虫は、湧き出るモノだから
読みに来て下さって、ありがとうございます。
今回は、オルツァー視点になります。
オルツァー side
とかく、虫は湧き出るモノだ。本当に、腹立たしい。
ミネを襲おうとした奴ら程の者ではなくとも、ミネに群がる男は後を絶たない。砦の側の町には花町もあるんだから、そっちに行け!と、わざわざ休暇まで与えてやったのに、休暇だからとミネのいる小屋の周囲を動き回る。
そりゃあ、ミネは美人でスタイルも良くて胸はデカく育ったし、性格も良くて出来る女だし、可愛いし、可愛くて可愛いけどな。
騎士見習いのガキ共は、何かと言えば薬の魔女へのお使いをしたがるし、じじい共はミネの手伝いを申し出る。
そんなに群がったらミネの仕事の邪魔になるし、小屋の周りで見かける奴らを見ていると、何故か腹立たしい。
団長権限でミネの小屋の周囲で見かけた奴らに、とにかく仕事を割り振る事にしたら、何故か私の仕事が片付いて定時に仕事が終われる様になったのは、嬉しい誤算だ。
浮いた時間で、ミネに会いに行くと、ミネは私に気付かず仕事に集中している。
うん。今夜も泊まりだな。
小屋の外には魔樹も立っているし、オーベンが畑仕事にせいを出しているので、私は安心して自分の仕事に戻り、また再び仕事終わりに様子を見に行く事にした。
女顔で優男で何故か女にもてる魔道具製作部長のレザリスにミネが興味を持った時は焦ったが、ただ単にあいつの作った物に興味があっただけだったのは、幸いだった。
あんな男にミネを任せられるものか。ミネを嫁に出す相手は、もっとこう……いや、どんな男にも渡すのは、腹立たしい。
そうだ。私は、どうせ生涯独身を貫き通すのだから、ミネが嫁に行かないのなら、一生一緒に暮らせば良いな。一刻も早く養女にする手続きを取って……。
「いい加減にしろ。考えている事が、ダダ漏れているぞ、オルツァー。さっさと、告白して嫁に来て貰ってこい」
執務室に一緒にいた叔父上が、ソファーの上でふんぞり返って私を呆れた様に見ていた。副団長は、書類を片手で胸に抱え、もう片方の手で頭をかきむしっている。
「いい加減に、して下さい。薬の魔女様は、立派な大人の女の人ですからね。養女にして、どうするんですか!」
「いや、だってな。私の様なオジさんは、ミネの相手には不許可だ」
「団長、自分にまで不許可を出してどうするんですか。薬の魔女様が、本当に一生、嫁に行けませんよ。それに、30歳はオジさんじゃありません。少なくとも、私は違いますね」
あー、副団長も私と同じ30歳だったな。すまない。まあ、お前は早く嫁を貰え。
「ちょっと、オルツァー。ハリスをまた今日もミネが迎えに来ないって、厩舎頭が心配しているんだけれど。あの子、また、時間を忘れて作業小屋に籠ってるんじゃないかしら」
ドアがいきなり開いて、エルディアナ様が姿を現した。勿論、その後ろにはタンディン様が付いている。
前女王と、その王配は、いつでも仲が良い。と言うよりは、タンディン様は、いつでも時間が許す限りエルディアナ様から離れない。
「ええ、そうですね。仕事の時間が終わったらミネを小屋に迎えに行って、一緒に食堂へ行きます」
私がそう言うと、皆が私の方をじっと見た。
何か変な事を言っただろうか。
「しれっと、とんでもない事を言ったわね。確信犯な訳ね。わざと、ミネが森に帰らずに砦に泊まる様にしているのね」
人聞きの悪い。いくら、エルディアナ様でも、言って良い事と悪い事があるからな。
「この時間になると、森に帰るのは危険なので、泊まる様に薦めようと思っているだけですよ。エルディアナ様。ちゃんと、こんな時の為に、森の薬の魔女の小屋から寝袋も持って来させましたので」
「わざとらしい。誰かに行かせて、遅くなる前に森へ帰る様にとミネに伝える事も出来るでしょうに」
エルディアナ様は、冷たい目を私に向けながら低い声で言った。
「ミネが集中して仕事をしている所に茶々を入れたくありませんから。
ところで、エルディアナ様。何故、剣を二振りも持っているんですか?」
聞かれてどう思ったのか、エルディアナ様は返事の代わりに私の前にグイッと剣を一振り差し出した。
中々、立派な剣だ。
「駄目ね、反応しないわ。まったく、選り好みが激しいんだから」
溜め息を吐きながら、エルディアナ様は剣を自分の腰の位置に戻した。何なんだ?一体。
「この砦の隠し部屋で発見された『聖剣アポカリスト』よ。1000年程前の勇者の剣よ。貴方に使って貰おうかと思ったのだけれど」
「要りません」
聖剣など持って何をするつもりなんだろうか。そんなキラキラしい剣を持って悪党共を追いかけろと言うのだろうか。目立って仕方がない。
「この剣も同感のようね。云とも寸とも言わないわね。残念」
エルディアナ様の言葉を聞いていると、まるで、剣が喋ると言っている様に聞こえるのだが。気のせいだろうか。
「もう1つの剣は何ですか。そちらも聖剣ですか」
もう1つの剣は、えらくシンプルで実直だが、扱いやすそうだ。私なら、そちらを選ぶ。
「こちらも同じく、1000年程前の勇者の剣よ。こちらは、散歩に連れ出しただけなの。気にしないで頂戴」
気になりますよ。散歩に連れ出される剣って、何なんですか。
「まあ、それはそうと、ミネがこんなに毎日、作業小屋に泊まるのなら、いっその事、ここで生活する様に仕向けてやって頂戴。若い女の子が、あんな森の小屋で独り暮らしだなんて心配だから。
それに、薬の魔女が砦に居れば、私としては願ったり叶ったりだから。こちらに囲い込んでおきたいのよ。
何なら、オルツァーがミネと結婚してくれたらもっと良いのだけれど」
「ミネは、私の養女にするつもりです」
「……まだ、それ言ってるの?もうちょっとよく考えた方が良くてよ。とにかく、養女の申請は、受け付けません。じゃあね、キチンともう一度よく考えながら、ミネを迎えに行ってらっしゃい。
ミネに、こちらに留まってもらう条件を書き出しておいたから、いざとなったら、それをエサにして、ミネが砦に留まるように説得して頂戴」
エルディアナ様は、私に1枚の紙を渡すと部屋を出て行った。
それにしても、この紙を見る限り、厚待遇だな。まあ、ミネの能力から言って、これでも安いぐらいかも知れない。
何しろ私のミネの価値は、計り知れないからな。
「やっと、ミネを迎えに行ったか」
「そうですね。ついでに、ちゃっちゃとプロポーズも済まして欲しいです。養女にしたいなんて、妙な事を言っていないで」
「そう言ってやるな、副団長。元婚約者のせいで女嫌いになって、オマケに自分の好きになった女を目の前で拐われて、取り戻したと思ったら、今度は5年も会えずにいたんだからな」
「私だったら、発狂してますね」
「5年の間に拗らせて、未だに迷走してるからな。俺の甥ながら、とんでもなく厄介な奴だよ。まあ、叔父としては、一時は女嫌いを拗らせて美少年愛に填まったのかと勘違いしていたから、それよりは、まあ、ちょっとは安心してるかな」
「まあ、本人は拗らせた5年の間も、ミネさんを少年として愛していたので、そちらに走ったと言うのは正解な気がしますが」
「これで、フラれたらどうなるんだろうかと不安になるよ」
「怖いですねぇ」
書いていて、むしろ、ミネにどうして振られないんだ?この男は。と思う時も多々あります。




