表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/30

第14話 狼からの巨人

 新選組副長土方歳三。

 多分、日本人なら誰もが名前だけは知っている、幕末の侍。

 それが、エインヘリヤルだと……?


「……すみません、質問いいですか」

「む、君は結城君だったか。どうした」

「土方さんがエインヘリヤルというのは、どういうことでしょうか。エインヘリヤルになった魂は、現世の人たちから『いなかったことになる』と聞いたんですが」

「またハガネが賢いことを……」


 アカネさん余計なこと言わないで。俺今、結構感動してんだから。

 土方歳三って言えば地元の名士だぜ。活躍したのは京都に行ってからだけど、多摩出身で幕末の時代に大活躍した最強の武士集団、その実務部隊のトップだ。その本人と会話してるんだ。

 沸き立つよな。


「おお、そこか。……うむ、では余り時間がないのでざっくり言おうか」


 土方さんはニヤリと笑った。


「堅苦しい物言いはもういらんな。……おれぁ死んでから、高天原で英霊になってたんだ」

「英霊……」

「英霊ってのは人から記憶がなくなったりはしねえんだ。だから知ってんだろうよ」

「なるほど……」


 しきりに感心する俺。あれ、アカネは?

 なんで頭抱えてんだ?


「土方さん」

「おう」

「雑」

「おう!?」

「まぁ時間もないし、それでいいですけど……。そんなわけで、高天原が機能してない今、ヴァルハラ預かりのエインヘリヤルとして活動してもらってるってわけ」

「なるほどなんとなく理解した」

「おめぇさんも大概雑だなぁ。気が合いそうだ」

「かっ、感激です! よろしくお願いします!!」


 やべ、ヘイムダルやヴィーザルと会ったときより緊張してるわ、俺。

 あれだ、大御所の演歌歌手よりも、好きなバンドのボーカルの方が緊張するみたいな。


「それで土方さん、私たちは援軍として何をすれば……」

「歳で構わねえよ。……ちっとな、扉の開きそうな淀みが3つほどあるんだが、それぞれが結構離れててな。おれともう一人で二ヶ所は見張ってんだが、もう一ヶ所の張り込みを頼みてえんだ。これ、通信機な。まだ関係が薄いから、念話はつながらねえだろ」

「分かりました。どこへ行けば?」

「ああ、ここから一里とちょっと先にある」


 歳さんが少し寂しそうに見える。

 穏やかだが、かすかな哀しみを感じる表情をしていた。


「……飯盛山だ」


――――


 飯盛山まで5kmほど。

 一度「道」に戻り、扉を開き直せばすぐだ。


「歳さん、なんか寂しげだったな……」

「……白虎隊」

「え?」

「幕末の会津戦争に参加した、少年兵の集団よ。……飯盛山で全滅したの」

「……」

「新選組は京都で活動した組織だけど、所属は会津藩だったでしょう? 特に土方さんは、会津戦争にも参加してたから……」

「少年兵、か」


 おれか、それより若いやつらが、大勢この山で戦って、そして。

 

「きついな」

「だね……」


 「道」を抜け、飯盛山の中腹あたりに出る。地面に凹凸はあるものの、比較的起伏がなだらかな場所だ。それなりの広さがあるので、包囲されたら厄介だ。


「ここで大勢とやるのはちと不利だな……」

「そうだね。まぁここに向こうからの扉が開くとは限らないし……」

「……いや」


 ぽっかりと空き地のようになっているこの場所のど真ん中に、どす黒いものが澱み始めている。


「ここでビンゴくせぇぞ」

「だね。まだちょっと時間ありそうだし、連絡入れとく」


 俺たちは背の高い草が茂っている方に向かう。とりあえず様子を見る構えだ。

 アカネが歳さんにもらった通信機を出し、通信を始める。

 ……そういえばさっき気になることを歳さんが言ってたな。


「アカネ、念話ってなんだ?」

「関係の深い間柄で使えるテレパシーみたいなものだよ……あ、土方さん、扉が開きそうです……え、そちらも!? ……はい、はい。分かりました、では」


 通信を切ったアカネだが、その顔色はあまり良くない様に見える。


「土方さんのいる鶴ケ城にも淀みが出来てるって。あと、もう一人の方も」

「マジか……。もう一人って誰なんだ?」

「わかんない。でも土方さんが単独行動を任せるんだから、相当な人なんじゃないかな……ん、来たかな」


 アカネの言う通り、どす黒い淀みが大きくなっている。その奥には何かが蠢いていた。


「……思ったより少ねえか」

「だね。……4体ってとこかな。これくらいなら楽勝……っ!?」

「どした……うおっ!?」


 淀みがどんどんでかくなっていく。既に人間どころか、象でもくぐれるんじゃねえかってサイズだ。


「ここまでの大きさ……何が出てくるの……」

「こいつぁ……」


 まるで巨人でも出てくるみたいだな、と言いかけた。

 が、俺の口からはその言葉は出なかった。

 なぜならば。


「ガチで巨人かよ……」


 普通の人間サイズの亡者が3体、そして5メートルはありそうな巨人が1体。

 それが今、淀みから現世に現れた。

 だが、やつらはなぜか、足を止めてあたりを見回している。


「なんか探してんのか?」

「多分まだ目が慣れてないんだよ。……チャンスかも」

「だな。俺が巨人釣るわ。その間にあの3人を頼む」

「そんな、ボクが釣るよ!?」

「いや」


 俺が3人を同時に相手にするのはリスクがある。イージスは強力だが、攻撃を防ぐ方向が限られてしまう。それにアカネは槍だ。あの3体はどうやら俺が死んだ時のやつらと同じ程度みたいだし、それならアカネは1人でも充分やれる。

 だが、あの巨人は分からない。どれほどの力を持ち、どんな能力があるのか。


「巨人1体を推し量るなら、防御力の高い方が囮になった方がいい。時間稼ぎくらいはするさ」

「ハガネ……うん。わかった、それでいこ」

「とはいえ早めに頼むわ。ヘイムダルみてぇな硬さだったら、まだ俺には攻撃手段がねえ」

「ふふ、了解」


 草むらから出るタイミングを計る。

 巨人がこっちを向いて、他が目をそらすタイミング。

 上手く抜き出せれば、あとはまぁ、どうにかなんだろ。


「……よし、いくぜっ」


 俺は草むらから一人、躍り出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ