無駄に出来るものは、ありません
読みに来て下さって、ありがとうございます。
ミネ、違う意味で絶好調です。
ふと見ると、畑の端に山羊やら牛やら羊やらが集っていた。コッココッコと声がするから、中心には鶏も居るのかも知れない。
「オーベンさん、あれは何?」
オルツァーさんは私の警護(何故か必要らしい)をオーベンさんに頼み、副団長さんに引き摺られて仕事に行った。
「雑草の山だ。奴ら、どれだけ追い払っても、自分達の柵から抜け出して集ってきやがる。オマケに、どんどん機敏になって、とうとう今朝は、奴らの世話当番の騎士見習い共を出し抜いて、やって来る様になった」
それって、大丈夫なの?
「見習いのガキ共の良い訓練になるから放っておけと、タンディン様は笑ってるな」
カラカラと高笑いしながら、オーベンさんは、もう一山の雑草を家畜達に放ってやった。
折しも、宿舎とは反対の方から、ボロボロで泥だらけになった騎士見習いの少年達が、フラフラとよろけつつ歩いてきた。
騎士見習い達は私を見ると、慌ててパタパタと自分の身体を叩き、髪に手をやって撫で付け、手の甲で顔を拭い始めた。
「おはようございます」
「お、おは「おらおら、お前達がトロトロしてるから、奴らは食事を終えちまったぞ」」
挨拶をした私の前に、ぐいっとオーベンさんが立ちはだかり、騎士見習い達を叱咤し始めた。
私の横から、家畜達のメエメエだのモウモウだの言う声が……いや、ちょっと鳴き声が変な気がする。このくぐもった鳴き声は、何処かで聞いた事がある。
「ほうら、始まった」
私を振り向いたオーベンさんは、ニヤリと悪そうに微笑む。
家畜達は一斉に見習い騎士達の方に駆け出し、見習い騎士達は各々、頭を庇い身体を低くした。彼らの上を家畜達は飛び越え、嘲笑うかの様にけたたましく鳴いて駆けて行った。
速い。
「格好付けてないで、頑張れよ!キチンと各々の柵に収めないと、家畜番に大目玉を喰らうぞ」
まろびつつ、騎士見習い達は家畜達を追って駆けて行く。
「あいつらは、いつも家畜の世話をぞんざいにするんで、家畜共も腹に据えかねてるのさ。今の家畜共なら、騎士見習いなんかには負けやしないな」
オーベンさんの言う通り。確かに、今の彼らなら、騎士見習い達には決して負けないだろう。
私が初めて薬の魔女として砦に来た時よりも、彼らは明らかに大きくなっている。
そして、彼らのあの鳴き声は、私がカウマン教授の所でバイトをしていた頃に聞いた魔獣と家畜達の間に産まれたハイブリッド達の鳴き声に近い。
「家畜達に凶暴性は、ありませんか?」
「雄共は、元から凶暴だぞ」
まあ、確かに元々、牡牛も雄山羊も何なら鶏だって雄は喧嘩っ早い。
「ただ、素早く賢くなったな」
「オーベンさん、雌はどうですか?」
「家畜番が言うには、乳の出が良くなって乳が旨くなったそうだ。そして、鶏の卵も大きくなって旨くなった。薬の魔女様も、食堂で朝めし食っただろ。どうだった?」
確かに美味しかったけれど、砦では、あれが標準なのかと思ってた。
「全部、家畜共がベルリーナお嬢様の草を食べ初めてから、そうなったんだ」
オーベンさんがそう言った横から、蜂がブブンと通り過ぎた。少し大きい気がするけれど、あれは蜜蜂。そう言えば、砦では養蜂もしていて、私や大叔母様が作っていた薬の材料も、砦から分けて貰っていたんだった。
「ああ、心配するな。蜂共は、人間を避けて通る。ベルリーナお嬢様が砦での畑仕事の初日に、蜂共に『私のお友だちを刺しちゃダメよ』と仰ったからな。
蜂共は、自分達の集めている花の蜜が誰のお陰で栄養たっぷりなのか知っているんだな、きっと」
花の蜜を集める蜜蜂……大変!
「オーベンさん、養蜂家の人に急いで私を紹介して下さい。相談したい事があるから」
「お、おう、わかった」
オーベンさんと私は、養蜂家のジルバさんと庭師のフォスターさんも交えて、巨大化しつつある蜜蜂の、彼らの巣箱の改造について話し合い、更にそれに伴って多く採れる様になるであろう蜂蜜の用途について興奮して話し合った。
これは、お金の匂いがする。蜂蜜は、美容製品にも使用出来るのだから。そして、美容製品は、とにかく売れるもの。
私達はランチを食べつつ、更に案を出して行き、厩舎の厩舎頭も巻き込んで、ベルリーナお嬢様の畑の雑草を食べた場合の騎士達の馬の強化の可能性の話にまで、話は広がり、全ての草案を私が纏めて紙に記しエルディアナ様に相談する事になった。
そして、気が付いたら、またもや、私の前にオルツァーさんが立っていた。
「もう、このまま、諦めて砦に住んだらどうだ?」
辺りは薄暗く、今から森に帰るのは自殺行為よね。メソメソ。
「その書類をエルディアナ様の所に持って行くんだろう?一緒に付いて行くから、ここに住む件についてもエルディアナ様に相談しような、ミネ」
オルツァーさんの言う通り、確かに私ってば、全然、森の小屋に帰る気が無いらしい。
すっかり、帰るの忘れてました。
「ミネ。貴女、今日、小屋に泊まれば、もう3日も泊まった事になるんですって?」
「はい。すいません、エルディアナ様。つい、帰りそびれてしまって。ご迷惑をおかけしております」
「いえ、貴女がここに泊まってくれれば、好都合なのよ。いっその事、ここに住まない?」
「うっ、それは……」
「オルツァーが、貴女の泊まっている作業小屋の隣に布製の簡易宿泊小屋を建てて泊まっているでしょ?」
「は、はい」
「ミネが森の小屋に帰ったら、オルツァーは、どうするつもりなの?」
「勿論、私はミネを送りに行って、ミネの小屋の隣に布製の簡易宿泊小屋を建てます。ミネが心配なので」
「ミネ……オルツァーが今度は森から帰って来なくなりそうだから、諦めて砦に住んでちょうだい」
「あー……そうします」
うん。タンディンの二の舞。と、エルディアナは思っています。




