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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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98/115

敵を知るために

第98話「敵を知るために」をお届けします。

大切なものを奪われ、復讐に囚われかけたアル。

それでも、憎しみのままに力を振るうことを選ばず、自分が本当に倒すべき相手を知るために動き始めます。

そしてアルは、ヴァルクレイン家の人質として王都へ向かうことを決意します。

ここから物語は、再び王都を舞台に大きく動き始めます。

ぜひ最後までお付き合いいただければ幸いです。


 王都からの使者が来た翌日。

 ヴァルクレインの屋敷には、重い空気が残っていた。

 新王ルシウス・フォン・ルクセリア。

 そして、ヴァルクレイン家への要求。

 新王への忠誠。

 領主としての服従。

 そして――。

 身内の誰かを王都へ差し出すこと。

 それは、体のいい人質だった。

 アルは自室の机に座り、一枚の紙を見つめていた。

 そこには、以前書いた文字が残っている。

 核のような魔法。

 大量の魔力。

 大規模なエネルギー。

 敵を、一瞬で消し去るための力。

 あの時は、それを本気で考えていた。

 黒ローブを。

 教会を。

 自分から大切なものを奪った者たちを。

 すべて。

「……」

 アルは紙を手に取った。

 指先に、僅かに力が入る。

 今でも憎い。

 父を奪った者。

 母を奪った者。

 マリアを奪った者。

 許せるわけがない。

 復讐したいという気持ちが、消えたわけでもない。

 それでも。

「……これを使ったら」

 アルは呟いた。

「本当に、敵だけを消せるのか?」

 答えは分かっている。

 そんな保証はない。

 大きな力を振るえば、そこにいる人間も、街も、何もかも巻き込む。

 敵がいる場所だけを、都合よく消すことなどできない。

「それじゃあ……」

 アルは目を閉じた。

 自分がやろうとしていたことは。

 復讐ではなく。

 ただの殺戮だったのではないか。

 罪のない人たちを巻き込む無差別攻撃。

「……父さんなら、何て言うかな」

 その言葉が、胸に刺さった。

 父は。

 アルが魔法について語る時、いつも楽しそうに聞いてくれた。

 分からないことがあれば調べる。

 仮説を立てる。

 失敗すれば、また考える。

 未知を恐れるのではなく。

 未知だからこそ、知ろうとする。

 それがアルの生き方だった。

「……そうだ」

 アルはゆっくりと紙を折った。

「まだ、何も分かってない」

 黒ローブたちは何者なのか。

 誰の命令で動いていたのか。

 教会はどこまで関わっているのか。

 ルシウスは、すべてを知っているのか。

 そして。

 その背後に、誰かいるのか。

「敵が分からないまま、全部壊すなんて……」

 アルは小さく息を吐いた。

「研究者としても、最悪だ」

 紙を机の引き出しへしまう。

 捨てるわけではない。

 忘れるわけでもない。

 ただ。

 今は使わない。

 その選択だった。

     ◇

 その日の午後。

 アルは食堂に集まった仲間たちの前に立っていた。

 レオナルト。

 セバス。

 リリア。

 ガレス。

 エルシア。

 イザベラ。

 フィオナ。

「俺が、王都へ行く」

 アルが言った。

 皆の表情が変わる。

「……本気か?」

 ガレスが尋ねた。

「うん」

 アルは頷く。

「ヴァルクレイン家の人質として、俺が行く」

「危険すぎる」

 イザベラが即座に言った。

「王都に入れば、監視もつくだろうし自由はないかもしれないわよ?」

「分かってる」

「なら、なぜ?」

 アルは少しだけ黙った。

「敵を、知りたいから」

 その言葉に、皆が静かになる。

「僕は……ずっと、父さんや母さん、マリアを襲ったやつらを倒したいと思ってた」

「今も、その気持ちは残ってる」

「父さんたちを奪ったことを、許せるわけじゃない」

 アルは自分の胸へ手を当てる。

「でも、誰が本当の敵なのか分からないまま、力だけを振るうのは違うと思った」

「だから、王都へ行く」

「ルシウスのそばで」

「教会の動きを見て」

「黒ローブが誰の命令で動いているのかを調べる」

 ガレスが腕を組む。

「……人質になりながら、逆に相手を探るってことか」

「うん」

 アルは頷いた。

「表向きは服従する」

「ヴァルクレイン家が新王に従うことを示す」

「その上で、僕はできる限り情報を集める」

 しばらく沈黙が続いた。

 やがて。

「……一人でやるつもりか?」

 ガレスが尋ねた。

 アルは首を横に振った。

「いや」

「みんなに協力してほしい」

 その言葉に。

 何人かの表情が、僅かに緩んだ。

 エルシアが小さく笑う。

「……よかった」

「え?」

「また一人で全部抱え込むのかと思った」

 アルは少しだけ目を伏せる。

「……うん」

「前なら、そうしてたと思う」

「でも、今は違う」

 アルは皆を見渡した。

「僕だけじゃ、見えるものに限界がある」

「だから、力を貸してほしい」

 その言葉に、ガレスが頷いた。

「分かった」

「なら、役割を決めよう」

     ◇

 話し合いは、しばらく続いた。

 そして。

 王都へ向かうのは、アルとエルシアに決まった。

 アルはヴァルクレイン家の人質として。

 エルシアは、その従者として同行する。

「私が行く」

 エルシアは迷わなかった。

「アルのそばにいる」

「……ありがとう」

 アルは静かに答えた。

 一方。

「私たちは別の方法で王都へ入る」

 イザベラが言った。

 フィオナも頷く。

「人質や従者ではなく、普通の民としてね」

「アルとは秘密裏に情報交換する」

「分かった」

 アルは頷いた。

「二人とも、気をつけて」

 そして。

 ヴァルクレインに残る者たちも決まった。

 レオナルトは、正式に辺境伯となる。

 この地を守り、領地を治める。

 セバスは、その傍らで執事として支える。

 リリアも屋敷に残る。

 そしてガレスは、ヴァルクレインを拠点に情報の調整を担う。

 王都のイザベラやフィオナから届いた情報を受け取り。

 エルフの里に残るリシェルとセレスへ伝える。

 同時に。

 エルフの里の状況や、魔人族側から得られた情報を受け取り、王都側へ繋げていく。

「簡単じゃないな」

 ガレスが苦笑する。

「でも、俺にできることをやる」

 アルは頷いた。

「頼むね」

 全ての役割が決まった。

 アルは一度、目を閉じた。

 まだ、憎しみは消えていない。

 失ったものを忘れることもできない。

 それでも。

 もう、何もかも壊そうとは思わない。

「……敵を知る」

 アルは静かに呟いた。

「そして、本当に倒すべき相手を見つける」

 そのために。

 自分は王都へ行く。

 人質として。

 服従する者として。

 そして――。

 研究者として。

     ◇

 翌朝。

 王都から来た使者が、再び応接室へ呼ばれた。

 レオナルトが席につき、その隣にはアルが立っている。

 使者はアルを一瞥した。

「ご返答をいただけるということで、よろしいでしょうか」

「はい」

 レオナルトが静かに答える。

 使者の表情が僅かに緩む。

「それでは――」

「お聞きいたしましょう」

 レオナルトは、使者の穏やかな笑顔の裏に、得体の知れない何かを感じた

 それでもレオナルトは続けた。

「ヴァルクレイン家は、新王ルシウス陛下のご意向に従い、絶対の忠誠を誓います」

「その証として我が弟、アルフレッド・フォン・ヴァルクレインを王都に派遣致します」

 使者の視線がアルへ向く。

「アルフレッド様が?」

「それは素晴らしい」

「陛下もさぞお喜びになりましょう」

「はい」

 アルは一歩前へ出た。

「僕が王都へ行きます」

「……承知しました」

 使者は頷いた。

「では、準備が整い次第、王都へお越しいただくということで」

「分かりました」

 アルは静かに答える。

「ルシウス陛下には、ヴァルクレイン家が従うことをお伝えください」

「承りました」

 使者は一礼した。

「それでは、私は王都へ戻り、ご報告いたします」

 応接室を出ていく。

 扉が閉まる。

 その音を聞いたアルは、しばらく黙っていた。

 これで。

 もう後戻りはできない。

 人質として王都へ行く。

 敵の懐へ入る。

 何が待っているのかは分からない。

 それでも。

 今度は、一人ではない。

 アルは仲間たちを振り返った。

 エルシア。

 イザベラ。

 フィオナ。

 ガレス。

 レオナルト。

 セバス。

 リリア。

 そして、この地で共に歩いてきた仲間たち。

「……行こう」

 アルは小さく呟いた。

「敵を知るために」

 まだ、胸の奥には憎しみが残っている。

 それを消すつもりもない。

 ただ。

 憎しみに、自分のすべてを渡すつもりもなかった。

 王都へ。

 そして。

 本当に倒すべき敵を見つけるために。

 アルの新たな旅が、始まろうとしていた。


第98話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回は、復讐に囚われかけていたアルが、自分の感情と向き合い、改めて「敵を知る」ことを選ぶお話でした。

憎しみが消えたわけではありません。

それでも、一人ですべてを抱え込むのではなく、仲間たちに協力を求めながら前へ進もうとする。

それが、アルにとって大きな一歩になったのではないかと思います。

次回からは、舞台を王都へ移し、新たな展開が始まります。

引き続き読んでいただけましたら嬉しいです。

今後ともよろしくお願いいたします。


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