二度ある事は、反省すべし
読みに来て下さって、ありがとうございます。
今回も、オルツァーさんよりもミネルバの方が、やらかしています。
結論から言おう。
今、私は砦の作業小屋に居る。
しかも、目の前にはオルツァーさんも居る。
「ミネ、やはり未だここに居たか」
手元が見えなくなって、初めて気付いた。もうすぐ夜だ。
いくらハリスが優秀でも、流石に今から森の小屋には帰れない。
昼過ぎに砦に戻った私とオルツァーさんは、作業小屋に大鍋や道具を設置し、私は薬を作り始め、オルツァーさんは急な呼び出しで騎士団に戻った。
で、気付いたら、今。
「いくらなんでも、今から森の小屋に帰ろうなんて思わないよな」
「うっ、流石に帰れません」
「ミネは、しっかりしている様で、抜けている所があるよな」
お説、ごもっとも。流石に、2度目になると深く反省してます。
「食堂に行くぞ、ミネ。昨日は、晩ごはんを食べ損ねただろう?エルディアナ様から、『今日はキチンと食事を取らせる様に』と、食堂で夕食を取る許可を頂いた」
ああ、エルディアナ様にまで、バレてましたか。しかも、食事にまで気をつかって貰って、申し訳ない。
作業に夢中になると、他が見えなくなる癖を無くさないとね。これでは、周りの人達に迷惑を掛けすぎるもの。
「まあ、何だ。いっその事、ミネも砦に住んでしまうのは、どうだろうか。薬の魔女の婆様も亡くなったし、森の小屋に1人で住むのは危険だからな」
うーん。まあ、オルツァーさんの言う事も一理ある。気がする。
「毎日、森と砦を往復するのも大変だし。それに、時間も勿体ないだろう?」
確かに、時間が勿体ない。往復時間を今やっている研究作業の時間に充てれば、その分、完成が早くなる筈。
「エルディアナ様が、砦に居れば、砦の一員として食堂や温泉も使い放題と、おっしゃっている。勿論、無料で」
無料で……。
「更に、報酬は今まで通り」
報酬は今まで通りの上に、食事や温泉付き。温泉、良いわね。
「新鮮な薬の材料も、無料で使い放題。薬の容器もこちらで用意」
新鮮な材料が使い放題。魅惑的な言葉。
「砦用の薬をキチンと納めてくれれば、今まで通りに商売をしても良い。必要ならば助手も付ける」
「オルツァーさん。助手は、ちょっと……バイト時代ならともかく、今は知らない人と作業するのは無理です。作業に集中すると、他が見えなくなるので」
ハッキリ言って、誰かにウロウロされるのは、研究作業の邪魔だもの。大叔母様も、無言で作業をしていたし、私も作業中は一切喋らなかった。唾が飛ばないように、口にスカーフも巻いているし。
「何なら部屋も用意すると」
「あ、それは要らないかな。オルツァーさんもご存知の通り、多分、私は小屋に籠りっきりかと」
それを聞いたオルツァーさんは、眉を寄せて厳しい顔付きになる。おそらく、『何を言っているんだ、こいつは』と思っているに違いない。
いや、実際そうなっているから、私は、ここに居るんですよ。困った事に。
「オルツァーさんの機転で持ってきた、寝袋も有りますし。大丈夫です」
オルツァーさんは、じっと真剣な眼差しで私を見た。私も、オルツァーさんを見つめ返す。
心配ないですよ?オルツァーさん。ミネは、もう、大人なんですから。
「そして、更にオルツァーさんも、もれなく付いてくる」
何ですか?それ。
オルツァーさんは、ニヤリと笑って腕組をして、そう言い切った。
「まあ、どれも魅力的な条件ですね。オルツァーさん」
「そうだろう。さあ、食堂へ行くぞ」
食堂では、隅の方でエルディアナ様やタンディン様と共に、子供達が食事をとっていた。侍女が1人、そして侍女見習いの少女が1人、侍従見習いの少年が3人で子供達の世話を焼いている。
オルツァーさんは、その中の1人の少年をじっと見て、ニコニコとしていた。知り合いなんだろうか。
「どうしたの?オルツァーさん」
「彼を見ていると、救われた気持ちになる」
どう言う事かよくわからないが、私もその少年をじっと見てみた。彼とは、何処かで会ったのかも知れない。何となく見覚えがある様な気がするかも。
「ミネは、覚えていないかも知れないが、マイクの居た町で会った子だ。私達を襲った、あの子供だよ」
確かに、あの子と同じ髪の色で瞳の色も同じだけれど。いや、でも、あの子とは、随分と印象が違う。
私達を襲ったあの子は、虚ろな目をして闇に生きていた。生きていると言うより、まるで死者の様に、人では在らざる者の様に、ただ命令をきいて、それを実行するだけだった。
「彼も、私の事を覚えていたよ。『今、凄く幸せだから、放っておいてくれ』と言われてしまった。一緒にいる侍女見習いは妹だと、エルディアナ様が仰っていたよ」
そう言いながらオルツァーさんは、嬉しそうに食事を続けた。
「私の救える命は微々たるものだし、あの侍従見習いになったハジェスに至っては、イースタン公爵令嬢が救ってくれたのだけれど、何か、こう、彼が幸せそうなのを見ると、心が和むんだ」
私は、そんなオルツァーさんを見て心が和んだけれど、そんな事はオルツァーさんには言ってあげない。
何だか、恥ずかしくて、そんな事は言えないから。
ああ、オルツァーさんのこんな所、好きだなって、そう思う。
「それにしても、あの子達、皆、可愛いですね。なんと言うか、こう、光ってます」
「確かに可愛いが、光っては、いないだろう」
「特に、ベルリーナ様は後光が差して見えます。何しろ、私に無料で薬草を生やして下さいますし」
「そこか。まあ、確かに薬の原料になる植物を生やしてくれるよな」
「あんなに可愛い子達を見ていると、子供が欲しくなります。尤も、相手も居ない私にそんな日は、来ないだろうと思いますが」
「ミネは、子供は何人欲しい?男の子か?女の子か?」
「そうですね。男の子と女の子、どちらも可愛いですね」
「そ、そうか。よし、頑張るからな」
「はぁ?何を頑張るの、オルツァーさん。何だかわからないけれど、頑張って下さいね?」
うん。取り敢えず、告白から頑張って欲しいです。多分、自覚はしている。多分。




