第12話 八千人からの初任務
「つ、突っ込んでくるぞ!」
「岩場を使え! 崩れた石でスピードが落ち」
「落ちねええええ!!」
「なんだあいつら、背中に羽根でもついてんのかっ!!」
走る。疾走る。
全力で走る俺のすぐ後ろに、アカネがぴったりと付いてくる。
「このまままっすぐ! せーのでジャンプ! せーのっ!!」
「おう!!」
アカネが先を読み、指示を出す。俺は盾を前に出し、言われたルートをひたすら走る。
戦場では圧倒的にアカネの視野が広い。更に、コンビでの戦闘訓練を重ね、24時間一緒に居続けることで、お互いの呼吸も理解している。
恵まれた環境なのは分かってる。だからこそ、与えられた状況を無駄なく使う。
夕方には死に、朝に蘇る。
俺にとっての1日は、実質12時間ほどしかない。
死んでいる間、アカネはその日の訓練を全て記録し、翌朝アドバイスをくれる。シールドインパクトなどの技も、その過程で教えてもらったものだ。
ここまでされて、モノになりませんでしたじゃあ済まされない。
何より俺自身が許せない。
「新入りの分際でぇぇっ!!」
「うるせええっ!! 新入りがどうした、てめえよか強えぜ!!」
前から突っ込んでくる数人を、スピードを落とさず突っ込んで蹴散らす。
「邪魔だああああっ!!」
「いまだっ! 全員撃てぇっ!!」
前衛を蹴散らした直後、視界の端に、遠目の距離から矢をつがえるやつが数人見えた。
「ハガネ!」
「おし!」
ほんの少しだけ速度を落とす。アカネとの間が詰まるのが気配でわかる。
そして。
「はああああっ!!」
次の瞬間、俺の背中にとん、と軽い衝撃がくる。
アカネが俺を踏み台に、ジャンプしたのだ。
矢というのは、放物線を描いて飛ぶ。距離が近ければ真っ直ぐに飛ばすことも出来るが、見えた限りでは、まっすぐに矢を撃ち出すことは出来そうになかった。つまり、矢はこちらに向かって、上から降ってくることになる。
アカネはそれを、槍で迎撃する。
アカネは以前、俺にこんなことを言っていた。
――
「スピンシールドっていうんだけどね」
「シールド?」
「そう。まぁ、本当の意味でのシールドじゃないんだけどね。蜻蛉切の回転で風を起こして、それで身を護る技。他にもいくつか防御の技はあるんだけど、その間は攻撃出来ないじゃない? だから、ハガネがいてくれると、そういうのを使う機会が減って、その分攻撃に回せるの。いやー助かるわー」
「俺の彼女は脳筋だったのか……」
アカネは今まさに、そのスピンシールドを使っている。
……けどアカネさん。
「うあああああっ!!」
「た、助けてやあああああっ!!」
……周りみんな吹き飛んでますけど。
スピンだのシールドだのじゃねえよ。もう台風だこれ。
周囲を一掃する暴風を巻き起こしたアカネは、すぐに追いついてきた。
「お待たせっ!」
「自信なくすなぁおい……」
――
攻撃に特化しているというアカネだが、その実、防御の手段がないわけではない。なんなら今のようなカウンター技をいくつも持っているので、もしかしたらこれまで、防御の必要がなかったのかもしれない。
そんなアカネを守るわけだ。
ヘタれる暇なんてどこにもねえ。
「次の大岩を右に迂回! 向こう側に数人!」
「おう!」
大将首まではおよそあと半分。
俺はスピードを落とさず、ラグビーのステップのように岩を回り込む。その際、イージスを前に突き出すように構えておく。
一方、アカネは逆に、左に回り込んでいる。挟み撃ちだ。
アカネがひと足早く敵と遭遇したらしい。向こう側から叫び声が聞こえる。
「反対に回れ!」
「ワルキューレはほっとけ! 盾を殺す!」
まぁそうなるわな。
こっちは盾、攻撃手段は盾で殴るだけだ。
――とか思ってんだろうな。
「おっしゃ、死ね……ぇっ!?」
「てめぇらがなぁ!!」
そう言い捨て、俺はイージスのハンドルに付いているレバーを思いっきり引いた。
「いけっ! パイルバンカーアアアア!!」
イージスの先端に少しだけ頭を覗かせている、俺の腕ほどの太さがある鋼の杭は青い光を放ちながら、飛び出してきた剣士の土手っ腹にぶっ刺さった。腹を突き破った杭はそのまま伸び、岩陰にいた十数人全てを串刺しにして、元の長さに収まった。
「練習の成果だね!」
再び合流したアカネが楽しそうに笑う。
そう。
これは、ヘイムダルとの戦闘訓練の中で編み出した、俺のオリジナルだ。
「思いの強さを形にするには、生前の常識などには囚われない方が良い。いつまでも肉体のあった頃の鎖を外せなければ、お前は生前の力程度しか出せぬぞ」
パイルバンカーは飛び道具とは違う。撃ち出した杭は盾から離れず、最大限伸び切ったあとは元の状態まで戻ってくる作りになっている。
だがその長さは、それが魂の産物である以上、上限はない。
思いの強さ次第なのだ。
パイルバンカーで1グループを片付けた俺は、妙なことに気づいた。
敵が少ない。
アカネも同じことを考えていたようで、
「ねえ、気づいた? 敵の数少ないよね」
「ああ、俺も思ってた」
「……ねえ、あれ」
「……なにやってんだあいつら」
見ればエインヘリヤル同士が、何やら戦っている姿が見える。それは一箇所だけではなく、あちこちで小競り合いが始まっていた。
「きちんとした指揮がいない、立ち向かえば返り討ちか。……まぁ揉めるよなぁ」
「多すぎちゃったんだねー」
まぁ、そういうことだな。
結局この日、大将の直前まで辿り着いたところで日没になり、模擬戦は終わった。
大将がこないだのセンパイだったのにはちょっと笑ってしまった。お口ポカーンだったな。馬鹿野郎、いつまでも同じとこで足踏みしてると思うなよ。
最終結果。
残存兵力、5246:2。内、同士討ちが約2800人。
これが、初めてヴァルハラで日没を拝んだ最初の日となった。
――――
翌日、俺とアカネは、支部長のヴィーザルに呼び出されていた。随分と久しぶりな気がする。
俺たちが部屋に入るなり、ヴィーザルは相好を崩した。
「昨日はよくやったな。まさかここまで成長が早いとは思わなかったが」
「アカネとヘイムダル様、のおかげですよ」
「それでもだよ。……そこで一つ、頼みがある」
それまでにこやかだったアカネの顔が引き締まる。
「任務、でしょうか」
「任務だ。ひとつ君たちにやってもらいたいことがある」





