第6話 戦いの後のひととき、それぞれの想い
――あれからゆっくりと歩きながら、ガルドたちと街の冒険者ギルドまで戻ってきた。
ガルドが受付まで行き、戻ってきたことをギルマスに伝えるよう受付嬢に言う。
しばらく話した後、ガルドが後ろで待機していた俺たちの元へ戻ってくる。
「ちょっと待てばギルマスが降りてくるだろ。それまでここで待機しよう」
「りょうかーい」
「しっかし、今日は大変だったな」
「あぁ、おかげで今夜はよく眠れそうだ」
確かにロックが一番負担が大きそうな戦いだったもんな
とは言っても皆、同じくらい疲れているはずだ
「早く報告を終わらせて、晩御飯にしたいわね」
「えぇ、魔力を結構使ったせいでお腹が減ったわね」
女性陣もご飯を所望のようだ。
「待たせたな、ガルドとカイルだけ来てくれ」
そんなこんなと話していると、ギルマスが上から降りてきた。
「みんな、ちょっと行ってくる。待っていてくれ」
「おう(分かったわ)」
ガルドと共に、ギルマスの部屋へ行く。
前と同じく部屋へ入り、ギルマスが向かいのソファに座る。
「さて、こうして報告に来たということは」
「あぁ、件のモンスターは倒してきたぞ」
「そうか、よくやってくれた。礼を言う」
「別にいいさ、報酬をきっちり払ってくれればな」
「あぁ、もちろんだ」
ギルマスが自身の机に置いていた袋を取り、それをガルドの前に置く。
「これが報酬の金貨20枚だ」
「20枚?15枚という話じゃなかったか?」
「相手は未知のモンスターでそれもかなりの強さだという話だからな。検討しなおして、20枚にさせてもらった」
「そりゃありがてぇ。今夜は奮発しないとな」
ガルドが俺の方を向いてニッと笑う。
「なんだ?何か用でもあるのか?」
「あぁ、お疲れって事でカイルも連れて飯に行く予定なんだ」
「ふむ、そうだったか。沢山食べて、英気を養うといい」
「おう、そうさせてもらうぜ」
この男、こういうことも言えるんだな。
最初より少し柔らかい印象を受ける。
「それで、サイクロプスとやらはどうだった?」
「そりゃ強かったぜ!――――」
それから数分の間、ガルドがギルマスへ一部始終を説明した。
「――そんで決定打を打てなかった俺たちだが、カイルが加勢して倒したんだ」
「ほう、どんな風に?」
「剣でヤツの膝の裏を斬って足を止めて、腹を切って、最後に目を一突きって感じだな。いやぁ、アレは見てて気持ちよかったぜ」
「ガルドたちが消耗させていたおかげさ。俺一人じゃ無理だったはずだ」
「ハハハ、協力プレーだな!」
豪快に笑うガルドと、疑うような目で見てくるギルマス。
まさか、ガルドの説明に隠れた嘘を見抜いてるのか?かなり上手く嘘をついたように思えるが。
「ふむ、そうか。何はともあれ、ガルドのパーティメンバーを救ってくれて感謝するぞ。ガルドたちはこの街でも指折りの実力者たちだからな。回収班を送るから、サイクロプスを倒した場所を教えてくれ」
「あぁ、倒した場所は――」
ガルドがヤツを倒した場所を教える。ギルマスは疑ってはいるが聞いてはこないって感じか。
「ふむ、場所は分かった。早速、回収班を送るとしよう」
「それじゃあギルマス。俺たちは行っていいか?」
「あぁ」
――「しかし、そんなモンスターがなぜこんな場所に出てきたのか。警戒しておくべきか…」
そうして簡潔に報告を終えた俺たちは、部屋を出て仲間たちの元へ戻る。
「あ、やっと戻ってきた」
ロビーへ戻ると、椅子がある場所でロックたちが話していた。
「報告は終わったの?」
「あぁ、やっと解放されたぜ」
「カイルの魔法のことは言ってないよな?」
ちゃんと覚えてくれてるんだな。
「あぁ、そこの部分は話さずに伝えたが疑ってる感じだったな」
「そうだな、疑ってるが聞きはしないって感じだったな」
「へぇ~、さすがギルマスって感じだなぁ」
油断のならない男である。
「まぁとにかく、報告は終わったんだしご飯に行きましょ。ここで喋っててもお腹は膨れないわ」
「えーティナ、そんなにお腹減ってんのー?」
「そりゃあの戦闘の後だもの。減りもするわ」
「それもそうだな。それじゃあ行くか!」
そうしてギルドを出て、飯を食べに行くのだった。
ガルドたちと歩くこと十数分ほど。空はまだ青色で明るい。
野菜などを売る店や、魚などを売る店が増えてきて市場らしい活気のある風景になってきた
ガルドたちはどこで飯にするんだろうか
「なぁ、飯ってどこで食べるんだ?行きつけの場所があるのか?」
「あぁあるぞ。今そこへ向かってるところだ」
「剣斧亭っていうんだけど飯が全部山盛りでさぁ、ザ・冒険者の酒場って感じなんだよねぇー」
ん?飯に行くんだよな?飲みに行くわけじゃないよね?
「酒場なのか?」
「あぁ、酒場だけど屈強な冒険者たちが集うから、下手な飯屋よりも飯が大盛なんだぜ。酒場なのか飯屋なのかどっちだよって思うくらいな。まぁ、兼ねてるって感じか」
「そんなだから私とシルヴィアはあんま行かないんだよね、野蛮な奴らが多いし。私らはやっぱり金月亭のほうがいいわね」
「まぁそうね。女性はあっちの方が好きだと思うわ」
「けど、今日は来てくれるんだな?」
「今日は早い時間だし、野蛮な奴らはそんなに居ないでしょってことで」
彼女らも金月亭を利用しているのか。
「さぁ、着いたぞ。ここが俺たちの行きつけ、剣斧亭だ」
ガルドが指差す場所を見ると、入り口に酒杯と剣斧が交差した看板が掛けられた、木造の大きな建物があった。
「大きい酒場だな」
「だろー?さ、早く入って飯にしよー」
「あー、腹減ったぜー」
皆に続いて俺も剣斧亭へ入った。
中はまさに冒険者たちの集う酒場という雰囲気だった
「オヤジー、来たぞー」
「おう?ガルドたちか。なんだ今日はティナたちも居るじゃねぇか、珍しいこって」
「たまには利用してあげないとオヤジさんが寂しいかと思って~」
強面な店主だが、みんな親しいみたいだな。
「見ない顔もいるな。ツレか」
「あぁ、コイツはカイル。今日あったギルマスからの指名依頼で一緒に仕事した仲だ」
「ほう、そうか。まぁ、好きなとこに座れ」
「あー何食べよっかなー」
「俺はとりあえずエールだ!」
それぞれがこれからのメニューに思いを馳せながら席に着く。
俺も席に着いたところで聞いてみることにした
「ティナとシルヴィアも金月亭によく行くのか?」
「えぇそうだけど。この街に来たばかりなのに金月亭を知ってるの?」
「助けてもらった礼に飯を奢ったことがあるんだけど、その時に行ったんだ」
「それってもしかして、セラとノエル?」
「あ、あぁ。よくわかったな」
「カイルとギルドで初めて顔を合わせた時、あなたの後ろに彼女たちが居たからもしかしたらって思って」
あぁなるほど、そういうことか。
「それで? あの二人とはどうやって知り合ったの?」
ティナが興味深そうに尋ねてくる。
「街に入るところで困っていた俺を、セラが助けてくれたんだ。ノエルは最初、かなり警戒していたけどな」
「ふふっ、容易に想像できるわね」
シルヴィアが口元に手を当てて笑った。
「ノエルは訳あって、特に男には突き放すような態度を取るのよ」
「でも、セラが誰かを助けようとしていると結局は付き合ってあげるんだよなー」
ルークがそう言うと、ティナが頷いた。
「そうそう。あの子、なんだかんだ面倒見はいいからね」
どうやら二人の性格は、俺が思っていた以上に周囲にも知られているらしい。
「それで、カイルはこの街に来たばかりだったよな?」
ロックが尋ねてきた。
「あぁ。まだ分からないことだらけだ」
「なら、分からないことがあったら俺たちに聞け。冒険者を長くやってりゃ、多少は役に立つこともあるだろうさ」
「そうそう、俺たちも最初は何も分かってなかったしな―」
ルークが笑いながら言う。
その言葉に、ガルドたちも懐かしそうな顔をした
そうか、この人たちも学びながら今の強さまで上り詰めてきたんだな。
「って言っても、俺たちとガルドは途中から一緒に組んだんだけどな!ハハハ!」
ロックが豪快に笑う。
この人たちは最初から一緒だったわけじゃないのか
「ん?最初からパーティを組んでいたわけじゃないのか?」
「あ、言ってなかったわね。当時、訳あって一人だったガルドにロックとルークがパーティを組もうと申し込んで、そこに私とシルヴィアが加わったって感じなのよ。」
「俺とロックが6年前からで、シルヴィアとティナが3年前からって感じ―」
「へぇ、そうなのか。ってか、ガルドって最初は一人だったのか」
「あぁ、まぁ訳あってな。その辺のことはまた機会があったら話してやるよ」
「あぁ、わかった」
なにか訳ありって感じだな。
「ティナとシルヴィアも最初は二人だったのか」
「えぇそうよ。まぁ、私たちもガルドと同じく訳ありで。また機会があったら教えてあげるわ」
「そうか、なんかごめん」
こちらも訳ありみたいだ。俺は少し察してしまって、思わず謝ってしまった。
「なに謝ってるのよ」
「そうよ、気にしないで」
「んなことより、さっさと注文しちまおうぜ!」
「そうだよー、もう腹が限界」
「ハハハ、そうだな!」
ロックが話題を変え、メニュー表を机に広げる。
「俺は初めてだし、何かオススメは?」
「やっぱ剣斧亭と言えば!」
「冒険者の肉盛り合わせだな!」
なんだその名前は…
「あなたたちそれ好きよねぇ」
「ったり前だろ!冒険者といえば肉!肉と言えば屈強な男だ!」
ロックが右腕を曲げ筋肉を見せつける。
「はいはい、筋肉筋肉。脳まで筋肉なんでしょ」
「なんだと!そういうティナとシルヴィアこそ、毎回少量しか食べずにヒョロヒョロなんだよ!」
「私たちはいいのよ、女子はスタイルが大事なんだから」
「けっ、冒険者やっててスタイルなんざ気にしてもしょうがねえぜ。それに男はちょっと肉が付いてた方が好きなんだぜ」
「んなっ、余計なお世話よ!」
ロックとティナの痴話げんかを見ながら、仲いいなと思う俺。
この二人、実は付き合ってたりする?
「まぁこの二人のことは放っておけ。いつものことだからな。それよりカイル、料理はどうする?」
「あ、あぁ。その盛り合わせは多いのか?」
「あぁ、大盛りだな。言ったろ?この店は大盛りだって。って言ってもまぁ、俺たち男三人組はかなり食べるから、少ないくらいだがな」
「そうなのか、じゃあそうだな… 戦士の腸詰め盛りと荒野のごろ肉煮込み、それと剣斧エールかな」
「お、いいぞカイル!それでこそ冒険者よ!」
そんなこんなで全員メニューを決め、店主に注文した。
「っとそういえば、まだ今回の仕事の報酬を分けてなかったな」
ガルドがギルマスから受け取った報酬の入った袋を出す。
「あ、そういえばそうだったわね。今回の報酬はいくらだったの?」
「ギルマスは元々、金貨15枚って言ってたんだが少し割り増しして金貨20枚にしてくれたぞ」
「まぁ未知のモンスターだしねー。危険度もかなりの物だったし」
「そうだな、Bランクのモンスターと言ってもいいだろうよ」
「確かに。最低としてCランクって言ったけどBランクとして見るのがよさそうだ」
ゲームでは難易度としてはそこまでなモンスターだが、この現実ではあの強さだったわけだしな。
「金貨20枚か。六人で分けると、一人3枚ってところね」
「ただそうなっちゃうと、余っちゃわない?」
「あぁ、だから俺たちは一人3枚でカイルが5枚で分けようと思うがどうだ?」
俺だけ5枚?どういうことだ?
「なんでそうなるんだ?」
「そりゃだって最終的にはカイルが倒したわけだしねー」
「あぁそうだな、カイルの知識があったのも大きかったな」
「私に至っては命を救われたし、異論はないわ」
「まぁ私も… シルヴィアを救ってくれたしそれでいいわ」
ティナまでそう言うならありがたく貰っておくか。
「そこまで言うなら、ありがたく貰っておく」
「おう、そうしてくれ」
ガルドから金貨5枚を受け取る。
日本円にすると5万くらいか、命を懸けて3万と5万ってのは少なすぎる気がするがまぁ、今回のはイレギュラーだしな。しょうがない。
そうして話していると、店主が大きな皿をいくつも抱えてやってきた。
「お待ちどーさん!」
テーブルの上に、次々と料理が並べられていく。
あっという間に机一杯に料理が並んだ。
かなり量があるがこれを全部食べるのか?すごいなガルドたちは。
「なぁ、ほんとにこれ全部俺たちの分なのか?」
「へへ、驚いてるなカイル。これがうちの特徴よ!腹がはち切れるくらい食ってけ!」
店主が豪快に笑った。
「よーし!食べるぞー!」
ルークがさっそく肉に手を伸ばす。
ロックも負けじと豪快に食べ始めた
なるほどな。ここが冒険者たちの酒場と言われる理由が、少し分かった気がする。
「それじゃあ、遠慮なく」
俺も負けじと料理に手を伸ばした。
どれもこれも美味い。冒険者の盛り合わせの肉もソーセージたちも煮込まれた肉も。さすが冒険者たちが好んで食べるものだ、酒が進む。
「なぁ、ガルドのBランクになるまでの話とか役立つ話とかあったら聞かせてくれないか」
「なんだ唐突だな」
「いやさ、これから俺は一人なわけだし学べることは学んどかないとなって思ってさ」
そう、知識は力なり。
「パーティは組まないの?」
シルヴィアが驚いたように聞いてくる。
「そうよね、てっきりセラとノエルと組むもんかと思ってたわ」
「いやいや、セラはともかくノエルは一応俺のことは認めてくれたみたいだけど、まだ当たりは強い部分もあるし」
「そう?私にはそうは見えなかったけど。彼女のカイルを見る目、他の男を見るときのソレとは違ってたわよ」
「何が言いたいんだ?」
「別にぃ~」
このティナってヤツは…。しかしノエルの俺を見る目がねぇ… そうは思えないが。
「私もそう思った。ノエルはいつもは男を嫌悪するような目で見てなるべく避けるんだけど、カイルのことは別に嫌悪してないっていうか… なんていうかいつもの彼女とは違うように見えたわ」
「そうそう、ただそれが好きのソレなのかまではわからないけどね~」
「好きはないとしても、女同士はそこまで分かるもんなのか」
「女同士っていうかそれなりに付き合いの期間もあるからかしら」
「うん、そういうこと」
やはり女性の察知力は恐ろしい。侮れない。
ついでに気になっていたことを聞いておくか。
「ちなみにエルフってやっぱり長生きなのか?」
「いいえ、寿命は人間と変わらないわよ」
え?そうなの?俺の中のエルフのイメージが崩れていく。
「カイルの中ではエルフは長生きする種族だったのか、ガハハ」
ロックが揶揄うように笑う。
「あ、あぁ。そういうイメージがあった」
「エルフは美形が多い種族なんだよ。いいよなー、みんな美人美男ばかりでー」
そういうあなたも充分イケメンだと思いますがルークさん。
「ルークも充分かっこいいと俺は思うんだが」
「まぁ確かにな」
ガルドもそう思うようだ。
「えっへへー、褒められちったー」
「ルークはそのチャラい感じが無ければね~」
「えー、なんだよ俺はチャラくないぞ」
「はいはい」
確かにそれは俺も思う、と心の中でティナに同意しておく。
「顔の良し悪しで言うなら、私はカイルもかっこいいと思う」
唐突にシルヴィアが褒めてくれた。しかもなんかちょっと顔赤くしてるし。え?何この感じ。
「あ、ありがとう」
「え~、シルヴィアもしかしてそういう感じ~?」
「ほほう、シルヴィアにも春が来たかぁ~?」
皆が顔を赤くするシルヴィアを揶揄う。
言えない、この顔はドラレクで作ったキャラの顔だなんて。
「ま、まぁまぁ。その辺にして」
「ハハハ、そうだな。すまんすまん」
「帰ったら聞かせてよシルヴィア~」
これはティナに根掘り葉掘り聞かれる感じだなシルヴィア。頑張れ。
――そんなこんなでワイワイと皆で美味い飯を食べ終わった。
あれだけあった大盛りの飯たちが綺麗さっぱりだ。恐るべし、冒険者。
まぁ俺も全部平らげたんだけど。
ガルドが店主にお代を払って、後から自分の分をガルドに渡す。
「ふぅー、お腹いっぱいだぜー」
「これでよく眠れるわ、ハハハ!」
外に出るなり、そんなことを言うルークとガルド。
空を見上げるとすでにオレンジ色になっていた。
もうそんなに経っていたのか、風が少し肌寒いな。
「それじゃあ俺はこれで帰ろうかな、みんな今日はお疲れ様」
「え~、シルヴィアを置いて帰っちゃうの~?」
ニタニタと笑いながら揶揄ってくるティナ。やめてほしい。
「それはまた今度な。すまんなカイル、それじゃあまた困ったことがあったらいつでも頼ってこい」
「あぁ、助かるよ」
「じゃあねー」
「またなカイル」
「じゃ、じゃあね」
顔を赤くして少し俯き気味に手を振るシルヴィアを少しかわいいと思ってしまった。
まぁ、何はともあれこの街に来てまだ間もないが、心強い繋がりが出来た。
これはかなりの幸運だ。大切にしよう。
そう思いながらガルドたちに背を向け、宿へ歩き始める俺だった。




