不逞の輩は、何処にでも居るもんです
読みに来て下さって、ありがとうございます。
前話のミネバージョンです。
どれだけ立派な林檎の箱でも、腐った林檎が混じり込む事は、あるものよね。
どれだけ高潔なオルツァーさんが率いている騎士団でも、不逞の輩は存在する。門番をしていたブルースとかいう男の様に。そして、そう言う輩は、1人見かけたら何人も居ると思った方が良い。台所に巣食う黒い虫の様に。
「おい、開かないぞ。この扉、いつからこんなに頑丈になったんだ?」
「駄目だ。窓も、ピクリとも動かない」
「こんなボロ小屋。蹴飛ばしてやれば、穴の1つや2つ、空けれるさ。たかだか、魔法薬剤師にもなれない平民の『薬の魔女』だ。火の魔術でも、お見舞いしてやれば、ヒイヒイ泣きながら出てくるだろうよ」
私の師匠である大叔母様を何だと思っているのか。隠遁魔術と防御魔術を得意とする、魔獣や魔物を相手に闘う魔法薬材料採取係を長年していた誇り高き女よ?大叔母様は。
その弟子である私が、防御魔術が下手なわけないでしょう。
「くそっ、びくともしない。こうなったら、火の魔術で燻して、おい、何だこれは!?止めろ、下ろせ!!」
男達の悲鳴が聞こえた……因みに、私は未だ何もしていませんが?
確かに小屋に『強固反射』の魔術で、小屋の防御力を上げて、相手からかけられた魔術を反射する様にしたけれど。奴らは、未だ魔術を使ってなかった筈。
そろりと窓から外を伺って見れば、男達の身体に蔓が巻き付いている。蔓は、すぐに彼らの全身を一分の隙もなくグルグル巻きにし、仕上げとばかりに木に吊し上げた。
えーっと、こんな所に木なんてあった?
なかった筈。
こんな美味しそうな大きな橘の実がたわわになった木を、私が見落とす筈がない。
「おい、女!窓から見てないで、何とかしろ!私達を何だと思っている」
「くそっ、下ろせ!!」
「たかが平民の女が、貴族の騎士の私達をこんな目に遇わせやがって、タンディン様が黙ってないぞ」
確かに、タンディン様は黙ってないでしょうね。貴方達をギロリと睨んで大声で笑いながら、貴方達が何度も気絶するまで追い回して鍛練をさせるでしょうよ。
あの方は、性根を叩き直すのが、お好きだから。
橘の木から魔力を感じた。この木が蔓を操って男達を吊し上げている?いや、蔓自体からも強い魔力を感じる。そして、男達の魔力がどんどん弱まっているみたい。
蔓が、男達の魔力を吸っているのか?
興味深い。
「薬の魔女。頼む、助けてくれ」
「私達が悪かった。謝る。謝るから、助けてくれ」
男達の声を煩いと感じたのか、蔓は男達の頭にまで巻き付いて、彼らの口を封じ、顔を隠した。
何故、私が助けなければならないの?私を襲いに来たのは、貴方達なのに?
橘の木や蔓からは、殺意は感じられない。どうやら、彼らの命まで取ろうとは思っていない様だ。
小屋の中は安全だ。庭師達がやって来る朝まで一寝入りしておいても問題ないみたい。
私は、再びマントを身体にグルっと巻き付けて丸まり、小屋の隅に寝転んだ。
夢の中で、オルツァーさんの声を聞いた。何だか酷く苛立って、静かに怒っているみたい。普段の声より1トーン低い声で、誰かを脅し、詰っていた。
「これは、私の獲物だ」
そうオルツァーさんが言ったのが聞こえた。
窓の端から、こっそりと外を見ると、オルツァーさんと庭師の2人のじい様がいる。
オルツァーさんは、忌々しそうに私を襲いに来た似非騎士達(オルツァーさんの騎士団の騎士にあるまじき行いをしたんだから、似非騎士で十分よね)の頭を踏みつけ、踏みにじる。
でも、それは、オルツァーさんの獲物ではなく、私の獲物では?
でも、まあ、オルツァーさんの方が私より重いので、彼らはさぞ痛かろう。ここは、大人しくオルツァーさんに譲っておこうかな。
月明かりに見えるオルツァーさんは、凛々しく、冷酷だけれども、その整った顔は何故か美しかった。
そして、私の為に普段と違うそんな顔をさせたのが、少し悲しかった。
いや、悪いのは奴らだけどね!
やがて似非騎士達は、荷車に積まれて庭師のじい様達に何処かに運ばれて行った。
「オルツァーさん?」
私は眠い目を擦りながら、小屋の外に……オルツァーさんの元へ歩み寄る。
「呑気だな。寝てたのか」
まあ、寝てましたね、私。
「私が出るまでもなく、魔樹が、あの似非騎士達をやっつけてしまったので。後は任せて眠ってしまいました。あ、あれ?何?この光」
月明かりに照された畑の地面から、青白い光がキラキラと幾つも立ち上ぼって、何かが畑からニョキニョキと生えてくる。それは、どんどん背が高くなり、葉を付け、蕾をつける。
「「花?」」
オルツァーさんと私は、同時に呟いた。
「2人共、下がって下さい!」
大きな蕾を見ていた私とオルツァーさんに向かって、庭師のじい様達、オーベンさんとフォスターさんが走って来る。
オーベンさんは大鎌を両手で構えて、フォスターさんは大きな鉈を両手に1つずつ握りしめ、2人共、嬉しそうに破顔している。
うん。判る、判る。この花、きっと貴重な魔法薬の材料になるのよね?
「そいつらは俺らの獲物なんで、お二人は下がっていて下さい」
花が開いて、花弁の中から大きな口が開き、ギャアギャアと威嚇し始め、花は、根を土から抜き出して、オーベン達や私とオルツァーさんに向かってゆっくりと歩き出した。
「フォスター、抜かるなよ。刈り時だ」
「判ってるさ、オーベン」
2人の老人はカラカラと笑いながら、煩く喚く巨大な花達に向かって行った。
私も参戦したら、駄目かな。オルツァーさんは、そんな私の気配を察知したのか、私を後ろから抱き締めて、昔の様に私の頭の上に顎を乗せた。
「お前は、駄目だ。行くな」
もう、子供じゃないのだけれど。まだまだ、オルツァーさんは、私に過保護らしい。
「オルツァーさん?私、もう子供じゃないから大丈夫よ?」
「あー、まあ。確かに、色々育ったしな?」
「でも、未だ、オルツァーさんの顎の下にすっぽり納まるけれど」
「まあな。まだまだ小さいな」
「これ以上は、大きくならないかも。と言うより、オルツァーさんが大き過ぎるのでは?オーベンさんやフォスターさんでも、すっぽりと納まりそう」
「止めてくれ。私は、じじい達をマントに納める趣味は、無いからな!」
「えー?確かに私よりちょっと大きいかも知れないけれど、変わらないよ?」
オルツァーさん、がんばれ?ゴールは遠いかな……。




