故郷に待つもの
第94話「故郷に待つもの」をお届けします。
長い旅を終え、アルたちはようやくヴァルクレイン領へ戻ってきました。
まずは冒険者ギルドへ向かい、これまでの旅で起きた出来事を報告します。
そして、そこで知らされる王都の異変。
アルたちが戻ってきた故郷で、待っていたものとは――。
今回も楽しんでいただけましたら幸いです。
街道を進み続け、
アルたちは、ようやくヴァルクレイン領へ戻ってきた。
見慣れた山々。
広がる草原。
遠くに見える街の建物。
故郷の景色が、少しずつ近づいてくる。
「……帰ってきたんだ」
アルは、思わず呟いた。
長かった。
ドワーフ領。
獣人族領。
エルフの里。
魔人族領。
山中での敗走。
そして、龍王との出会い。
振り返れば、ほんの数か月前まで想像すらしていなかった出来事ばかりだった。
「まずは冒険者ギルドへ行こう」
ガレスが言った。
「報告しておく必要がある」
「うん」
アルも頷いた。
ヴァルクレイン領へ戻ったからといって、旅が終わったわけではない。
むしろ。
ここから、調べなければならないことが増えている。
アルたちは、そのまま領都の冒険者ギルドへ向かった。
扉を開ける。
懐かしい空気が流れてきた。
受付の職員たちが、アルたちに気づく。
「お帰りなさい……」
その声には、安堵が混じっていた。
長期間戻らなかった一行を、心配していたのだろう。
アルたちは応接室へ案内された。
そこには、ギルドマスターのローガンが待っていた。
「……戻ったか」
「はい」
アルが答える。
ローガンは全員の顔を一人ずつ確認した。
「……ドノヴァンはどうした?レオンは?」
皆が黙り込む。
「そのことも含めて話さなきゃならん事がある」
ガレスが重い口を開いた。
「……わかった……」
「奥の部屋に行こう」
重い空気が漂う。
奥のギルドマスターの部屋でアズール・イージスの辛く重たい報告が始まった。
「まず、ドノヴァン、レオンだが……」
「……亡くなった……」
ガレスからの思いもよらない報告にローガンは驚きを隠せなかった。
「なんだと?どういうことだ!」
ガレスは順を追って説明する。
ドワーフ領から獣人族領、エルシアとの出会い、エルフの里から魔人族領への旅路。
黒ローブたちの動き、黒魔石、精霊石、教会。
そして。
魔人族領で起きたこと。
ドノヴァン、レオンの事とガレスの怪我。
黒魔石が、生き物の生命力を奪って作られている可能性。
魔人族の多くが、その黒魔石を作るために利用されたこと。
エルフの里が二度襲撃されたこと。
精霊石が複数奪われたこと。
そして。
黒ローブたちが、黒魔石と精霊石を使って何かをしようとしていること。
ガレスは、できるだけ感情を交えずに説明した。
ローガンは、ほとんど口を挟まなかった。
一通り聞き終えて一言。
「ドノヴァンとレオンが……」
「それに……黒魔石に精霊石もか……」
「思っていたよりも事態は深刻だな」
「それから、黒ローブたちについてですが」
アルが付け加える。
「捕らえた者から、教会に近いところから命令を受けていたという証言も得ています」
「教会……」
ローガンの表情が僅かに曇った。
「ただ、教会そのものが関与していると断定できる証拠はありません」
「現時点では、何らかの関係があると考えられる、という段階です」
「そうか……」
「今回の件……被害は甚大だな……」
ローガンは呟くように答えた。
そこで一度、報告は途切れた。
部屋に沈黙が落ちる。
するとアルが。
「それと……」
「ローガンさん」
「ん?」
「王都では、何があったんですか?」
その瞬間。
ローガンの動きが止まった。
「……」
何も答えない。
ただ。
アルをじっと見つめる。
その目には、迷いのようなものが浮かんでいた。
「何か情報が入っているんですか?」
「……」
ローガンは、深く息を吐いた。
「……そうか」
それだけ呟く。
「ローガンさん?」
「アル」
ローガンは、静かにアルの名前を呼んだ。
「アル……まずは、屋敷へ戻れ」
「屋敷?」
「そうだ」
ローガンは視線を逸らした。
「そこへ行けば……分かる」
「何がですか?」
アルが問い返す。
だが。
ローガンは答えなかった。
「俺の口からは言えん」
その言葉が。
妙に重く響いた。
アルは何も言えなかった。
やがて。
「……分かりました」
アルたちはギルドを後にした。
街の景色は、以前と変わらない。
人々が歩いている。
店が並んでいる。
いつもの領都だ。
なのに。
アルの胸には、嫌な予感が残っていた。
「……何か、あったのかな」
エルシアが隣で呟く。
「分からない」
アルは答えた。
けれど。
ローガンのあの表情が頭から離れない。
何かを知っている。
それだけは、間違いなかった。
そして。
屋敷へ近づくにつれて。
アルの足取りは、少しずつ重くなっていった。
門が見える。
見慣れた屋敷。
いつもなら、帰ってきたという安心感を覚える場所。
だが。
今日は違った。
門をくぐり屋敷に入る。
執事が出迎えるが表情が硬い。
「アル様、アズールの皆さま……お帰りなさいませ」
「早急にレオナルト様のところに……」
重たい雰囲気にアルも嫌な予感を覚えながら足早に執務室に向かった。
執務室に入るとレオナルトが頭を抱えて自身の席に座っていた。
「……兄さん?」
アルは目を見開いた。
「アル……」
レオナルトが、静かに名前を呼ぶ。
その表情には、疲労が滲んでいた。
そして。
その隣に立っていた人物を見て。
アルの呼吸が止まった。
「……セバス?」
セバスティアン。
いつもなら、背筋を伸ばし、静かに立っているはずの執事。
だが。
今のセバスティアンは違った。
片腕を吊っている。
そして。
片目には眼帯が巻かれていた。
「……お帰りなさいませ」
それでも。
セバスティアンは、いつものように頭を下げた。
その声を聞いた瞬間。
アルの胸の奥が、強く締め付けられた。
「……何が、あったの?」
声が震える。
レオナルトは答えなかった。
ただ。
アルを見つめる。
その目に浮かんでいたものを見て。
アルは悟った。
何か。
取り返しのつかないことが、起きている。
その事実だけが。
アルの胸に、重く沈んでいった。
第94話を読んでいただき、ありがとうございました。
長い旅を終え、アルたちはようやく故郷ヴァルクレイン領へ戻ってきました。
しかし、久しぶりに戻った故郷には、どこか重い空気が漂っています。
そして、アルを待っていたものとは――。
次回、王都で何が起きたのか。
その真実が、少しずつ明らかになります。
次回もよろしくお願いいたします。




