第十三話『揃いも揃ってみんなダメ』
「奥の細道(大自然と精神世界の旅)」に出ようとしているのに、現代の「消費社会(欲望と物質主義)」という名のブラックホールから一生抜け出せずに歌舞伎町を徘徊し続ける五人。
もはや俳人による俳諧ではなく、
廃人による徘徊に成り下がっていた──
さっきのマッチョの言う通りかもしれないと啄木は酷く自己嫌悪しつつも、もはや病気なので治らないんだろうなあという虚な目で遠くを見る。
対してその隣にいる引きこもりニートの放哉は、もういつも見るゴジラヘッドの安心感の方が強まっていた。
「もう東北とか行くのダルいから良くない? 歌舞伎町の『奥の路地裏の細道』で安い居酒屋探そうぜ」
放哉が今日はもう酒飲んではよ寝たいオーラを出しながら言う。
「朝からやってる居酒屋あるのか?」
「24時間営業のとこあるわ」
子規と放哉の会話をそのすぐそばで聞いていた蕪村は珍しく放哉に同調する。彼女は昨日絵を描き、そこから資金を手に入れたはずだが、啄木のクズ行動により、完全に『やる気』が消滅したのだ──。
「そうね。とりあえず休息は必要! 芭蕉様。奥の細道に行くのは、もうちょい後でもいいかなって。バイトとかしてコツコツ貯めるのが一番だと思うの。ラクして手に入れたお金って有り難みがないからすぐに消えちゃう気がするし。それに、このクズボクにバレないようにお金の管理しなきゃ」
啄木のあだ名がクズボクになった瞬間である──。
だが、啄木は反省しなかった。いつか有名な小説家や俳人になって金を手にし、蕪村を見返してやる。女好きである彼は女に嫌われてしまうのが一番のダメージだ。一度失った信頼は戻らない。女を相手にする時にいつも思うことだ──。男としてのプライドを傷つけたコイツを絶対に許さない。
「……っ」
啄木は今の状況に自業自得すぎて涙すら出なかった──。
「それにね。私の推しのバースデーイベントに間に合わなくなっちゃう! 芭蕉様! 東北より歌舞伎町の方が絶対エモくて侘び寂びあるって!」
「お前それが本音やろ……」
放哉は心の中で思う。
(これであの悪態つきまくってたチューヤとかのバースデーイベントやったら、ホンマに救いようないわな……)
子規は子規でお腹をグゥ……と鳴らし、
「飯だ! 飯! 腹が減っては戦はできんって言うだろ? まず食ってから考えよう! な?! みんな!?」
「ほなら、ワイ、喫煙OKの居酒屋探すわ。ガッツリした飯も食えるとこ。チキン南蛮とかシメのラーメンもあるし子規にはええやろ」
放哉が神からこっそり支給してもらったタバコを咥える。
「お! いいな! それは。たまには良いこと言うじゃねえか放哉!」
「ヘルシーなものもあるといいわね」
「最近女の子に人気の麻辣担もあるで。アサイーボウルとかスイーツも充実しとるわ。酒の種類もカクテルとかあるし。なんでもある居酒屋やな。安いし」
「あんたやるじゃない! みんなの望みを実現する居酒屋って!」
蕪村から見た啄木の評価が地の底まで落ち、放哉の評価が上がった瞬間でもあった。
「ちなみにその居酒屋の名前『桃源郷』って言うんや。転生待機所で、居酒屋Googleマップ検索しててよかったわ」
「ハッハッハッハッハッ! 桃源郷か! こりゃ俳人の俺たちも一本とられたわ──」
それぞれがそれぞれの欲望に忠実になった瞬間、芭蕉は思う。
(ダメだこやつらは。あえて音の洪水で耳を塞いでその場凌ぎで生きとる……これたぶん、拙者、永遠に奥の細道に辿り着けないとかそういうオチでは──?)
芭蕉はビビリではあるが、内面は誰よりも尖った俳人である。そんなこと(居酒屋)より、さっきのマッチョのことが気になる芭蕉だった。
※※※
「で、肝心の金どうすんだよ。啄木が二回とも使い切ったぞ……」
「「あああああああ!!」
子規が全員に尋ねると、
放哉、蕪村が声を揃えて絶叫する。
芭蕉はため息をつき、啄木は申し訳なさなど微塵もなく、しらばっくれながら口笛を吹いた。




