地力
900PV、ありがとうございます。
“まずい。空気に飲まれている”
輝幸は感じたが、それに抗う術が輝幸にはなかった。
「アペリオと申しま~す。よろしくお願いしま~す。」
輝幸は、平静を装って、なんとか口にした。
「‥‥」
綾子の合いの手が入るはずが、入らない。
最悪の事態が頭をよぎり、輝幸が、客席から綾子へと視線を移すと、
綾子はゲスト席の方を見ていた。
そして、
「ねぇ、静流くん。そんなに私たちのネタ見るの待てなかった?」
と、問い詰めるように言う。
輝幸の脳裏に、先ほどの、新陽静流のインタビューがフラッシュバックする。
「早く見たいって言ってたから、俺たちを一番に引いたわけじゃないだろ!」
会場が綾子のボケを理解し、クスクスと笑いが起きる。
続けて綾子がブチ切れる。
「もう二、三組くらい待てただろ!こっちが ”滑り” そうだわ!」
「”氷上の貴公子”にキレてる女子、初めて見たわ!」
会場の笑い声が一段跳ねる。
その笑い声を聞いて、輝幸は冷静さを取り戻した。
会場に漂っていた堅い空気が取れた‥‥
ネタの本線が始まる。
朝の情報番組のお天気キャスターに扮した綾子が、
その爽やかなイメージの裏にある本音を、
独特の視点でシニカルに描き出す漫才コントだ。
――前半
分かりやすく、テンポよく。
屋外にお天気レポートにでた綾子扮するお天気キャスターが、さわやかな笑顔でレポートする。
輝幸は、スタジオにいる番組MCのアナウンサー役として綾子のレポートを受ける。
「アヤコさん。おはようございます。さわやかな朝ですね。そして、まだ、朝6時だというのに、今日も素敵な笑顔ですね。」
輝幸が、朝の情報番組にふさわしい、さわやかな雰囲気を演出する。
「ありがとうございます。朝の3時から、鏡の前で格闘した甲斐がありました。」
綾子が、さわやかな笑みを崩さずに、キャスター口調で返す。
「3時間?!いや、あんま、言わない方が‥‥」
輝幸が、戸惑った表情と声のトーンで、ツッコむ。
「今、”死闘”から帰ってきたばかりです。」
綾子が爽やかな笑顔のまま畳みかける。
「やめろ!」
輝幸が叫ぶ。
「メイク室で生死を掛けて闘うなよ!beforeを見るのが怖いわ!」
客席の笑いが、少しずつ積み上がる。
――中盤
綾子が、加速する。
「今日は、少し風が強いので、お気をつけくださいね〜
‥‥って言っても、皆さん今、局に履かされてるこの短いスカートしか見てないんでしょうけど。」
さわやかな笑顔と声で、毒をまき散らす。
「おおぃ!…いや~、風の音で音声が乱れたようですね。」
輝幸が、慌てて取り繕う。
情報番組のMCと、ツッコミを両立する。
会場から笑いが起こる。
綾子が、さわやかな笑顔をくずさず、畳みかける。
「パンツ見えたって、SNSに書くんでしょ?ねぇ、書くんでしょ?」
「サイコパスかお前は!笑顔のまま、カメラに詰め寄るな!」
会場の笑いのボルテージが上がる。
――行ける
冷静さを取り戻した輝幸が、状況を俯瞰で見て、分析する。
――終盤
ネタは、最後まで崩れなかった。
綾子が爽やかな笑顔のまま中継を締める。
「それでは、皆さん、今日もお仕事がんばってくださいね~♪私はこのあと、局の廊下で粉かけてくるアイドル崩れを、笑顔でスルーする仕事に戻ります。」
「誰かの顔が目に浮かぶなぁ!!」
不謹慎な綾子のボケ。
想像を掻き立てる輝幸のツッコミ。
モラルの境界線上を綱渡りするその危うい表現に、会場が揺れた。
いよいよ、第一章も佳境、
手に汗握る決勝の舞台をお楽しみください!
応援、よろしくお願いいたします。
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