誰が何と言おうと、これは私の(俺の)仕事だ
読みに来て下さって、ありがとうございます。
今回は、オルツァーさん視点です。『元魔王な令嬢は、てるてるぼうずを作る』で走り回ってるお馴染みのキャラが出てきます。
オルツァー side
日が暮れても、ミネが馬を引き取りに来なかったと厩舎の係から連絡があった。
ミネの事だから、作業に夢中になって帰れなくなり、エルディアナ様と話をして宿舎の一室に泊めてもらったのかも知れないな。
そう思って、私はエルディアナ様の執務室を訪ねてみた。
「いえ、連絡はないけれど、ちょっと心配だわ。ブルースが、ミネに絡んでいたのでしょう?
タンディンが念入りに鍛え直していたから、ブルースは、もうあんな事は、しないと思うけれど、他にも何人かまだ燻っている奴らがいる筈だから」
確かに、表立っては大人しくしているが、まだまだ砦に馴染めていない奴らが存在する。特に、素行不良でここに送られて来た若い貴族連中は、行儀がなってないからな。
「多分ミネは、まだ薬草園の作業小屋に居るんじゃないかしら。あそこに居るのなら、安心だわ。ちょっと見ていらっしゃい」
いや、どうして作業小屋が安全なのか、よく判らない。あそこは砦の中でも辺鄙な場所にあり、何か起こっても誰も気付かない。
逸る心を押さえながら、私はカンテラで辺りを照らしながら、急いで作業小屋へ向かった。
小屋の側まで来た時に、頭上からくぐもった声が聞こえた。カンテラで照らしてみると、小屋の側の木から、何か大きなモノが幾つかぶら下がっている。
どうやら、それから声が聞こえるらしい。
「おや、団長じゃないですか。どうしたんですか」
2つの灯りが近付いて来て、それが日中にこの小屋の掃除を手伝ってくれたフォスターとオーベンだと判った。
「いや、何か木からぶら下がっているんだが。こんな所に木なんてあったかな」
ここでは古株で元は砦の騎士だったフォスターは、カンテラで木の幹を照らすと、カラカラと笑いだした。
「ああ、魔樹の奴じゃないか。おそらく、エルディアナ様に言われて、薬の魔女様を不届き者から護る為の用心棒をかって出たんだろう」
照らされた木の幹には、三角に棒が一本貫いた記号が描かれており、左右に名前が書かれていた。
『ヘンゼルド』と、『マオリーナ』?ヘンゼルドと言えば……。
「エルディアナ様のお祖父様である勇者の名前!?」
「ああ、そうだ。勇者ヘンゼルド様とその奥方のマオリーナ様が、この木に名前を刻んで愛を誓い合ったそうだ。
エルディアナ様とタンディン様も、この木の下で愛を誓い合ったそうだからな。団長も、いつかそれにあやかると良いんじゃないか?」
いや、確かにエルディアナ様とタンディン様は仲睦まじいが、そんな木、ここにあったか?
「おい、魔樹。そんなもん幾つもぶら下げてたら邪魔だろう。わしらが預かってやるから、下に降ろせ」
オーベンがそう言うと、ドサドサと蔓でグルグル巻きにされた大きな細長い塊が、木の枝から幾つも落ちてきた。
オーベン達が細長い塊の片方の蔓を切ると、人間の頭が現れ、喚き出した。
「くそっ。おい、早くこのロープを切れ!」
ああ、ゲイザーか。うむ。元気そうだな。
「あの女め。妙な魔術を使いやがっ、ぐえっ!止めろ、止めてくれ」
私の足の下から、元気そうなゲイザーの声がする。フム、まだ元気そうだから、大丈夫だろう。
「団長、後2つの頭も踏んどきますか?それとも、俺らで潰しときますか」
「フォスター。それは、俺の獲物だ。置いといてくれ。順番に踏み潰しておくから」
静かになったゲイザーをオーベンとフォスターが荷車に積む。私が後の2つの塊も念入りに踏みつけ終わると、2人は、それらを積み込んで荷車を押して宿舎へと動き出した。
「俺らは、こいつらをタンディン様の所へ運んどきますから、団長は魔樹の側にいて下さい。絶対に、そこにいて下さいよ」
何故かオーベンは何度も私にそう言い聞かせて、去って行った。どちらも今や非戦闘員だと言うのに、2人共、背中や腰に自分達の武器である大鎌や大振りの鉈をしっかり装備している。
妙に物々しいな。何か、あるのだろうか。
「オルツァーさん?」
小屋からミネが顔を出した。
ミネは、マントにくるまって、寝ぼけ眼で眼を擦っている。
ああ、可愛いな。ミネは大人になっても、その仕草は変わらない。
可愛さも変わらない。いや、可愛さには磨きがかかっているかも知れないな。
「呑気だな。寝てたのか」
「私が出るまでもなく、魔樹が、あの似非騎士達をやっつけてしまったので。後は任せて眠ってしまいました。あ、あれ?何?この光」
月明かりに照された畑の地面から、青白い光がキラキラと立ち上ぼり、何かが畑から生えてきた。それは、幾つも立ち上ってどんどん背が高くなり、葉を付け、蕾をつける。
「「花?」」
「2人共、下がって下さい!」
大きな蕾を見ていた私とミネに向かって、オーベンとフォスターが走って来る。
オーベンは大鎌を持ち、フォスターは大きな鉈を両手に1つずつ握りしめ、目をぎらつかせて嬉しそうだ。
「そいつらは俺らの獲物なんで、お二人は下がっていて下さい」
花は開き、花弁の中から大きな口が見え、ギャアギャアと威嚇し始め、花は、根を土から抜き出し、オーベン達や私とミネに向かって歩き出した。
「フォスター、抜かるなよ。刈り時だ」
「判ってるさ、オーベン」
2人の老人はカラカラと笑いながら、煩く喚く巨大な花達に向かって行った。
「オルツァーさん。砦って、魔界だったんですね」
「あー?いや、違うからな。私もこんなのは初めて見たからな」
「庭師って、本当に体力仕事なんですね」
「まあ、2人共、引退には早かったんじゃないか。現役でも、行けそうだな。次の魔獣討伐に組み込んどくか」
砦の老人達は、皆さん大層お元気です。




