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楽園から続く道  作者: 詠み人知らず


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38/49

決戦

900PV、ありがとうございます。

 会場に入った瞬間、空気が一段階、硬くなった。

照明はこれまでで一番強く、天井から吊られたライトが、舞台を白く切り取っている。

客席の密度も違う。

観客の顔にも、期待とともに、わずかな緊張が混じっている。


 ――決勝だ。


輝幸は、それを、再び認識した。

ここは、“物語の終わり”として扱われる場所だ。


控室は静かだった。

無駄な会話はない。

誰もが、自分の中に潜っている。


圭介と遊星は、少し離れた場所にいた。

圭介は立ったまま、軽く身体を揺らし、他の出場者と笑顔で話しをしている。

遊星は椅子に座り、台本を膝に置き、目を閉じている。


 ――自然だ。


二人を見て、輝幸はまず、そう感じた。


"二人は、もう自分たちの形を持っている。

自信、そして慣れ、勝負の場に立つことを、心と身体が理解しているようだ。

それは、闘い続けた者だけが獲得できるアドバンテージであり、学生時代、勝負から逃げた自分にはないものかもしれない"


そんな考えが輝幸の心を曇らせようとしていた。

すると、


「見てる?」


 綾子が、小さく聞いた。


「……見てるよ。」


「私が言った言葉覚えてる?」


綾子は言った。

輝幸は、綾子がくれた言葉を思い出し、

自分の頭のなかで、彼らの存在を大きくしていたことに気づいた。

輝幸が綾子に応えるため、再び口を開こうとしたとき、

後ろから近付いてきた男が、輝幸に声をかけた。


「よう。」


振り返るとレイだった。

「お疲れ様です。」

輝幸は言った。

「調子はどうや?」

レイは聞いた。

「大丈夫です。」

輝幸は、答えた。


横で二人のやりとりを聞いていた綾子は、

「大丈夫」って言葉は「大丈夫」じゃない人間が使う言葉だと思った。

しかし、それを口にした輝幸の目を見て、本当に「大丈夫」なんだと理解した。


綾子と同じく輝幸の目を見ていたレイは、少しの沈黙の後、

「ち‥‥」っと、舌打ちをした。

それを聞いた輝幸が、不思議そうにレイの顔を見ると、レイが口角を上げて、続けた。

「”もう少し、モタモタしてろ”って言ったやろ。」

そう言って、輝幸の背中を叩くと、相方のもとに帰っていった。

レイと自分は今はライバルだ。

だから、あれが、レイなりの激励なんだろうと、輝幸は思った。


決勝は、TV番組で生中継される。

控室でその番組が始まるのを待っていると、綾子が口を開いた。

「まずは、ネタ順ね。」

「そうだね。」

輝幸は、ゆっくり頷いた。

決勝は、例年、スタジオゲストによるくじ引きで、ネタ順が決められる。

今年は、アイススケート日本代表、新陽静流しんようしずるがくじを引く。

新陽は、氷上の華麗な滑りから、「氷上の貴公子」と呼ばれ、今年、オリンピックでゴールドメダルを獲得して、世間の注目を集めた。

漫才出番の先頭は、会場も温まっていないし、いくらネタが面白くても、次にそれを超えるネタが来た場合を想定して、審査員は低い点数を付けがちだ。

「できれば、真ん中か、やや後半がいい。」

事前の打ち合わせで皆藤が言っていた言葉を思い出す。


番組がスタートし、MCの常田宗司から、審査員とゲストが紹介される。

審査員の最後に紹介され、口を開いたのは、お笑い界の生ける伝説、島本弘敏しまもとひろとしだ。

彼は、この大会の創設に深く関わり、お笑い界に「点数」という物差しを持ち込んだことで、芸能界におけるお笑い芸人の地位を押し上げたと言われている。

この大会に出場している芸人の9割は、彼にあこがれて、この世界の扉を叩いたといっても過言ではない。

「今年は、例年以上の顔ぶれが揃っています。最近TVで見かけて、こいつらは”違う”なと思った顔が、全員ここに集まっている。流石ですね‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥僕の見る目が。」

MC席で、深く頷いて聞いていた常田が、大きくずっこける。

それを見て、照れ笑いした島本は、

「まぁ、それはいいんやけど、この中から、次の“お笑い”を背負っていくやつらが出てくるのは、間違いないと思てます。期待してます。」

と言った。

それを聞いた会場は騒然とした。

島本が他の芸人のことをこんな風に表現したことは、これまでの大会はもちろん、それ以外の場でも一度もなかった。

ただでさえ緊張感があった会場の空気が、さらに張り詰める。


「島本さんからスゴイ言葉をいただいて、控室は震えあがっているんじゃないでしょうか。」

常田が自身の興奮を抑え込みつつ、場の空気をコントロールにしかかる。

「では、続いて、ゲストの紹介です。まずは、新陽 静流くん。」

「はい、今日は楽しみにしてきました。早くネタが見たいです。」

「先日のインタビュー見ましたよ。アペリオが好きなんですか?」

「そうです。前からYou Tubeとか見させてもらってます。今日は、頑張ってほしいです。」

「ありがとうございます。アペリオの二人も大変心強いんじゃないでしょうか。」


控室のモニターで、二人の会話を輝幸と綾子も見ていた。

先日、彼がTVのインタビューで、”アペリオのファンである”と語ったことは、輝幸も耳にしていたが、半信半疑だった。

こうして、遠い存在だと思っていた国民的スターが自分たちのファンだと語っているのを目の前にしても、頭が現実だと認識しない。

「それでは、続いて‥‥」

輝幸が混乱している間にも、常田が次のゲストの紹介に移っていた。

隣で綾子が、

「女性ファンに刺されそうだな。」

と場違いなつぶやきをしていた。


ゲストの紹介が終わり、常田が進行する。

「それでは、ネタ順を決めるくじ引きです!」

「新陽 静流くん。お願いします!」

緊張した様子で、舞台に上がり、くじの入った箱に手を入れる新陽。

照明が変わり、ドラムロールが鳴る。

「頼む。来るな。」輝幸は心の中で手を合わせた。

控室全体が息を止めて、モニターを見つめている。


新陽は、自分が引いたくじを見て、一瞬驚いた顔をしたあと、常田にそれを渡した。

常田が、くじに書かれた名前を見て、大きな声で読み上げた。


「アペリオ」


会場が湧く、

そして、控室も湧く。

周りの芸人たちが、輝幸と綾子に声をかけるが、

輝幸は頭が真っ白で何も頭に入ってこない。


フワフワした足取りで、決勝の舞台に向かう。

スタッフに誘導され、せり上がりに立つ。

せり上がりに立って、動き出すのを待つ間、ようやく綾子の顔を見た。

綾子は輝幸の視線に気づき、笑みを作るが、その唇は、かすかに震えているように見えた。

輝幸は、綾子に何か声を掛けようとしたが、何も出てこない。

やがてせり上がりが動き出す。

そして、動きが止まり、決戦の扉が開かれる。


会場に響く、強烈な出囃子の音。


輝幸は、その音に導かれるように舞台に足を踏み出した。

いよいよ、第一章も佳境、

手に汗握る決勝の舞台が始まりました。

応援、よろしくお願いいたします。

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