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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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92/115

再び、エルフの里へ

第92話「再び、エルフの里へ」をお届けします。

魔人族領での戦いを終え、アルたちは再びエルフの里へ。

そこでは、再襲撃によって残された傷跡と、奪われた精霊石の現状を目にすることになります。

そして、ここで初めて知らされる王都の異変。

魔人族領、エルフの里、そして王都。

それぞれの出来事が、少しずつ一つの線へと繋がり始めます。

今回も楽しんでいただけましたら幸いです。


 交易都市。

 魔人族領から戻ったアルたちは、街の一角にある宿で休息を取っていた。

 あの戦いから、まだそれほど時間は経っていない。

 ガレスは失った腕の傷を庇いながらも、以前と変わらぬ様子で椅子に座っている。

 イザベラは地図を広げ、フィオナは買い集めた薬草や治療道具を整理していた。

 エルシアは窓の外を眺めている。

 そしてアルは。

 机の上に並べた紙へ、黙々と情報を書き込んでいた。

「……黒魔石」

 紙の中央に書かれた言葉。

 その周囲に、これまで分かっている情報を書き足していく。

 魔人族領。

 黒ローブ。

 教会との繋がり。

 魔物の群れ。

 生命力。

 そして――精霊石。

「……やっぱり、分からない」

 アルはペンを置いた。

「何がだ?」

 ガレスが尋ねる。

「全部」

「全部?」

「うん」

 アルは紙を見つめた。

「黒魔石が生命力を奪って作られていることは分かった」

「でも、どうして黒ローブたちは魔人族を狙ったのか」

「どうして精霊石まで必要なのか」

「黒ローブと教会の繋がりは?」

 アルは一つずつ指で追っていく。

「まだ、繋がっていそうだけどちゃんと一本の線にならない……」

「……確かにな」

 ガレスも地図を見る。

「俺たちが魔人族領で見たのは、襲撃の一部に過ぎなかった可能性もある」

「うん」

 アルは頷いた。

「だから、一度整理する必要がある」

「その前に」

 声を上げたのは、リシェルだった。

 エルフの彼女は、静かにアルを見る。

「エルフの里へ戻りたい」

 その言葉に、アルは顔を上げた。

「……そうだね」

 迷いはなかった。

「俺も戻った方がいいと思う」

「いいのか?」

 ガレスが尋ねる。

「エルフの里も、まだ安全とは限らないぞ」

「分かってる」

 アルは答えた。

「おそらく目的は精霊石だ」

「それに……」

 アルはリシェルを見る。

「リシェルにとっては、戻らない理由がないよね」

 リシェルは静かに頷いた。

「里がどうなっているのか確認したい」

「精霊たちのことも気になる」

「それに……」

 一瞬、言葉を止める。

「私たちが調べていたことも、途中で終わっているから」

 アルは頷いた。

「うん」

「それなら、決まりだね」

 エルシアが振り返る。

「エルフの里へ?」

「うん」

「私も行く」

 即答だった。

 ガレスが苦笑する。

「まあ、そうなるか」

 イザベラも地図を畳んだ。

「一度、情報を整理するという意味でも悪くないわね」

 フィオナも頷く。

「それに、リシェルさんの仲間たちも心配でしょうし」

 こうして。

 アルたちは、エルフの里へ戻ることを決めた。

 翌朝。

 一行は交易都市を出発した。

 来た時とは違う道を選びながら、エルフの里へ向かう。

 道中。

 アルは何度も周囲を観察した。

 魔力の流れ。

 風。

 草木。

 そして精霊の気配。

 以前よりも、それらを感じ取れるようになっている。

 だが。

 精霊たちは、どこか落ち着かない。

「……」

 アルは歩きながら、風の流れを感じていた。

「どうしたの?」

 エルシアが尋ねる。

「精霊たちが、少し騒がしい」

「何かあったのかな?」

「分からない」

 アルは首を振る。

「でも……何かを警戒しているような感じがする」

 その言葉に、リシェルも周囲へ意識を向けた。

「私も少し感じる」

「やっぱり?」

「ええ」

 リシェルは小さく頷く。

「里の近くへ行けば、もっとはっきりするかもしれない」

 数日後。

 懐かしい森が見えてきた。

 だが。

 アルは、その景色に違和感を覚えた。

「……静かすぎる」

 以前なら。

 森には、もっと多くの気配があった。

 風。

 鳥の声。

 木々のざわめき。

 そして、精霊たちの小さな存在感。

 今は。

 それらが薄い。

 アルは足を止めた。

「……何か、おかしい」

 リシェルの表情が変わる。

 その声には、僅かな緊張が混じっていた。

 森を抜ける。

 そして。

 エルフの里が見えた。

「……」

 誰も言葉を発しなかった。

 以前見た里とは、明らかに違っていた。

 壊れた建物。

 修復途中の家々。

 焼けた木々。

 倒れた柵。

 そして。

 あちこちで復旧作業を続けるエルフたち。

「……こんなに」

 エルシアが呟く。

 アルも黙って周囲を見渡した。

「ひどい……」

 再襲撃。

 その傷跡が生々しく残っていた。

 リシェルは何も言わず、里の中へ歩き出した。

「リシェル」

「……行きましょう」

 その声は震えていた。

 だが、足取りは止まらない。

 里へ入ると、何人ものエルフがこちらへ気づいた。

「リシェル!」

「戻ってきたのか!」

「無事だったんだな!」

 声が飛び交う。

 その中には安堵もあった。

 しかし。

 同時に。

 深い疲労も滲んでいた。

「精霊石は……」

 リシェルが尋ねる。

 一人のエルフが、静かに首を振った。

「……かなりの数が奪われてしまった……」

「……そう」

 リシェルは目を伏せた。

「それと」

 別のエルフが口を開く。

「王都の方でも何か起きているらしい」

「王都?」

 アルが反応する。

「何があったの?」

「詳しいことは分からない」

 エルフは困ったように答えた。

「ただ……」

 一度、言葉を選ぶ。

「王都で、大きな政変が起こったと……」

「政変……?」

 アルは眉を寄せた。

「王国の?」

「そう」

「どういうこと?」

「詳しくは、分からない……」

 エルフは首を振る。

「政変があって王が変わったらしい……」

 アルは黙り込んだ。

 王都。

 政変。

 エルフの里。

 精霊石。

 黒魔石。

 魔人族領。

 黒ローブ。

 教会。

 頭の中で、いくつもの言葉が浮かぶ。

 まだ。

 何も繋がっていない。

 それでも。

「……偶然、なのかな」

 アルが呟いた。

「何が?」

 エルシアが聞く。

「王都で政変が起きた」

「俺たちは魔人族領で襲撃を受けた」

「そして、この里でも精霊石が奪われた」

 アルは周囲を見渡した。

「時期が近すぎる」

「……」

「全部が同じ事件だとは、まだ言えない」

 アルは自分に言い聞かせるように続けた。

「でも……無関係だとも思えない」

 リシェルがアルを見る。

「私も、そう思う」

 その時。

 森の奥から。

 僅かな風が吹いた。

 アルの髪を揺らす。

 精霊たちの気配。

 以前より弱い。

 それでも。

 確かに、そこにいる。

「……調べよう」

 アルが言った。

「王都で何が起きたのか」

「黒ローブたちは何をしようとしているのか」

「黒魔石と精霊石が、どう繋がっているのか」

 そして。

「全部、整理する必要がある」

 ガレスが頷く。

「なら、ここで一度腰を据えるか?」

「ううん」

 アルは首を振った。

「俺たちは、一度ヴァルクレインへ戻りたい」

 その言葉に、エルシアがアルを見る。

「ヴァルクレイン?」

「うん」

「王都のことも確認したい」

「それに……」

 アルは地図へ視線を落とす。

「今の俺たちだけじゃ、情報が足りなすぎる」

「家に戻れば、何か分かるかもしれない」

 リシェルが頷く。

「分かった」

「私は、この里に残る」

 セレスも静かに口を開いた。

「私も」

「魔人族領のことを知っている人たちも、ここにはいる」

「それに、森の中に避難している魔人族もいる」

 アルはセレスを見る。

「そうだったね」

「この里で、匿うことも考えている」

 リシェルが続けた。

「エルフたちが受け入れられるか、話し合わなければならない」

「精霊石についても調べる」

「何か分かったら、すぐに知らせる」

 アルは少し考えた。

「メッセンジャーホークを使おう」

「うん」

「俺たちも、何か分かったら連絡する」

 リシェルが微笑む。

「約束ね」

「うん」

 こうして。

 アルたちは、再び別れることになった。

 エルフの里には。

 まだ復興しなければならないものが残っている。

 そして。

 森の奥には、身を隠している魔人族たちがいる。

 すべてを放って、先へ進むことはできない。

 だからこそ。

 それぞれが、できることをする。

「……じゃあ、行こう」

 ガレスが声をかける。

 アルは一度だけ、エルフの里を振り返った。

 精霊石。

 黒魔石。

 黒ローブ。

 そして、王都で起きた政変。

 まだ。

 分からないことばかりだ。

 だが。

 そのすべてが、どこかで繋がっている。

 そんな予感だけが。

 アルの胸に残っていた。

 そして。

 彼らは再び歩き始める。

 向かう先は――。

 アルの故郷。

 ヴァルクレイン領だった。


第92話を読んでいただき、ありがとうございました。

魔人族領での戦いを終え、アルたちは再びエルフの里へ戻りました。

それぞれの場所で起きていた異変が、少しずつ同じ方向を向き始めています。

アルたちが次に向かうのは、故郷ヴァルクレイン領。

そこで待っているものが、物語をまた大きく動かしていきます。

次回もよろしくお願いいたします。


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