは、身体につける薬だから。飲んでも別に害はないけど、死にそうに不味いから。是非とも飲んで欲しい。
けれども、残念ながら、男は薬瓶を床に放り投げた。何て事をするのか。それを作るのに、一晩徹夜で煮込んだのに。
「おい。それは、薬だろう。貴重な薬だったら、どうする。小屋の主が帰ってきたら聞き出して、貴重な物だったら貰って帰るんだから、丁寧に扱え。これだから、騎士共は。頭まで筋肉だから使えないな」
ローブを来た1人が、ブツブツと呟きながら、本棚を漁る。
「これは、何語だ?ちっとも読めないな。いや、こちらのノートはグリーナリーの言葉か。これは、これは。とんだ拾い物だな」
大叔母様の薬のレシピ本だ。このローブの男が、魔術師らしい。男はローブの中に大叔母様のレシピ本を次々と仕舞い込んだ。
「!」
窓から乗り出そうとした私の頭を、オルツァーさんが押さえる。
薬は、また作ればよい。大変な苦労が待っているけれど。でも、あれだけは。あの本だけは、譲れない。
「おい、これ見ろよ」
1人の男が、何か小さな布を振り回していた。
え!?ちょっと待って、あれって……。
「女物の下着だ。この小屋に住んでるのは、女だぞ」
私の頭が急に軽くなった。あれ?
「貴様ら、それでも騎士かっ!」
私の後ろにいた筈のオルツァーさんは、小屋の扉を蹴破り、扉の側に居た騎士を扉の下敷きにしていた。
流石、オルツァーさん。素早い。うんうん。
『捕縛逆吊』
私は、魔術師らしいローブの男に向かって、縄を飛ばした。コイツだけは、厄介だと思う。おそらく、コイツがこの小屋の隠遁魔術を解いた奴だと思う。
小屋の中は狭いからか、オルツァーさんは剣を抜きもせずに残りの騎士を拳で仕留めた。特に、最後の私の下着を振り回していた騎士は念入りに。
「お前ら、デザリスタの騎士団だな。罪状と共に本国に送り返してやるから、首を洗って待っていろ。
ミネ、壊された物とダメにされた物、触られた物も1つ残らず書き出せ。上乗せして、デザリスタの騎士団に賠償金と慰謝料を支払わせてやる。
おい、お前、いつまでそれを握りしめている!早く離さんか」
オルツァーさんは、その騎士にもう1つ拳骨を喰らわせると、騎士の手の中にあった布を取り上げる。そして、ついでとばかりにその騎士の頭を踏みつけた。
あー、ありがたいけれど、ソレは、私のだから。もう!恥ずかしいから、ソレを返して欲しい。
私はオルツァーさんに近づき、オルツァーさんが握りしめていたソレを奪った。
「お前らの罪状は、家宅侵入、器物破損、窃盗、それから『下着泥棒』だっ!」
「いや、最後の1つは違うからな。私は関係ないからな!その罪状だけは、頼むから、止めてくれ」
オルツァーさんの言葉に、私が『捕縛逆吊』の魔術で捕まえ、天井の梁から吊るしたローブの男が抗議した。
「ミネ、砦に帰ったら、すぐに服と下着を買いに町に行くぞ」
「まあ、それしかないよね」
「あんな男共に触られた物、ミネの身に着けさせてなるものか!
オルツァーさんが、全部一揃えどころか何着でも買ってやるからな」
「え?でも、賠償金、支払わせるんでしょ?」
「それはそれで、取っとけ。あんな奴らの金で買った下着や服をミネが身に付けるかと思うと、腸が煮えくり返る!私が全部、買ってやるからな」
「え?自分で買うよ?」
「町にミネに似合う服が飾ってあったからな。まず、あそこの店に行ってあのワンピースを買って、それから、下着はエルディアナ様に良い店を聞いて……白も良いがピンクも可愛いな」
「服はともかく、下着は絶対に、自分で選ぶからねっ!オルツァーさんは、絶対に付いて来ないでねっ!」
オルツァーさん、暴走中です。そして、デリカシーなしっ!プンプン。




