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貴方に恩はありませんので、出奔させていただきます  作者: Hatsuenya


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28/42

本当に大切なモノを見失っていた事に、気付きました

 読みに来て下さって、ありがとうございます。


 今回はオルツァー視点ですが、今回から砦の騎士オルツァーと書けません。ただの砦の騎士では、なくなりましたので。



       オルツァー side



 何が一番大切なのか、わかっていた筈だった。


「オルツァー、この件を追うのは、取り敢えずここまでにしておけ」


 叔父上は、そう言って私を心配そうに見た。わかっている。わかっては、いるが、腹の底から黒いモノが沸き上がってくる。あいつらの事が赦せない。赦せないのだ。


「そんな顔をミネに見せるんじゃないぞ。そして、その感情に飲まれるなよ。復讐は、復讐を呼ぶ。怨嗟は、更なる怨嗟を呼ぶ。思い詰めてて行動すると、今度は、自分を許せなくなってくるぞ」


 捜査に私情を、感情を持ち込むな。前騎士団長である叔父上から、幾度となく言われた言葉だ。

 私は、ミネを砦に連れ帰ってすぐに騎士団長に就任した。以前からそう言う話があったが、仮面の男爵の件があってから、叔父上は表舞台を退き、暗部や裏の社会との繋がりを密にして行った。


 仮面の男爵の件の捜査は、難航していた。デザリスタからの密輸事件。デザリスタから来た山賊達。人攫いと人身売買。

 次から次へと休みなく国境付近の町に現れる無法者達の起こした事件は、どれもデザリスタの元貴族の子息の若者達が混ざっていた。

 排斥され、国外追放された者達。なのに、何故か誰もが自信満々で、捕まってもすぐに解放されると信じている痴れ者達。


「国境から森を越えて、デザリスタの兵士が入り込んだそうだ。タンディン様が『お仕置きをしてくる』と、張り切って国境に向かわれた」


「はぁ。上が動いてどうするのですか」


 タンディン様はフットワークが軽い。自分が出て行った方が始末が早いと感じた時は、自らワイバーンに乗って現場に向かう。

 ありがたい様な、迷惑な様な。

 その間に休ませては貰えるが、後始末は私達がする事になる。タンディン様は、そう言う事は苦手なのだ。


「ほい、お邪魔するよ」


 大荷物を抱えた薬の魔女が、私の執務室に入ってきた。相変わらず、達者だ。


「ノックぐらいは、してくれないか。薬の魔女殿」


「おや、し忘れたか。すまないわねぇ」


 いつものコトだ。薬の魔女はノックをした事がない。

 薬の魔女は持っていた荷物の山を、叔父上が座っているソファの前のテーブルに積み上げる。


「はい、いつもの騎士団の分の薬。それから、これは眠れぬ夜を過ごしているお前さんへの薬だよ。はい」


 確かに、ミネと別れてから、よく眠れぬ夜が続いていた。腕の中にあった重みと温もりが、足りなかった。

 短い期間しか共に過ごしていない筈なのに、あの子が側にいないという事が、こんなにも虚しい事だとは、知らなかった。


「何だ、この袋は」


「お前さんが眠れないって聞いたミネが、お前さんの為に作ったモノだよ。ありがたく受け取りな」


 薬の魔女から手渡された大きな袋の中からは、クマのぬいぐるみが出てきた。ぎゅっと抱き締めると、むっちりもっちりと柔らかい、ミネが作った枕の感触にソックリだ。


「ふーむ、ああ、そう言う事か。成る程、成る程」


 私がクマのぬいぐるみを抱き締める姿を、叔父上がジロジロ見ている。私は、叔父上を睨め付けた。


「何ですか?叔父上。良いじゃないですか、別に。このクマの抱き心地、最高なんですよ」


「いや、そう言う意味では、ない。ミネに感心してるんだよ。これは、牽制だな。きっと。余分なモノをベッドに引きずり込まずに、大人しく1人寝してろと」


 まあ、以前、私が酔っぱらって色んなモノをベッドに引きずり込んでいたのをミネは知っているからな。

 このクマは、ミネから私への『酒を飲みすぎるな』と言う忠告なんだろうか。


「まあ、幼く見えたが、あの子もいっぱし(の女)なんだな」


「まあ、そう言う事だよ、オルザイン。まったく、この朴念仁は、あの子に1度も会いに来てやらないのにね。それでも、あの子は、この朴念仁が心配なのさ」


 何だ、それは。私は、これでも一生懸命頑張っているし、ミネに会うのを我慢もしている。

 大体、あんな可愛い子が、こんな()に好かれているなんて気持ち悪いだろう。

 私が出来る事は、あの子が変な輩に狙われる事なく、幸せに暮らしていける場所を作る事だ。


「私も歳なんだから、お前さんは、早いところ気がついておくれよ。あの子にとって、何が一番大事なのかって事を」


 仮面の男爵の一件があってから、タンディン様の曾孫も、ここで修行をするのを止め、王都に留まっていると聞く。今、この砦の周囲の町は特に子供にとって危険なのだ。


「待っていろよ、ミネ。私が奴らを一掃してやるからな。そうして、1日も早くお前を養子にし、一緒に暮らそうな」


 私は、ミネが作ってくれたクマにそう言った。

 薬の魔女と叔父上は、苦笑いをしていた。


 そして、月日が流れ、デザリスタは益々、活発に動き、その一方、魔獣達によるスタンピードまでもが、活発になっていた。

 砦の周囲に不穏な空気が漂っていく中、王都で、仮面の男爵が捕らわれ、男爵の本拠地が半壊したとの一報が入った。


 拍子抜けだった。


 私達が一生懸命、こちらで奴の関連する組織を次々と叩いていたのに、この捜査に加わっていなかった者達に先を越されてしまった。


 僅か5歳の第一王子が龍に乗り、拐われた自分の婚約者の公爵令嬢と従姉妹の公爵令嬢を、12歳の少年伯爵と魔術師団長と魔道具製作部長と共に本拠地に乗り込み、2人の令嬢の各々の公爵家と協力して助け出したと言う話だった。


 何だ、それは。


 私がしばし呆然とする中、安心したのか寿命だったのか……


 ほどなく、今度は薬の魔女が亡くなったとの報せが入った。


「ミネが、1人で葬儀を行い、薬の魔女を送り出したという事だ」


 叔父上が、ポツリとそう言った。


 私が何も出来ずにいる間に、ミネは1人で、たった1人の家族を、女神の御元に送り出したのだ。


「叔父上、私は、一体、何をしていたんでしょう」


「お前は、一生懸命、自分が良かれと思っていた事をしていたさ」


 幸せにしてやりたい者を幸せにしてやれず、その者が1人で哀しむ時に涙を拭いてやれず、遠くでただ報せを聞くだけだった。


 あの子は私を心配してくれて、眠れぬ夜には隣に寄り添うモノをくれ、食事が滞ると聞けば滋養のある食事を託けてくれ、体調不良になれば薬を処方してくれた。


 何が大切なのか、何を大切にすべきなのか、私はそれを見失っていたのだ。薬の魔女や叔父上が言ってくれていたのに。


「ミネが、薬の魔女の後継として、砦に就任の挨拶に来るそうだ」


 叔父上の声が、私の執務室に響いた。





「なあ、クマ吉。何だか、私は莫迦みたいだな。お前の主は、こんな私を赦してくれるだろうか」


「ぬいぐるみ相手に逃避している暇があったら、仕事をしろ、この莫迦甥が。第一王子とその婚約者達が砦に滞在する話も出てるんだぞ。しっかり仕事をしろ」


「よし、ミネを迎えに行くぞ、クマ吉」


「こら、待て!ミネに会う前に、お前に話しておかないといけない話が」


「何でしょう。そう言えば、あれから5年。俺もいい歳です。ミネは、さぞかし立派になったでしょうね」


「まあ、立派っちゃあ、立派になったらしいぞ。胸回りとか、腰回りとか」


「それは、それは。ミネに会うのが楽しみですよ、叔父上」


「まあ、楽しみっちゃあ、楽しみなんだが。その、あの子は随分と変わってしまったからな」


「ですが、ミネは、ミネです。私の可愛いミネです。どんなに胸回りや腰回りがゴツくなろうとも、ミネには変わりありませんから」


「待て!俺が一緒に行った方が、絶対良いって。おい、走るな。あーあ、行っちまいやがった。俺は忠告したからな」





 次回、とうとう、再会です。

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