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貴方に恩はありませんので、出奔させていただきます  作者: Hatsuenya


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18/22

所詮は、ただの平凡な騎士でしかなく

 読みに来て下さって、ありがとうございます。


 落ち込んでるオルツァーの視点です。



       砦の騎士オルツァー side


 砦の騎士団長室に帰還の報告に行くと、団長が書類から顔を上げ、鼻で笑った。


「只今、戻りました。土産です」


「随分と、湿気た顔をしてんじゃねえか。土産の酒は嬉しいが、こんなもんよりも、もっと重要な土産話が、あるんじゃねえか?」


 一足先に帰ったタンディン様から話が廻ったのか、それとも、最後に立ち寄った町の騎士団から砦に連絡して貰った際に、話があったのか。どちらにしても、叔父である団長には、筒抜けな筈だ。


「旅先で保護した『薬の魔女』の姪孫を、奪われました」


 団長の表情が、けぶった。


 まあ、そうだろう。ここいらには、薬の魔女以外に医者や薬師が居ない。そして、薬の魔女は、いい加減、いい歳だ。彼女の後継者が居ない事を皆が心配していた。

 ここに来る粗方の者同様、彼女は自分の素性を話さない。その上、弟子を取ろうとしなかった。いや、弟子になろうとする者が居なかったと言うのが本当の所だが。


 辺境砦は、元々は辺境伯によって率いられていたが、隣国のデザリスタの動きが不穏過ぎ、隣国の兵士達との小競り合い、隣国から流れてくる盗賊団や密輸団、果ては人身売買組織まで現れて手が廻らなくなった。

 元辺境伯は従兄弟である前女王の王配を頼り、引退した前女王と王配が辺境砦を率いる事になった。


 元王配のタンディン様は、引退した騎士達を率いてやって来て、更に最前線となっている砦に配属希望者が居ないのを知ると、国王陛下と相談、砦を犯罪者の刑の執行場所の1つとし、タンディン様自ら犯罪者を心身共に鍛え上げて砦の終身騎士とした。


 まあ、それ以外にも私や叔父の様に、俗世に嫌気が差してここに逃げ込んだ者も居るが。


「なんてこった。それにしても、オルツァー。お前が付いて居ながら、みすみす奪われるとは。敵に余程の手練れでも居たのか?」


「団長は、私の事を買い被りすぎです」


 何しろ、私は、あれだけミネに『私が守ってやる』と豪語したのに、目の前で助けを求めるあの子を守れなかった。

 私など、強くも何ともない。私は、ただの慢心した愚か者だ。


「口調が、ここに来た当初の口調に戻ってるぞ。愚か者の犯罪者になめられない様に、口調を崩したんじゃなかったのか?」


「そんな口調や態度など、何の役にも立たないと言う事が、よくわかりました」


 どれだけ外面を変えても、所詮、私は私でしかないと言う事がよく判った。ならば、私なりの真摯をもって、形振り構わず、全力でミネを助けよう。


「この件に関して、手を貸して戴けないでしょうか。捕らえた襲撃者は、借金のカタと称して王都から薬の魔女の姪孫のミネを追って来たと言うことですが、奴らの本拠地が辺境伯領にある事を白状しました。

 ミネを助けるのを、手伝って戴けないでしょうか。お願いします」


「オルツァー。他に判っている事は?」


「言葉に訛りがあったので、奴らに出身地を問うと、デザリスタ出身だと白状しました」


 それを聞くと、団長は露骨に嫌な顔をした。


 まあ、そうだろう。また新たなデザリスタの騒動が持ち上がったんだからな。奴らは、どうして自国で大人しくしてないのか。

 我が国とデザリスタの国境には、魔獣やその1ランク上の魔物まで多く生息している森まであるのに、何故、態々、こちらに色々仕掛けて来るのか。


「よし!騎士団長。オルツァーの持ってきた件の裏が取れたぞ。準備をしろ。我が国で、いらん事をしようとしている奴らに、目にもの見せてくれる。急ぎ、捕り物の用意をしろ」


 嬉々としたタンディン様が、ドアを勢いよく開けて部屋に入ってきた。相変わらず、行動が素早い人だ。


「何だ、オルツァー。ここに来た当初みたいな湿気た面を下げてる場合じゃないぞ。さっさと用意して、一緒に来い。ミネとか言うチビを奪い返しに行くぞ。

 また1つ、デザリスタの馬鹿者共のアジトを潰せるんだ。胸を張れ。そして、怒りを自分にぶつけるんじゃない。


 悪いのは、奴らだ。


 奴らに怒りをぶつけろ!」



 これだから、この人には、敵わない。



 待ってろ、ミネ。すぐに行くからな。


 



「やあ、ミネルバ。大叔母さんの家に引っ越すのだろう?お餞別をあげよう」


「ありがとうございます。カウマン教授……って、これ、火ネズミじゃないですか!?」


「可愛いし、場所を取らないし、役に立つし。良い子だよ」


「え~、クリネズミの方が尻尾もモフモフで可愛いですよ」


「クリネズミは、ロープを齧る位しか役に立たないだろう」


「でも、火ネズミには、嫌な思い出が」


「あれは、アレグサーが10匹も一気に使おうとするから、とんでもない事になっただけだ。一匹だけだと、可愛いモノだ。ほら、撫でてごらん。白鼠と火ネズミのハイブリッドだ。可愛い上に、賢いぞ。火が欲しい時にも便利だ」


「確かに、小さくて可愛いですね」


「それでだな、例のもちもちクッションなんだが、大きいものが欲しいんだが」


「どれくらいの大きさですか?」


「そんなに大きくはないんだ。ただ、ベッドに敷きたい」


「教授のベッドって、キングサイズじゃないですか。ムチャクチャ大きいです、それ」





 お餞別は、賄賂じゃありません~。フワフワもちもちクッションの虜となったカウマン教授、夢は大きくキングサイズ。



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