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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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89/117

王都陥落

第89話「王都陥落」をお届けします。

王宮を襲った黒ローブたち。

戦いが終わり、王を守る者たちも次々と倒れていく中、ついに王都の運命が決まります。

そして、長く続いた王の時代にも終わりが訪れます。

今回も楽しんでいただけましたら幸いです。


 大広間に残っていた戦いの音が。

 少しずつ、消えていった。

 倒れる者。

 逃げる者。

 武器を捨てる者。

 そして。

 最後まで王を守ろうとしていた者たちも。

 次々と力尽きていった。

 王は。

 その光景を、ただ見つめていた。

「……」

 目の前に広がる惨状。

 床に倒れた貴族たち。

 血に染まった大広間。

 先ほどまで。

 三十年目の祝典が行われていた場所だった。

 それが今は。

 王国の中心でありながら。

 王国そのものが崩れ落ちていく場所になっている。

「陛下」

 近くにいた兵士が声を掛ける。

「こちらへ」

 王は答えなかった。

 視線の先。

 少し離れた場所に。

 倒れたエルディオンの姿があった。

「……エルディオン」

 王が呟く。

 返事はない。

 王を守るために。

 最後まで戦った男。

 その身体は、すでに動かなかった。

「……」

 王は拳を握った。

 そして。

 周囲を見渡す。

 王を守ろうとしてくれた者たち。

 その多くが倒れている。

 自分のために。

 王国のために。

 命を懸けた者たち。

「……余は」

 王の声が震える。

「何をしているのだ」

 黒ローブたちが大広間を制圧していく。

 生き残った警備兵たちは武器を捨て始めていた。

 これ以上戦えば……。

 さらに多くの命が失われる。

「武器を捨てろ!」

 敵側から声が響く。

「抵抗する者の命は保証できない!」

 その言葉に。

 何人かの貴族が動きを止めた。

 そして。

 一人。

 また一人と。

 剣を床へ置いていく。

 王はそれを見ていた。

 怒りはあった。

 悔しさもある。

 それでも。

 これ以上、死者を増やすことはできなかった。

「……もうよい」

 王が呟く。

「余のために、これ以上戦うな」

「陛下……」

「これは命令だ」

 生き残った者たちが、ゆっくりと武器を下ろす。

 大広間が。

 静かになった。

 完全な静寂ではない。

 遠くではまだ戦闘の音がする。

 だが。

 この場所では。

 もう戦いは終わっていた。

「陛下」

 黒ローブの一人が近づいてくる。

「おとなしくしていただきます」

 王はその男を見る。

「……何者だ」

「それを知る必要はありません」

「そうか」

 王は目を伏せる。

 そして。

 ゆっくりと剣を床へ置いた。

 王が武器を捨てた。

 それを見て。

 周囲の者たちも完全に抵抗をやめた。

 王は拘束された。

 両腕を後ろへ回される。

 それでも。

 最後まで王としての姿勢を崩さなかった。

「……この国を」

 王が呟く。

「どうするつもりだ」

 黒ローブは答えなかった。

 ただ。

 王を大広間から連れ出していく。

 その先には。

 すでに多くの兵が待っていた。

 王宮の廊下。

 そこを歩きながら。

 王は外の気配を感じていた。

 騒ぎ。

 怒号。

 鐘の音。

 王都全体が混乱している。

「……王都が」

 王は呟く。

「落ちたのか」

 誰も答えない。

 やがて。

 王は王宮の一室へと連れていかれた。

 そこには。

 数人の貴族がいた。

 生き残った王側の者たち。

 だが。

 その顔には恐怖が浮かんでいる。

「陛下……」

 その一人が声を掛ける。

「申し訳ありません」

 王は首を振った。

「しかし……」

「もう終わったのだ」

 王は静かに言った。

「少なくとも、戦いは」

 その言葉に。

 部屋の中に重い沈黙が落ちた。

 しばらくして。

 扉が開く。

 入ってきたのは。

 一人の男だった。

 整った服装。

 落ち着いた表情。

 そして。

 大広間の混乱など存在しなかったかのような静かな歩み。

「……ルクセリア」

 王がその名を呼ぶ。

 ルシウス・フォン・ルクセリア公爵

 王国でも有数の大貴族。

 そして。

 今回の政変において。

 最後まで姿を見せなかった男。

「陛下」

 ルクセリアは一礼した。

「ご無事で何よりです」

 王は目を細める。

「……何をしている」

「何を、と申しますと?」

「この状況を」

 王は周囲を見る。

「これは……お前の仕業か!」

 ルクセリアは答えなかった。

 ただ。

 小さく息を吐いた。

「陛下」

「この国は」

「長い間、歪んでいました」

 王の眉が動く。

「何を言っている」

「王家は下賤な民のことばかりに執着し」

「教会の教義をないがしろにし過ぎましたな」

「そして」

 ルクセリアは王を見る。

「これは神罰なのです」

「……」

「私は、神の御心のままに動いているにすぎません」

 王の表情が険しくなる。

「ふざけるな」

「これだけの者を殺しておいて」

「何が正す、だ」

 ルクセリアは表情を変えない。

「必要な犠牲です」

「必要……だと?」

「国を変えるためには」

 ルクセリアは静かに言った。

「神に従わぬ者など必要ありません」

 王はルクセリアを睨みつけた。

「お前は……」

 そこで。

 王は気づいた。

 この男は。

 最初から。

 王国そのものを変えるつもりだったのだ。

 今日の式典は。

 そのための舞台だった。

「……余を……殺すか」

「はい」

 あまりにも迷いのない答えだった。

 王は目を閉じた。

 しばらく沈黙する。

「では、一つだけ聞こう」

「何でしょう」

「王子は」

「セドリックはどうした」

 ルクセリアの目が僅かに細くなる。

「……生きておられますよ」

「幽閉する予定です」

 王は小さく息を吐いた。

「命は奪わぬのだな」

「はい」

 自分は死ぬ。

 それは。

 もう避けられないのだろう。

 それはいい。

 だが。

 次の世代まで。

 すべてを奪われるわけではない。

「……この国を」

 王は最後に呟く。

「どうか……壊すな」

 ルクセリアは答えなかった。

 ただ。

 静かに背を向ける。

「連れていけ」

 兵士が王の両脇に立つ。

 王は抵抗しなかった。

 大広間を出る。

 長い廊下を歩く。

 その先に。

 王都を見下ろせる窓があった。

 王は足を止める。

 窓の向こう。

 王都の街並み。

 そこには。

 いつもと変わらないように見える建物が並んでいる。

 だが。

 今日。

 この国は。

 確かに変わった。

「……三十年」

 王は小さく呟く。

「長かったな」

 そして。

 静かに目を閉じた。

 その日。

 アストリア王国の歴史から。

 一人の王の時代が終わった。

 同時に。

 王都では。

 新たな時代が始まろうとしていた。

 そして。

 その夜。

 王宮の大広間には。

 新たな王を迎えるための準備が始められていた。


第89話を読んでいただき、ありがとうございました。

王宮を襲った政変によって、ついに王都は陥落しました。

王を守るために戦った者たちの想いも届かず、長く続いた王の時代が終わりを迎えます。

そして次回は、王都に誕生する新たな王へ。

ここから物語は、大きく動き始めます。

引き続き、よろしくお願いいたします。


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