自分では普通だと思っていても、違うの?
読みに来て下さって、ありがとうございます。
オルツァーさん、こっそり、ひっそり、暗躍中です。
私とオルツァーさんは、賢い馬のハリスに導かれて森の小屋にたどり着いた。
そう、ハリスが私を連れて帰ってくれたのだ。オルツァーさんは、森にある薬の魔女の小屋の場所を知らないし、ハッキリ言って、私は小屋までの道順を、未だ覚えていない。何しろ、ここに初めて来た日と今日、砦からここに来たのは、この2回だけ。ここから砦に行ったのも、昨日が初めてだったのだから。
皆が私を仮面の男爵から守ってくれたのだが、箱入り娘にも程がある。まあ、それだけ大事に隠して匿ってくれたのだから、文句は言えないけれど。
「凄い小屋だな」
フフン、そうでしょう、そうでしょう。
「家と言うより、研究室だ」
良いでしょう、良いでしょう。
「どうやって、ここで暮らしてたんだ?ミネ」
え……ひょっとしてこれは、呆れている?
「私の部屋も大概だが、ここは調度品が無さすぎないか?」
「調理道具は、有りますよ。薬を作る道具と兼任してますけれど」
「ベッドは、あるな」
2つも有りますよ。ロフトの上には私のベッド、部屋の隅には大叔母様が使っていたベッド。今では、大叔母様のベッドは私が使い、ロフトのベッドにはカバーが掛けてある。部屋の隅の何もないベッドを見ると、大叔母様が居ない事が身に染みるので。
「お風呂とトイレも、ちゃんと有りますよ」
「花瓶とかは?」
「薬草は、持って帰ってすぐに乾燥させるので、梁から全部吊るします」
花瓶に入れてる場合じゃありませんよ?オルツァーさん。
「何て事だ。花が贈れない」
「大丈夫ですよ。大抵の花は、薬に使えますから。中にはドライフラワーに向かない花もありますが、そういう物はすぐに加工して」
「いや、そういう意味じゃなくて、鏡台とかは?」
「え?ああ、鏡が見たいんですか?そこに掛かってますよ」
確かに、実家にいた頃は鏡台もあったけれど、無くても問題ないもの。瓶に入った自作の美容液一本で、事足りるのだ。しかも、これが、売れに売れてお金になっている。
「服は、何処に仕舞うんだ?」
ホレっとばかりに私は小さな引き出しを叩いた。
「こんな小さい引き出しに入るのか?」
「1段目には、ちゃんとリネンやタオルも入ってます。大丈夫です」
「そう言えば、一緒に旅をしていた時も、カバン1つだったな」
「大丈夫ですよ。あの頃と違って、服も増えましたから。今では、あのカバンでは収まりきりません」
学園時代の私の服は、制服と普段着1着、寝間着1着。作業用にとレガスさんがくれた白衣が1着、カウマン教授が特別報酬にくれたコートがあった。旅に出た時には、コートと白衣は学園の寄宿舎に置いてきたし、制服と普段着は、古着屋で男の子の衣服と交換した。
今では、普段着2着と寝間着が1着、エプロン2枚、この間作った外出着に今着ている服。何と、2枚も増えている。凄く贅沢だわ。
「服だ。一緒に服を買いに行って、贈ろう」
そうそう、寒い日用にショールも編んだんだった。
「宝飾品は、持っているのか?ほら、ブローチとかネックレスとかイヤリングとか……ゆ、指輪とかだな」
「お祖母様の形見の指輪がありましたが、旅に出る時に、売り払いました」
答えを聞いた途端に、オルツァーさんの顔が曇った。嫌だなあ。そんなんじゃないんです。
「嫌な事を思い出させたな。すまない」
「いえ、元々、いざとなったらそうするようにと、お祖母様から貰った物なので」
お祖母様は、そうする事しか出来なかったのだ。大丈夫。お陰で、私は、ちゃんとここまで辿り着いたのだから。
「そう言えば、いつも髪紐をしているな」
「自分で編んだんですよ。紐を編むのは得意なんです。今度、オルツァーさんにも剣飾りを編んであげますね」
「お、おう。あ、ありがとうな。……そうだな、髪飾りを贈るのも良いかもしれない」
オルツァーさんは、先程から、時々、小声で何かブツブツと呟いている。
オルツァーさんには、何色が似合うかな。オルツァーさんの瞳の様に澄んだ青空の色と、それから。
「オルツァーさん、剣飾りは何色が良いですか?」
「深い緑が、良いな。それから、オレンジ色。ミネの瞳の色の様な暖かい色が良い」
深い緑が好きなのか。じゃあ、私の髪の色は、オルツァーさんの好きな色なのね。良かった。深緑とオレンジなんて、まるで私の色を剣に付けているみたいで、ちょっと恥ずかしいけれど。オルツァーさんの好みなら、問題ないよね。
「そうなると、お嫁さんを貰う時には焼きもち焼かれちゃうので、オルツァーさんに好きな人が出来たら、違う色でまた編んであげますね」
「絶対に、外さないからな。手首にも巻きたいから、同じ物を余分にもう1本編んでくれないか。いつでも、身に付けていたいから」
良いですよ。お安い御用です。そんなに好きな色なのか。オルツァーさんが好きな色を持つ私は、ちょっとばかり嬉しい。
「お礼に、今度、町に一緒に行って買い物をしよう。プレゼントするからな。ミネは、物を持たなさ過ぎる」
「大丈夫ですよ、オルツァーさん。私、こう見えても、お金はしっかり稼いでますから。特にいるものが無いだけで。大体、お礼をしなきゃならないのは、私の方です。荷物を運ぶのを手伝って貰うので」
「私が、買いたいんだ……ミネに贈りたいだけだ」
オルツァーさんは、時々、ブツブツと呟く。最近のオルツァーさんは、独り言が多いので、ちょっと心配になってきた。
大丈夫だろうか。何か悩み事でもあるのかもしれない。
「オルツァーさん、そこの大鍋を運び出したいんです」
「おお、任してくれ」
「この大きな杓子も。それから、この瓶の入った箱もお願いします」
「力仕事は、ドンと来いだぞ。あ、それから寝袋はあるか?」
「ありますけど……何に使うんです?」
「寝袋は寝るのに使うんだよ。普通に」
「……もう大人なんで、一緒に寝ませんからね……」
「え?あ?あぁ……そ、そうじゃなくて、ミネ1人が使う用だ。本当だぞ」
日頃の行いが、物を言う時もあります。オルツァーさん、信用まるで無し。




