↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
95/116

失われたもの

第95話「失われたもの」をお届けします。

故郷へ戻ったアルを待っていたのは、これまでとはあまりにも違う現実でした。

これまで積み重ねてきた出来事が、少しずつ一つの大きな出来事へと繋がっていきます。

今回は物語の大きな転換点となる回です。

ぜひ最後までお付き合いいただければ幸いです。


 執務室に、重い沈黙が落ちていた。

「……何が、あったの?」

 アルの問いに、レオナルトはすぐには答えなかった。

 視線を落とす。

 何度も言葉を探しているようだった。

 その隣で、セバスティアンも黙っている。

 片腕は包帯で固定され、吊られている。

 片目には眼帯。

 それでも、立っている。

 アルが知っているセバスティアンの姿とは、あまりにも違っていた。

「兄さん……?」

 もう一度、アルが呼ぶ。

 レオナルトはゆっくりと顔を上げた。

「……アル」

「うん」

「まず……座ってくれ」

「……話さなければならないことがある」

 アルは言われるまま、椅子へ腰を下ろした。

 エルシアたちも、少し離れた場所に立っている。

 誰も口を挟まない。

 レオナルトが一度、深く息を吸った。

「王都で……事件が起きた」

「国王陛下の即位三十周年の祝典で、黒ローブたちが襲撃した」

 アルの眉が僅かに動く。

「……黒ローブ?」

「そうだ」

 その言葉が出た瞬間。

 アルの頭の中で、これまでの出来事が一気に繋がった。

 魔人族領。

 エルフの里。

 精霊石。

 黒魔石。

 そして、王都。

「……やっぱり」

 小さく呟く。

 だが、レオナルトはその言葉には反応しなかった。

「父上も、その場にいた」

 アルの呼吸が止まった。

「……」

「母さんは?」

「……母上もだ」

 その返事を聞いた瞬間。

 アルの胸の奥に、嫌なものが広がった。

 冷たい。

 けれど、何なのか分からない。

「……二人とも、無事なんだよね?」

 レオナルトは答えなかった。

「兄さん?」

「……」

「父さんは?」

 アルの声が少しだけ震えた。

 レオナルトは、目を閉じた。

「……父上は」

 そこで言葉が止まる。

 セバスティアンが静かに目を伏せた。

「……亡くなった」

「……」

 意味が分からなかった。

「……え?」

 アルはレオナルトを見る。

「今……なんて?」

「父上は……亡くなられてしまったんだ……」

 もう一度。

 今度は、はっきりと。

 アルの中で、何かが止まった。

「……嘘」

 自然と声が漏れた。

「嘘だよね?」

「アル……」

「だって……父さんだよ?」

 アルは立ち上がった。

「父さんが……?」

 頭の中に、父の姿が浮かぶ。

 厳しい顔。

 大きな身体。

 訓練場で剣を振る姿。

 自分が魔法の話をしても、最後まで聞いてくれたこと。

「……死ぬわけない」

 自分でも、何を言っているのか分からない。

「父さんは強いんだから」

「アル……」

「王都には、兵士もいる」

「騎士もいる」

「父さんだって……」

 言葉が続かない。

 レオナルトは何も言わない。

 それだけで。

 アルには分かってしまった。

「……母さんは?」

 レオナルトの顔が歪んだ。

「……母上も」

「……」

「亡くなった」

 アルの身体から力が抜けた。

 椅子に座り込む。

「……そんな……」

 それだけだった。

 涙が出ない。

 悲鳴も出ない。

 ただ。

 理解できない。

 母の顔を思い出す。

 幼い頃。

 熱を出した時に看病してくれたこと。

 食事を残した時に心配そうに見ていたこと。

 魔法の研究をしている自分を、いつも優しく見守ってくれていたこと。

「……母さんも」

 呟く。

「……死んだ……?」

 その言葉だけが、妙に現実味を持って響いた。

 アルは俯いた。

 しばらくして。

 「……同行していたマリアも……亡くなった」

「……マリアも?」

 その反応を見て、レオナルトは息を詰まらせた。

「……ああ……」

 セバスティアンが静かに答えた。

「奥様をお守りして……最後まで」

 アルは目を閉じた。

 マリア。

 幼い頃から、自分のそばにいた人。

 子供のころから自分の世話をしてくれた第二の母のような人

 研究に夢中になっていると、呆れながら声をかけてくれた。

 家族と呼んでもいいと思える人だった。

「……リリアは……?」

 アルは声を震わせながら聞いた。

「リリアは……今は臥せっている……」

「王都にには同行しなかったから無事だが……ショックが大きいようだ……」

「みんな……死んだ……?」

 誰も答えなかった。

 その沈黙が、答えだった。

 アルは自分の手を見る。

 震えている。

 なのに。

 頭だけは妙に冷静だった。

 なぜだ。

 どうして。

 何が起きた。

 誰がやった。

 どうやって。

 疑問だけが、次々と浮かんでくる。

 まるで。

 知らない現象を前にした時と同じように。

 原因を探そうとしている。

 けれど。

 今回は違う。

 これは実験結果じゃない。

 数字でもない。

 理論でもない。

 失敗しても、やり直せるものでもない。

 人が死んだ。

 父が。

 母が。

 マリアが。

 もう二度と戻らない。

「……セバス」

「はい」

「どうして……?」

 セバスティアンは一瞬だけ目を伏せた。

「申し訳ありません……」

「……」

 アルはそれ以上聞かなかった。

 包帯に覆われた腕と眼帯が、あの日の激しさを物語っている。

「……セバスも戦ってくれたんだね……」

「はい」

 セバスティアンは静かに答えた。

「お守りできず……」

「おめおめと、私だけが……生き残りこうして戻って参りました……」

 アルは顔を上げた。

「それは……」

「お守りできず……申し訳ございません……」

 何度も頭を下げるセバスティアンの声も僅かに震えている。

「旦那様も……奥様も……マリアも」

「……」

「それなのに、私は……」

「ちがう……」

 アルの声は小さかった。

「……アル様」

「ちがうよ……」

 アルは首を振る。

「セバスのせいじゃないよ」

「ですが――」

「セバスのせいじゃない!」

 今度は、はっきりと言った。

 けれど。

 その声には怒りにも似た感情が宿っていた。

 セバスティアンは何も言わず、頭を下げた。

 アルは再び俯いた。

 しばらくして。

「……王都を襲ったのは?」

 レオナルトが答える。

「ルクセリア公爵だ」

「……ルクセリア?」

「ああ」

「なんで?」

「分からない」

 レオナルトは苦しそうに答えた。

「だが、奴は王家を否定した」

「そして……新しい王になると宣言した」

「……王に?」

 アルの声は、今まで聞いたこともないほど低かった。

 そこには、感情が抜け落ちたような冷たさがあった。

「そうだ」

 部屋の空気が、再び重くなった。

 アルは何も言わなかった。

 ただ。

 自分の中にある何かが。

 少しずつ形を変えていくのを感じていた。

 悲しい。

 苦しい。

 悔しい。

 けれど。

 それだけではない。

 もっと別のものが。

 胸の奥で、静かに生まれ始めていた。

「……そうか」

 アルは小さく呟いた。

「分かった」

 レオナルトが心配そうに見る。

「アル?」

「今日は……もういい」

 アルは立ち上がった。

「少し……一人にして」

 誰も止めなかった。

 アルは執務室を出る。

 廊下を歩く。

 一歩。

 また一歩。

 足は動いている。

 けれど。

 自分がどこへ向かっているのか。

 よく分からなかった。

 ただ。

 頭の中には、一つの言葉だけが残っていた。

 ――なぜ。

 そして。

 その言葉の奥に。

 もう一つ。

 まだ形にならない感情が。

 静かに芽を出していた。


第95話を読んでいただき、ありがとうございました。

ここから物語は、大きく動き始めます。

これまでアルが積み重ねてきた研究や旅、そして出会ってきた人々。

そのすべてが、少しずつ一つの流れへと繋がっていくことになります。

次回からは、アルの内面にも大きな変化が訪れます。

引き続き読んでいただけましたら嬉しいです。

今後ともよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。