第13話 初任務からの狼
「援軍、ですか」
八千人との戦闘をなんとか凌いだ俺たちは、ヴィーザル支部長から任務を言い渡されていた。
援軍ってことは、どこかで戦闘があるか、もうやってるかってことだ。
「そんなに大規模な戦闘になるんですか?」
アカネが少し心配そうに尋ねた。
「いや」
ヴィーザルはそれを即座に否定するが、だったら援軍の意味は何だ。
「何、今既に現地調査に出ているエインヘリヤルが居てな。そいつらを手伝って欲しいのだ。……日本の、古戦場なのでな」
「! ……承知しました」
アカネは納得したようだ。
まぁよく分かんねえけど、この様子ならアカネに聞けば分かるだろ。
ん、待てよ?
「あの」
「どうしたハガネ」
「日本のって、高天原じゃないんすか? 現世の古戦場?」
「その通りだ。不思議に思うだろうが、これも高天原を奪還するための布石となる。古戦場というのはな、多くの人間が大量に魂となった場所だ。その奔流は、神話世界と現世を繋ぐ、大きな扉を作り上げる」
「戦士だったからといって、エインヘリヤルになる訳じゃないのは説明したよね?」
「ああ、死んだ魂は一つになって、生まれ変わるのを待つってやつだよな」
「そう。……でね。本来、その一つになった魂の面倒を見るのは、黄泉の国の仕事なのよ」
まあ、あの世って言うしな。
でも、その黄泉の国が暴れてるわけだろ?
「てことは、亡者の魂は……今どうなってるんだ?」
「現状は野放しね」
「うむ。導き手のいない魂の奔流はやがて、勝手に流れ始める。そうすると、今生まれてはならない命が生まれてしまう。今ある生命が押し出され、本来なら今死ぬ予定のない者が死に、魂となる。その魂を導くものが」
「俺をお迎えに来た、あの亡者か……」
「正しくは『黄泉醜女』という。黄泉の国の入り口である、黄泉比良坂の、まぁ言ってみれば門番みたいなものだ。そして、古戦場は黄泉比良坂の扉を開く」
ヴィーザルは淡々と言うが、それ割とやばいことなんじゃねえか?
「扉から亡者がいっぱい出てくる……?」
「それも、死んだ人の魂を迎えに行くんじゃなく、生きた人の魂を狩りに、ね」
「更に、野放しになった魂が大量に扉から現世に押し寄せる」
「おれが死んだとき、アカネも亡者も普通に来てたよな? ああいうことじゃねえの?」
「規模が違うのよ。少数の魂の行き来なら、そのへんに自然にある扉で出来るんだけど」
「昔大量に人が死んだ古戦場は、現世とこちらの境目が曖昧なのだ。ただでさえ自然発生しやすい上に、こちらから現世へ、扉を無理やりこじ開けることも出来る」
……なるほど。つまり。
「平たく言えば、大ごとってことっすね」
「う、うむ」
「平たすぎるのよねぇ……」
すまんね、雑で。
「それで、既にエインヘリヤルが派遣されているところに援軍というのは……」
「それは現地で実際に見聞きした方がいいだろう。お前らが行くことは、現場には既に伝えてある」
「承知しました。古戦場調査の援軍、お受けいたします」
「うむ、頼んだ。……出立は明日の朝だ、頼んだぞ」
「あの」
「ん、どうしたハガネ」
「行くのは分かりましたけど、場所はどこなんすか? 古戦場っていくつもありますよね?」
「……は」
「は?」
「ハガネがなんか賢いこと言ってる……」
どんだけ頭悪いと思われてたんだ俺は。
「だって場所がわかんなきゃ行きようがないだろ」
「ああ、扉があるからそれは大丈夫、だけど確かに場所は気になるわね……」
「うむ、今回お前たちの行く古戦場は、 ――会津だ」
――――
「はい、ということでね、やってきたわけですけども」
「何そのロケ感」
「や、だって、実際簡単に来られちゃったでしょ?」
「まぁな……」
神話世界と現世ってどうやって繋がってんだ?
俺が来た時のあのごっつい門を潜って、ちょっと歩いたらここ、会津の鶴ケ城に出た。
「あ、そういえばさ、アカネ」
「んー?」
アカネは何やらニコニコしながら俺に腕を絡めてくる。うん待って、これデートじゃない。嬉し楽しいけど。
「俺が死んだ時、お前いかにも『降臨!』って感じで来たじゃん? 今回はなんか普通にぬるっと現世に来ちゃったけど、この差はなんだ?」
「んー……」
アカネは顎に指を添え、ちょっと考えた後、さらっと言った。
「……演出?」
「おい」
「まぁそれは半分冗談だけど」
「……あと半分は?」
「きっかけ、かな。ああいう登場の方が、ちゃんと『自分は死んだんだ』って理解しやすいでしょう?」
まあ、たしかに。
「たまにね、死んだことに気づかない人もいるのよ。で、そんな人の前に、普通にしれっと出現したら、ただのコスプレじゃない? この格好」
「だとしたら相当金かかってる感じはするけどな。……ん、あいつらじゃね?」
ここから50メートル程離れたところに、それらしい人影を見つけた俺は、アカネに話しかけた。アカネは少し目を凝らした後、
「……うん、あの人達だね。っていうか……侍?」
「和服で刀差してるしな、多分そうだと……っておい、あの服」
アカネも気づいたようで、目を丸くしている。
「……本物? コスプレ?」
「いや、顔見えねえし分かんねえけど……」
言いながら近づく俺たちに向こうも気づいたのか、こちらを振り向いた。
その時、直感した。
すげぇ眼してやがる……。
「本物だ」
「だね……」
「わざわざ申し訳ない。なにぶん人手が不足していてな、此度は宜しくお頼み申す」
相手は礼儀正しく、綺麗なお辞儀をした。慌ててこちらもお辞儀をし返す。
「ご丁寧にいたみいります。私は日本支部所属ワルキューレ、風見アカネ。こちらは専属エインヘリヤルの結城ハガネです」
「まだ成り立てですが、宜しくお願いします」
「これはご丁寧に。……ああ、申し遅れた。私は」
やっぱりそうだ。
この特徴的な羽織。ざんばら髪。この眼光。
魂の強さ、か。なるほど、これ以上の人はそうそう居ないだろう。
「――新選組副長、土方歳三と申す。以後見知り置きを」





