初心者、規格外
初めての魔法授業が始まります。
天恵の儀を終え、ようやく堂々と魔法を学べるようになったアル。
……とはいえ、本人は誰にも知られないところで何年も研究を続けてきました。
"初心者"なのにどこか様子がおかしい、そんなアルの初めての魔法修行を楽しんでいただければ幸いです。
天恵の儀を終えた日から、アルフレッドの日常は少しずつ変わり始めた。
これまで誰にも知られないよう、夜な夜な研究を続けてきた魔法。
その力を、ようやく堂々と学べるようになったのである。
もちろん、表向きは天恵の儀によって雷属性の加護を授かったことになっている。
それだけでも十分に珍しい。
王国内でも雷属性の者が少ない希少属性だからだ。
しかしアルの胸中にある感情は、周囲とは少し違っていた。
前世では電気は身近な存在であり、研究でも扱っていたため最もイメージしやすい属性。
この数年ひそかに続けてきた魔法研究でも、五属性の中で最も扱いやすくなっていたのが雷属性だったのだ。
それを堂々と人目を気にせずに発動させて一層の研究が出来るのだから最高だ。
とうとう研究の成果を、少しずつ表に出せる。
そのことが何より嬉しかった。
「私もアルと同じ雷属性だから今日から、私が魔法を教えるわね」
訓練場の一角。
イザベラは柔らかな笑みを浮かべながらそう言った。
ガレスが剣を教えるように、今日から魔法はイザベラが正式な師となる。
「よろしくお願いします」
アルは素直に頭を下げた。
「いい?魔術師は自分の属性魔法の魔法陣をいろんな形で前もって用意しているの」
「例えば私は両腕に魔法陣を彫った腕輪をしているけど」
そう言って両腕にしている銀細工のような肘のすぐ下まである大き目の腕輪を見せてくれた。
恐らくだが片腕に2種類程度?両腕に計4種類程度の陣が前腕ぐるっと一周、回るように刻んである。
「人によってはタトゥーとして刻む人もいるし様々だわ」
「戦闘中にいちいち魔法陣なんて書いていられないでしょ?」
「だから自分で必要な魔法陣を予め用意しておく必要があるの」
「そしてこの魔法陣に魔力を流して発動させるのよ」
「流す魔力の大小で威力が決まるわ」
「ここまではいいわね?」
「うん」
やっぱりだ……魔力の流す強さが威力に比例する。
この仮説はどうやら正しいみたいだ。
「じゃあ……まずは魔力を感じるところから始めるわよ」
「はい。」
「身体の中を流れる温かな力を意識してみて」
アルは静かに目を閉じる。
身体の奥深くを流れる膨大な魔力。
もはや自分の身体の一部のように馴染んでいる感覚だった。
「温かくて流れるような熱を感じる」
「……早いわね……」(素養が高いのかしら)
「そうね、その感覚で間違いないわ」
イザベラは少し驚いた表情を浮かべた。
普通ならここで数日かかる事も珍しくない。
しかしアルは一度で感覚を掴んでしまったように見えた。
「じゃあ次、その魔力を掌へ集めてみて」
「……こう?」
掌の上へ魔力が集まる。
空気が微かに震えた。
「……」
イザベラは目を丸くした。
「え?出来ちゃうの??」
「……出来ちゃった」
もはや苦笑いで誤魔化すしかない。
本当は何年も前から出来ている。
「じゃあ……雷属性の基本魔法、《スパーク》を試してみるわよ」
「今日は練習用にこのバングルを用意したから、まずこれを付けて」
幅約1センチほどの銀細工のようなバングルを手渡された。
そこにはイザベラの腕輪ほど複雑ではないが魔法陣として線と文字の陣が刻まれていた。
「いい?雷属性は他属性より繊細で魔力制御が難しいから気を付けてね」
「急激に魔力を流すとアル自身も危険だから」
「まずは少しずつ」
そう言って自ら見本を見せる。
魔力を掌で練るとイザベラの腕輪の一番手首に近い陣が薄っすらと青白い光を放った。
すると次の瞬間。
パチッ。
小さな電流が掌で弾けた。
放電現象である。
「これが基本ね。じゃあアル。やってみて」
「はい」
この腕輪に魔力を流す……。
アルはゆっくり掌を前へ出した。
今まで夜な夜な繰り返し行ってきた魔力を練る作業。
今のアルには造作もなく練り上げることができた。
するとイザベラから受け取った手首のバングルがイザベラの時よりも強く青白い光を放つ。
バチッ。
イザベラよりも大きな音と共に小さな雷が弾けた。
「……」
「……」
イザベラは数秒固まっていた。
「えっと……初めてよね……?」
「……うん」
「本当に?」
「……たぶん」
「……そう」
イザベラは苦笑した。(この子、雰囲気はあったけど……もしかして……)
アルは昔から理解が早かった。
知識も記憶力も常識外れ。
剣術の体技も別格だった。
きっと魔法にもそうした素養があるのだろう。
そう自分を納得させた。
その夜からアルはイザベラからもらった腕輪に魔力を流す作業にのめり込んだ。
今までの様に繊細に少しずつ流しても、勢いよく流しても弾ける放電現象にあまり変わりがなかったのだ。
やっぱりこの魔法陣……流れる魔力を制御してる?
起きる現象も決まっているし流す魔力量で出力も変わる……。
なのに魔法陣なしで魔力を練ると魔力制御がとんでもなく難しい。
もしかして……
これも電気と一緒で魔力にも圧力と量が関係してる???
電圧と電流の相関関係に近いのであれば……
新たな仮説に胸を躍らせながら夜が更けていった。
それから数か月。
魔法訓練は驚くほど順調に進んだ。
「今日は雷の塊を掌で維持してみて」
「……こう?」
バチッ……バチバチッ。
「……じゃあもう少し大きく」
「これくらい?」
バチバチッ……バチバチバチバチッ。
「ええ……」
「次はあの標的へ飛ばしてみて」
「こうかな。」
前世でみた野球のスローイングの要領で標的目掛けて投げてみた。
バチッ。
雷気の塊が木製の的へ命中する。
薄っすらと黒煙が上がり煙が晴れると焦げ跡が残っていた。
「……」
イザベラは思わず額へ手を当てた。(まだ数か月しか経ってないんだけど……)
普通なら早くても1年近く、場合によっては数年かかる人もいるという。
それだけ魔力制御が難しい内容だった。
もちろんアルは本気を出していない。
夜の研究で得た知識を少しだけ表へ出しているだけだった。
それでも十分すぎるほど異常なのである。
「アル」
「なに?」
「あなた、本当に十歳?」
「……たぶん十歳」頭を搔きながら苦笑いして答える。
「そうよね……」
でもイザベラは嬉しかった。
才能ある教え子ほど、教える楽しさを感じるものだからだ。
一方。
剣術も新たな段階へ進んでいた。
「坊ちゃん」
「何?」
「これからの鍛錬はもう実戦のみだ」
「稽古付けてくれないの?」
「日々の鍛錬は今まで通り続けろよ」
「だが、それだけじゃ強くなれねえ」
「鍛錬は実戦の為の土台でしかねえ」
ガレスはそういってこの先の剣術指南の内容を聞かせてくれた。
要するに鍛錬は己の身体に体技として刷り込むもので、それをいかに緊張感のある実戦で再現できるかというもの。
実戦経験を積んで命のやり取りに慣れる必要があるのだという。
アルは少し驚く。
「これからは俺たちと一緒に魔獣狩りをしてもらう」
「お前さんも、そろそろ次の段階に進むべき時期だ」
言葉の重みがずっしりと両肩にのしかかるように感じた。
心臓の鼓動が早くなり明らかに緊張感が増した。
恐怖と同時に湧き上がる何かを感じた。
「ほう」
ガレスは目を細めた。
アルの瞳の中に覚悟と高揚感を感じたのだ。
「それでだ」
おもむろに長さ約60センチほどのシンプルな鞘に収まった諸刃の剣をアルの前に差し出した。
「なに?」
「領主様には了解は取った」
「この剣は今のお前の体格に合わせて作ったものだ」
「受け取れ」
「え?ほんとに?」
片手で差し出された剣を両手で受け取り鞘から剣を抜いた。
銀色に輝くシンプルで軽くそして何より日の光を受けて諸刃が煌めいた。
そして無意識に上段から下段、そして水平に剣を振った。
「違和感なく振ったな」
「すごい……手に馴染む」
「そうか。これからはそれがお前の相棒だ」
その日から訓練は変わった。
アズールが依頼を受けると基本的に同行が許された。
森の深部の偵察以来。
素材収集の依頼。
商隊の護衛依頼。
様々な依頼に同行してその都度、現場の立ち回り方などを叩きこまれた。
「アル!こいつらならお前でもやれるだろ!」
「一人で狩ってみろ!」
「はい!」
低級の魔物たちなら訳なく対応できるほどの腕になっていた。
それでもその都度ダメ出しを食っていた。
「間合いが甘い!」
「受け流しが雑!」
命を奪われないための立ち回りなどの生き残るための剣術がメインだった。
「いいか。」
ガレスが木陰で話す。
「強ぇ奴ほど隙がねぇ」
「相手をよく見ろ」
「目線」
「肩」
「腰」
「足」
「全部見ろ」
「そこに次の動きが出る」
アルは真剣な眼差しで頷いた。
どれも前世には無かった知識だ。
経験者だからこそ語れる言葉。
研究者としても非常に興味深い。
その教えは、一つ残らず頭へ刻み込まれていった。
第9話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回はイザベラとの本格的な魔法修行と、ガレスから実戦剣術へ進む許可が下りる回でした。
周囲から見れば魔法初心者。しかし実際には数年間こっそり研究を続けていたアルは、少しずつ規格外ぶりを見せ始めます。
次回からはいよいよ実戦経験も増え、冒険者としての成長がさらに加速していきます。
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次回もよろしくお願いいたします。




