新たな王
第90話「新王」をお届けします。
王都陥落から一夜。
新たな王を迎えるため、王宮では再び貴族たちが集められていました。
長く続いた王の時代が終わり、アストリア王国は新たな時代へと進み始めます。
今回も楽しんでいただけましたら幸いです。
翌朝。
王都には、異様な静けさが広がっていた。
昨日まで。
人々が行き交い、商人の声が響いていた街。
それが今は。
街の各所に兵士が立ち、主要な通りは封鎖されている。
「何が起きたんだ……」
「王宮で何かあったらしい」
「兵士が増えすぎじゃないか?」
市民たちは不安そうに声を潜める。
だが。
詳しい情報は誰も知らない。
王宮から正式な発表が出ていないからだ。
ただ。
一つだけ。
確かなことがあった。
王宮を守っている兵士の中に。
これまで見たことのない者たちが混じっている。
そして。
王都の門は閉ざされていた。
その頃。
王宮では。
大広間に多くの貴族が集められていた。
昨日まで。
祝典のために使われていた場所。
今は。
そこに祝福の空気など存在しない。
壁にはまだ戦闘の跡が残っている。
床にも、血痕が残されていた。
そこは、完全には清掃されていない。
それでも。
生き残った貴族たちは。
呼び集められていた。
「……」
誰も口を開かない。
皆。
何が起こったのかを知っている。
だが。
それを口にする者はいなかった。
やがて。
大広間の正面に。
一人の男が現れた。
公爵ルクセリア。
昨日まで。
王国でも有数の大貴族だった男。
そして。
今は。
この場所にいる誰よりも堂々としていた。
「皆の者」
ルクセリアが口を開く。
その声が大広間に響く。
「昨日。
我々は、大きな変化を迎えた」
誰も答えない。
「長きにわたり、この国を支えてきた王家の時代が終わった」
貴族たちの間に。
僅かなざわめきが起こる。
ルクセリアは続けた。
「旧王は」
「国を正しく導くことができなかった」
「下賤な民の方を見すぎるあまり神の教えをないがしろにした」
「それが――」
一拍。
「神の逆鱗に触れ、この事態を引き起こすことになったのだ」
何人かの貴族が俯く。
「私は……この国を立て直す!」
「混乱した王国を。再び一つにまとめるのだ」
ルクセリアが前へ進む。
「これより、アストリア王国は、否。アストリア王朝は滅び、この国は新たな時代へ入る!」
そして。
はっきりと言った。
「この私、ルシウス・フォン・ルクセリアが!」
「ルクセリア王朝の新たな王としてこの王国を導く!」
大広間が静まり返った。
誰も。
すぐには言葉を返せなかった。
それは。
反対する意思がないからではない。
反対すれば。
どうなるのか。
誰もが理解していたからだ。
昨日。
王を守ろうとした者たちは。
ほとんどが倒れた。
残った者たちも。
反意を行動に移す気概を持ち合わせていなかった。
「……」
一人の貴族が。
ゆっくりと頭を下げた。
「新たな王に……」
声が震えている。
「忠誠を誓います」
その言葉を皮切りに。
他の貴族たちも。
次々と頭を下げていく。
「忠誠を」
「新王陛下に」
それを見て。
ルクセリアは満足そうに頷いた。
「よい」
「これより。王都には戒厳令を敷く」
「兵士の指示に従い。不要な混乱を起こさぬようにせよ」
そして。
「王家の血を引く者についても、すでに処置を決めてある」
貴族たちが顔を上げる。
「王子は王宮の一室へ幽閉する」
「王位を継ぐことはない」
「そして、今後の王国政治にも関与させることはない」
その言葉に。
何人かの貴族が僅かに表情を変えた。
だが。
誰も口を挟まない。
ルクセリアはさらに続ける。
「我々は」
「この国を再び立て直さなければならない」
「そのために、まず王都の秩序を取り戻す」
「そして、教会とともに」
「新しい王国を築いていく」
大広間に。
再び静寂が落ちる。
昨日。
この場所では。
王が即位三十周年を祝っていた。
そして今日。
同じ場所で。
新たな王が誕生した。
歴史が。
わずか一夜で塗り替えられたのだった。
第90話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回で、王都で起きた政変の一連の出来事が一区切りとなります。
三十年続いた王の時代が終わり、新たな王が立つことになりました。
しかし。
この政変の裏では、まだ明らかになっていないものがあります。
ここからアルたちの物語も、少しずつ大きな流れへと繋がっていきます。
引き続き、よろしくお願いいたします。




