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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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93/116

繋がり始める点

第93話「繋がり始める点」をお届けします。

魔人族領、エルフの里、そして王都。

それぞれの場所で起きた異変を、アルは研究者らしく一つずつ整理していきます。

まだ確かな答えはありません。

それでも、少しずつ見えてきた「点」は、やがて一つの線へと繋がろうとしていました。

そして、アルたちは故郷ヴァルクレイン領へ。

今回も楽しんでいただけましたら幸いです。


 エルフの里を出てから、半日ほど。

 アルたちは、ヴァルクレイン領へ続く街道を歩いていた。

 先頭を歩くガレス。

 その少し後ろに、アルとエルシア。

 イザベラとフィオナが続いている。

 いつもの旅と変わらない。

 だが。

 誰も、ほとんど口を開かなかった。

 アルも黙って歩きながら、何度も頭の中で情報を整理していた。

 王都の政変。

 エルフの里への襲撃。

 精霊石の強奪。

 魔人族領への侵攻。

 黒魔石。

 黒ローブ。

 教会。

「……」

 考えれば考えるほど。

 分からないことが増えていく。

「アル」

 隣を歩くエルシアが声をかけた。

「さっきからずっと難しい顔をしてる」

「そう?」

「うん」

 アルは少し考えてから答えた。

「整理してるだけだよ」

「何を?」

「事件」

 アルは歩きながら指を折った。

「まず、魔人族領への襲撃」

「黒ローブたちは大量の魔物を操って、魔人族を北へ追い込んでいた」

「そして、黒魔石を使っていた」

 次に、二本目の指を立てる。

「エルフの里」

「また、精霊石が狙われた」

 三本目。

「そして王都」

「大きな政変が起きたらしい……」

 アルは指を戻した。

「三つ」

「全部、時期が近い」

 エルシアが考えるように首を傾げる。

「同じ人たちがやったのかな?」

「分からない」

 アルは即答した。

「証拠もないし……」

「でも」

 一度、言葉を切る。

「偶然にしては、重なりすぎてる」

 ガレスが前を向いたまま口を挟んだ。

「俺も同じことを考えている」

「黒ローブは、俺たちが思っている以上に広い範囲で動いているのかもしれない」

「王都まで?」

「可能性はある」

 ガレスは振り返らない。

「ただ、王都の政変については情報が少なすぎる」

「そうだね」

 アルも頷いた。

「だから、ヴァルクレインに戻る」

「それに……」

 アルは一瞬だけ言葉を止めた。

「家のことも確認したい」

 ガレスが振り返った。

 アルはそれ以上、何も言わなかった。

 王都には。

 自分の家族がいるはず。

 父も。

 母も。

 王都へ向かったはず。

 国王の即位三十周年の祝典なら、父も母も出席しているはずだからだ。

 無事でいてほしい。

 それだけを、アルは何度も心の中で繰り返していた。

 その時。

「――来た」

 イザベラが空を見上げた。

 遠くから、一羽の鳥が近づいてくる。

 大きな翼。

 鋭い鳴き声。

「メッセンジャーホークか」

 ガレスが足を止める。

 鳥はそのままアルたちの上空を旋回している。

 ガレスが指笛を鳴らして呼び、その腕に舞い降りた。

 足には、小さな筒が結びつけられている。

「リシェルからかな」

 アルが近づき、筒を外す。

 中には、短い紙が入っていた。

 アルは開いて目を通す。

「……」

「何て?」

 エルシアが覗き込む。

 アルは読み上げた。

「『里の復興を開始。精霊石の捜索も継続する』」

「『森に避難している魔人族について、里の一部から受け入れを検討する声が出ている』」

 アルは少しだけ表情を緩めた。

「それは良かった」

 だが

 続く文章を読んだところで。

 そのその表情が曇った。

「……どうしたの?」

 フィオナが尋ねる。

「最後に、気になることが書いてある」

 アルは紙を見る。

「『襲撃後、精霊たちの気配が以前より弱くなっている』」

「……」

「それと」

 もう一行。

「『精霊石が置かれていた場所の周辺で、黒い魔力の残滓が確認された』」

 イザベラの表情が険しくなる。

「やっぱり……」

「黒魔石の影響?」

「可能性は高い」

 イザベラが答える。

「ただし、現物を調べないと断定はできないわ」

「うん」

 アルも頷いた。

「リシェルたちには、できるだけ記録を残してもらおう」

「魔力反応」

「精霊の状態」

「精霊石があった場所」

「黒い残滓の位置」

 次々と口にする。

 いつものアルだった。

 未知の現象を前にした研究者の顔。

 だが。

 その目には、以前とは違うものがあった。

「……全部、記録しておこう」

 紙を折りたたむ。

「あとで比較できるように」

 エルシアがアルを見る。

「比較?」

「うん」

 アルは歩きながら説明する。

「魔人族領でも、黒魔石が使われていた」

「エルフの里にも、黒い魔力の痕跡が残っている」

「もし同じ性質なら――」

 そこで、アルは立ち止まった。

「二つの事件には、共通する何かがある」

 イザベラが頷く。

「そして王都の政変も、その共通点に含まれる可能性がある」

「そう」

 アルは空を見上げた。

「でも、まだ足りない」

「何が?」

「王都と黒魔石を結びつける情報」

 アルは少し考えた。

「王都から戻った人がいるなら、何が起きたのか聞けるかもしれない」

 その言葉に。

 ガレスが僅かに顔を曇らせた。

「……そうだな」

 それ以上は何も言わなかった。

 アルは、その表情の変化に気づかなかった。

 あるいは。

 気づいても、深く考えなかった。

 今はまだ。

 自分の中にある不安を、無理に形にしたくなかった。

 歩き続ける。

 昼を過ぎ。

 やがて夕方になる。

 街道の向こうに、遠く山々が見えてきた。

 そのさらに向こう。

 ヴァルクレイン領がある。

「……もう少しだな」

 ガレスが呟いた。

 アルは黙って山を見つめた。

 故郷。

 しばらく帰っていない。

 最後に出た時は。

 ただ、研究を続けるためだった。

 世界を見て。

 魔法を知って。

 精霊を知って。

 未知の現象を調べる。

 そんな旅になると思っていた。

 だが。

 今は違う。

 自分たちの知らないところで。

 何か大きなものが動いている。

 その日の夜。

 一行は街道から少し離れた場所で野営することになった。

 焚き火を囲みながら。

 アルは昼間の紙をもう一度広げた。

 中央に。

 大きく三つの言葉を書く。

 王都。

 精霊石。

 黒魔石。

 その下に。

 魔人族領。

 エルフの里。

 そして。

 黒ローブ。

 線を引く。

 繋ぐ。

 消す。

 また書く。

「……」

 だが。

 まだ、答えは出ない。

 それでも。

 少しずつ。

 点が増えている。

 そして。

 点が増えれば。

 いつか線になる。

 アルはそう信じていた。

「……必ず、分かる」

 小さく呟く。

「何が起きているのか」

 炎が静かに揺れる。

 その向こうで。

 エルシアがアルを見ていた。

 今はまだ。

 何も知らない。

 けれど。

 この旅の先で。

 アルは知ることになる。

 自分が帰ろうとしている故郷で。

 すでに。

 取り返しのつかない出来事が起きていることを。


第93話を読んでいただき、ありがとうございました。

魔人族領、エルフの里、そして王都。

それぞれの場所で起きた出来事が、少しずつ繋がり始めました。

アルたちが次に向かうのは、故郷ヴァルクレイン領。

久しぶりに戻る故郷で、アルたちを待っているものとは――。

次回もよろしくお願いいたします。


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