居ると安心、居ないとなれば心が騒ぐ
読みに来て下さって、ありがとうございます。
ちゃんと、結ばれる筈なんですよ?
日に日に、砦は緊迫した状況になっていた。
町でデザリスタからの潜伏者が次々と砦の騎士団によって捕まえられ、牢に放り込まれている。
私は薬の魔女なので、詳しくは知らされていない。知っているのは、そんな大雑把な情報だけ。牢屋の中の怪我人の手当ては私の仕事だけれど、詳しい事までは、誰からも教えて貰えない。
職務上の秘密と言うわけ。
まあ、いいけど。
ただ、何故かオルツァーさんだけが、私にすまなさそうな顔をして謝る。
「悪いな。本当は、こんな奴らの手当てなんかさせたくないんだが、デザリスタとの条約があるからな」
どうやら、騎士団が捕まえた人達は、騎士団に情報を搾り取られ、更にデザリスタで取り調べを受けるらしい。その為に、私に彼らを一度治して欲しい、と。
ふーん?
私は、政治や国同士の事は、よく判らないし、下手に嘴を突っ込める立場にないので、ただ、ひたすら犯罪者達を治療してまわった。
ただ、犯罪者達を治療するにあたって、オルツァーさんが私に付いてまわるので、犯罪者達が怯えて治療がしにくかった事には、閉口したけれど。
「ミネは、私が怖いか?」
まあ、おそらく、犯罪者達の怪我は、彼らから情報を得る為にオルツァーさんが努力した結果なのだろう。それで、オルツァーさんに彼らは怯えているのだと思う。
「オルツァーさんは、私を大事にしてくれるでしょう?だから、怖くない」
それを言うなら、私だって。
「まあ、私は薬の魔女ですよ?私の作るのは薬だけではないのは、オルツァーさんは、ご存知でしょう?
オルツァーさんこそ、私が怖くないですか?」
私の作る薬は多岐に渡る。魔法薬剤師に限らず、薬師達は色んな薬を作る。ベルリーナ様に渡した惚れ薬のレシピ然り、自白剤、毒薬だって私は作る事が出来る。
ただ、倫理観から、必要がない限りそれを作って使用しないだけだ。
「怖くないな」
フフン。オルツァーさんたら、何の心配をしてるのやら。
ちょっと安心したのか、オルツァーさんは私にフッと力を抜いて微笑み、私に腕を出した。私はオルツァーさんの太い腕に自分の手を絡めて、一緒に地下牢の階段を上がって行った。
私が恐れるのは、オルツァーさんが私を置いて誰かの元に行く事。いつか来るであろうそんな日が、私は堪らなく怖い。
オルツァーさん、オルツァーさん。それまでは、一緒に居させて下さいね。
砦の中は、日を増す毎に緊迫した状態になり、オルツァーさんの顔が、時折、険しくなった。
「オルツァーさん。私、ちょっと森の小屋に帰ってこようと思うんですが」
帰る前に、私は一応、オルツァーさんに報告する事にした。
「え!?どうしたんだ、ミネ。私に何か不満でも?」
「強いて言うなら、作業小屋の隣の簡易宿泊小屋で寝起きするのは、健康上良くないので止めて欲しいと思いますけど……ただ単に、大叔母様が残した文献の1つを取りに行きたいだけです」
出来るなら、服も。長居するつもりじゃなかったから、薬作りに失敗して薬を爆発させた場合の為の着替え1着しか持って来ていなかったのだ。
だけど、前にちょこっと『着替え足りるかな~』とオルツァーさんに洩らした時に、『よし、オルツァーさんが服を買ってやろう』と町に連れて行かれそうになったのを必死に拒否した経験があるので、オルツァーさんには、それは言えない。
私に財布の紐を緩めないで、好きな女の人が出来た時に、その人に買ってあげて欲しい。
じゃないと、オルツァーさんがお嫁さんを貰ったら、私はオルツァーさんに買って貰った服を見るのも辛くて、着れなくなってしまうから。
「うーん、そうだな。そちらも見ておいた方が良いか……。
まあ、私も森には用事があるしな。今日は砦の仕事は副団長達に任せて、一緒に森に行くか」
森にオルツァーさんは何の用事があるのだろう。ちょっと判らないが、まあ、いいか。砦の騎士団長の仕事は、多岐に渡っているみたいだし、きっと私には判らない何かがあるに違いない。
フットワークの軽いオルツァーさんは、私と一緒に朝食を終えると、さっさと、腰に剣を着けた冒険者のなりになって私と共に馬車に乗り込んだ。
私に会ったハリスは喜んでいたけれど、オルツァーさんが合流した時にヒヒンと抗議の声をあげた。
「ああ、心配するな。一応、用心の為に私がミネと一緒に行くだけだ」
ハリスは賢い。そして、私も賢い。フフン。何かあるから、心配してオルツァーさんが付いて行ってくれるのだ。
何もなければ、オルツァーさんは付いて来な……付いて来るよね。うん。
私達は、森に向かった。
そして、オルツァーさんの勘は、いつも当たるのだ。腹の虫の勘だけれども。
「オルツァーさん、忙しいんじゃなかったんですか?」
「うーん、まあ、忙しいな」
「オルツァーさんが忙しいのなら、他の人に付いてきて貰っても、良かったのに」
「それは、私が嫌かな」
ミネの事に関しては、我が儘を通すオルツァーさん。でも、仕事はキチンとこなしているので、誰も文句を言いません。




