事実は、斜め上を行く腹立たしさ
読みに来て下さって、ありがとうございます。
オルツァーさんの視点が続いています。ちょこっと残虐なシーンが入っています。
砦の騎士オルツァー side
砦の騎士団と共に襲撃者達のアジトである屋敷に踏み込んだが、雑魚達が後始末をしているだけだった。
「何だ、これは」
研究室らしき部屋部屋を見て、皆が騒然とした。瓶詰めにされた魔獣だか魔物だかの身体の一部、そして同じく、人間にしては小さく、子供の身体の一部とおぼしきモノが壁一面の棚に納められていた。
「これは、小さな八咫烏の頭ね」
前女王陛下のエルディアナ様が、悲しそうに呟いた。
「八咫烏は、森の見張り番。親烏と七羽の子烏の家族の魔物なの。さぞかし怒り狂っているでしょうね。しばらく、国境沿いの森を抜ける馬車には、必ず辺境騎士団から護衛を派遣する様にした方が良いわね。騎士達も、必ず、小隊で動く様にさせてちょうだい」
雑魚達は、主に人身売買組織の者達で、地下牢には、売られる筈だった子供達が閉じ込められていた。その中にはミネは居らず、ただ、ミネと同じ位の年齢の少年が、不穏な証言をしていた。
「連れて来られて直ぐに魔力を測られて、魔力が強い子達は、俺達と分けられた。一緒の孤児院から連れて来られた奴も、連れて行かれたんだ。
なあ、そいつが見つかったら、俺は……ランザは大丈夫だって伝えて欲しい。そいつは、ギースって名前で、左肘の上の所に星形のアザがあるんだよ」
酷く損傷した星形のアザがある左腕は、瓶の中にあった。
ミネは、どうしたんだろう。一緒に連れて行かれた者の中に居れば良いが。
あの子の手足に、痣はあったか?それすら、私は知らない。
いや、知らなくて良かったのかも知れない。
きっとミネは無事で居るだろうという希望が持てるのだから。
そう、あの子は、研究者として連れて行かれたのだ。大丈夫、大丈夫だ、きっと。
私は淡々と騎士達に指示を出し、屋敷の中を探索し、隠し部屋も見つけた。
大人用のベッドと子供用のベッドが置かれ、使い古した赤ん坊の衣服やおもちゃや絵本が大事そうに箱に仕舞われており、母親の物らしきショールが見つかった。
ミネが居たと言う証拠は、何一つ無かった。
雑魚共は、首謀者である仮面の男爵や研究所長と呼ばれた老人や研究者達の行く先を知らず、ただ口を揃えて言った。
「ハジェスと呼ばれるガキが何処からともなく帰ってきて、仮面の男爵に何事かを告げると、男爵は研究所長と親子とハジェスとメイドを馬車に乗せ、書類と研究者達を、護衛達に無理矢理、大型馬車に押し込ませて夜中に出て行った。我々が残ったガキ共を売ったら、ハジェスが連絡をしてくる筈だ」
そう、皆が口を揃えて同じ事を言った。妙な話だ。
普通なら、何処かに齟齬が出る筈なのに。皆、一言一句、判を押したように同じ事しか答えない。
尋問官が、皆に薬を使用しても、魔術を使っても、同じ答えしか出なかった。
妙な事が、多すぎる。
私が、余りにも必死になっているので、落ち着かせようと、団長に書類仕事に回された。
「オルツァー、お前は私情が入りすぎだ」
人身売買組織の連中を手荒に扱い過ぎたのがバレた、か。
書類を書きながらも、ミネの顔が頭を過った。笑顔、拗ねた顔、怒った顔、呆れた顔、そして最後のビックリして、慌てて私に縋ろうとした顔。
ミネの声が、私を苛む。
私は、団長が溜めていた書類を次々と片付け、やがて、執務室に戻った団長に呆れられた。
団長から、保護された子供達に関する決定を知らされた。彼らは、家に帰れる者は家に返し、孤児院から連れて来られた者や親の居ない者達は、しばらく砦で働く事になった。
何かをさせておかないと、皆、不安でたまらなくなるらしい。
薬の魔女が呼び出され、子供達の様子を見て、一人一人に合った薬を調合して、各々に手渡した。
私は、帰り支度をしている薬の魔女を呼び止め、ミネの事を話した。
「ミネ……ですか?え!?まあ、確かに姉に孫はおりますが。ええ、居りますけれども」
薬の魔女の反応が、えらく妙だった。
「とにかく、私では、あの子について詳しい事をお話しする事は出来ません。今、私が動くのは、恐らく悪手だと思いますね。あの子がこちらに現れた時に、隠れ場所としてうちを提供出来る様に、私は、ひっそりと小屋で座して待とうと思います」
そう言って、ミネが現れたら必要になるからと、報酬に布一反と糸を求めて帰っていった。
ミネが行方不明になって3日目、砦に早馬が到着した。
ミネが、あの子が、私と最後に泊まった宿屋に現れ、あの町の騎士団に保護されているらしい。
私は、自分でも気付かぬ内に馬に乗り、馬を走らせており、あの町の入り口が見えて初めて、馬を休ませずに、ここまで来てしまった事に気づいた。
「馬は私が預かっておきます。代わりに私の馬をお使い下さい」
町の入り口をちょうど巡回していた、以前会った事のある、町の騎士が私の顔を見てビクビクしながら、そう言ってくれた。
「ミネは、無事なんだな!?」
「無事です。無事ですから、落ち着いて下さい。おい、ルッセン、オルツァー副団長を騎士団の宿舎に案内して差し上げろ」
「え!?私がですか?」
顔を青くしたその男の後に続き、向かった先には、確かにミネが居た。
ミネ、ミネだ。
「オルツァーさん。ああ、良かった。皆が言うとおり、ちゃんと、怪我1つしてないんですよね。大丈夫ですよね?」
ミネは、泣きそうな顔で、食堂の調理場の大きな鍋の前で、大きな前掛けをし、お玉杓子を握り締めた。
私は、走り寄って、ミネを抱き締めた。
小さなミネは、いつもの通り、良い匂いがして、私のお腹が大きな音を立てた。
「もうすぐご飯が出来上がりますから、取り敢えず、座って下さい。息が出来なくて苦しいです!離せ」
いつもの、いつもの私のミネだった。
「いや、邪魔にならなければ良いってものじゃ、無いですからね。後ろから抱っこするのも、駄目です」
「私はな、本当にミネの事を心配したんだぞ」
「私も、オルツァーさんが怪我をしてないか心配してましたよ」
「ミネの事を狙ってた男達のアジトを1つ、うちの騎士団で、ぶっ飛ばしといたからな。ほら、いますぐ、砦に向かおう」
「え!?もう、ミネさんを連れてっちゃうんですか」
「せめて、もう1日、もう一食だけでもミネさんの作るご飯が食べたかった」
ミネのご飯に懐く、あの町の騎士団員達。
次回は、ミネの視点に戻ります。




