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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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天恵の儀

今回はアルが十歳を迎え、世界の子供たちが必ず受ける「天恵の儀」のお話です。

この四年間で積み重ねてきた努力の成果と、彼が新たに得るものをぜひ見届けていただければ嬉しいです。

それでは第8話、お楽しみください。

 あの日、街で世界の光と影を目にしてから四年余りの歳月が流れた。

 アルフレッド・フォン・ヴァルクレインは間もなく十歳を迎えようとしていた。

 五歳だった頃の面影はまだ残っているが身体は見違えるように成長していた。

 毎朝欠かさず続けた剣術鍛錬によって無駄のない筋肉が付き、幼さの中にも凛とした雰囲気が漂う。

 その日の朝も、屋敷の訓練場には木剣同士が激しく打ち合う音が響いていた。

「いいぞ、アル!」

 ガレスの豪快な声が飛ぶ。

 アルは一歩踏み込み、鋭く木剣を振り抜く。

 だが、その一撃は紙一重でかわされた。

「甘い!」

 返す刃。

 木剣が肩へ迫る。

 アルは身体をひねり、寸前でかわすと勢いを利用して距離を取った。

「ふぅ……」

 それでもまだ10歳の身体では、すぐに息も上がり力の差は歴然だ。

 それでも目は死んでいない。

 ガレスは満足そうに頷いた。

「もうスティール級なら十分通用するな」

「本当?」

「ああ、同年代は勿論新人冒険者も適うやつはいないだろ」

「でも、まだガレスには一本も取れないよ」

「当たり前だ」

 ガレスは豪快に笑った。

「10歳の坊主に1本取られるようじゃオリハル級は名乗れねぇ」

 周囲で見守っていたアズール・イージスの仲間たちも笑う。

「でも坊ちゃん、本当に強くなったな」

 アルも思わず笑みを浮かべた。

 四年間、毎日の積み重ねは決して裏切らなかった。

 その成長を認められた結果、最近ではアズール・イージスの依頼にも同行することが許されていた。

 もちろん危険な討伐ではない。

 アルに合わせて薬草採取での薬草の見分け方や低ランク魔獣の討伐依頼で魔獣の狩り方などを教えるためでもあった

「ホーンラビットの群れだ!」

 ガレスが指差す。

 一匹の角を持つ兎型魔獣たちが草むらから飛び出した。

「アル!下がっていろ!」

「はい!」

 アルは腰の剣は抜いているが実戦には参加が許されていない。

 アズール・イージスの戦い方、連携などを後ろから見て学んでいた。

 低ランクの魔獣はアズールの敵ではない。

 見事な連携、簡潔でよどみない意思疎通。

 素人から見てもお互いを補完し合い見事なチームプレーを見せていた。

「やっぱりみんなすごいな」

「あっという間だ!」 

 するとガレスが

「アルももっと大きくなればこれくらいはすぐに出来るようになる」

「ほんと?」

「ああ。本当に強くなってるからな」

 イザベラが続けた。

「それにもうすぐ天恵の儀でしょ?魔法も使えるようになるわ」

「領主様の子だ。きっとすげえの授けられるぞ」

 ガレスが笑って言った。

「そうだといいな」

 そう言いながら

 一応基礎的な魔法は5属性使えるなんて言えないよな……。

 苦笑いしながら討伐された魔獣に近づく

「ごめんね、ありがとう」

 そう心で祈って手を合わせた。

 前世では命を奪う経験などなかったがこの世界では、生きるために必要なこともある。

 その現実だけは忘れないようにしていた。


 セバスとの座学も毎日の日課となっている。

「では、本日は王国北部の交易について」

 セバスティアンが地図を広げる。

「北方交易ではドワーフ製品が……」

「鉄鋼製品の流通でしょ」

「その通りです」

「獣人部族との交易品は薬草、皮革、乾燥肉が主」

「……はい」

「エルフは木工品や魔法触媒」

「……」

 セバスティアンは苦笑した。

「アル様」

「うん?」

「私がお教えすることは、ほとんど無くなってしまいました」

 アルは首を横に振る。

「そんなことはないよ。セバスにはまだまだ色々教わらなきゃ」

「知らないことはまだまだあるよ。この世界は広いんだ」

 その答えに老執事は目を細めた。

 知識を誇らない。

 知識を終着点にしない。

 だからこそ、この少年は伸び続けるのだ。


 そして夜、屋敷が静まり返る時間。

 アルだけの研究室となった自室。

 机の上には何冊もの研究ノート。

 魔石。

 魔道具の部品。

「火」

 掌へ小さな炎が灯る。

「水」

 一滴の雫。

「風」

 紙が揺れる。

「土」

 小石が姿を変える。

「雷」

 青白い火花が静かに走る。

 すべて詠唱も魔法陣もない。

 前世の物理学と化学、そして魔力という名のエネルギー。

 四年間の研究は確かな成果を上げていた。

 五属性、一般的な初級魔法程度なら自在に扱える。

 だがここで壁にぶつかっていた。

「低出力なら全然問題なのに……」

 もっと高出力。

 もっと広範囲。

 これを試そうとするとどうしても上手く行かない。

 そーっと魔力を注げば現象は発動する。

 しかしその制御がとても難しいのだ。

 きっとこの辺の制御に魔法陣が関わっているのかもしれないな……。

 

 そんなある日。

 唐突にリリアが部屋に呼びに来た。

「アル様!レオナルト様がお帰りになりましたよ」

「ほんと?」

 ロビーに走っていくと

「アル!」

 聞き慣れた声が吹き抜けのロビー全体に響いた。

 そこには銀髪の青年が両親やメイド、セバス達の出迎えを受けていた。

「兄様!」

「久しぶりだな、アル!」

 レオナルト・フォン・ヴァルクレイン。

 王都の学園から長期休暇で帰省してきた兄だった。

 アルは自然と笑顔になる。

 レオナルトは頭を優しく撫でた。

「また大きくなったな」

「兄様こそ」

「どうして帰省を?」

「もうすぐお前の天恵の儀だからな」

「兄として見守らなきゃな」

「ありがとう」

 二人は並んで歩く。

 久しぶりに会う兄弟の話題は終わりがなかった。

 王都の話。

 学園生活。

 友人たち。

 夜遅くまで話は尽きなかった。

 レオナルトは途中、机へ積まれたノートを見つめる。

「相変わらず勉強の虫だな」

 アルは少しだけ照れる。

「少しだけ」

「そうか」

 兄はそれ以上聞かなかった。

 幼い頃から知っている。

 弟が何かに夢中になると止まらないことを。

「ほどほどにな」

「はい」


 そして迎えた天恵の儀。

 王都でも地方でも十歳を迎える子供が必ず受ける神聖な儀式。

 司祭に教会の祈りの間に案内される。

 重厚な扉が静かに閉じられる。

 中にはアル一人だけ。

 祭壇の前へ跪き、静かに祈る。(……いよいよか)

 胸の奥が少しだけ緊張する。(僕は既に五属性使える)

(どうなるんだろ……)

 その瞬間だった。

 世界が白く染まり聞き覚えのある声がした。

「久しぶりだね」

「……!」

顔を上げるとそこには、柔らかな光に包まれた得体のしれない存在があった。

「創造主……!」

「元気そうで安心したよ」

「どうしてここに?」

 創造主は思わず笑った。

「この世界は僕が作ったものだからね。だからこうして神として祀られてる」

「そういうことか。あなたが神だったとはね」

 二人は笑って再会を喜んだ。

「四年ぶりだね、この世界はどう?」

 アルは迷わなかった。

「楽しいよ」

「健康な身体、優しい家族、よくしてくれる使用人たち、大切な仲間」

「それと好きなだけ出来る魔法研究」

「転生を受けて本当に良かったと思ってる」

 創造主は優しく笑った。

「それなら良かった」

「君に提案した甲斐があったね」

 少し間を置いて続ける。

「規格外の魔力量は役立った?」

 アルは苦笑した。

「最高だよ。実験材料に困ることが無い」

「こんな恵まれた研究環境は前世には絶対に無いよ」

 二人は笑った。

「貴方が皆に属性を与えるのか」

「そうだね」

「今にして思えばそれが停滞の原因だったかもしれないけどね」

 やがて創造主は真剣な空気をまといアルに問う。

「さて、本題だ。」

「君には属性を与えるという話ではない」

「そういう感性で生きて欲しいわけじゃないしね」

「5属性使えちゃう件の事か?」

「そう」

「ただそれを他のものに知られると面倒だろう?」

「確かに……五属性全部が使えたら、この世界では大騒ぎだよね」

 すると創造主が

「それに属性を測る魔道具もこの世界にはあるから下手をするとバレる可能性がある」

「え?本当??」

 アルは頭を掻きながら困惑している

「だから一つ提案がある。手を出して」

 掌へ淡い光が生まれる。

「これは?」

「隠蔽のスキル」

「自分の本来の属性や能力を偽装するスキルだ」

「使うかどうかは君が決めていい」

「そんなのまであるの?」

「使えるならありがたい」

 アルとしてもいずれはバレてしまう事は理解しているが今はまだ知られたくない。

「じゃあ念慮なく」

 アルは迷わなかった。

「じゃあ授けるね」

 光が身体へ溶け込む。

「ありがとう。」

「こちらこそ。」

 創造主は最後に微笑んだ。

「今、少し壁にぶつかっているね」

「知ってたの?」

「君のことは見守っていたからね」

 アルは苦笑いしながら

「魔法は僕の概念に無いものだから分からないことだらけだけど、でも楽しいよ」

 創造主は笑って 

「ならよかったよ」

「この世界の理を君ならきっと書き換えることが出来るんじゃないかな」

「それを目指して貰いたい。それが君らしい生き方だから。」

「そんな仰々しい事は考えていないよ」

 謙遜してアルは言う。

「いいんだよ結果としてそうなったら僕がうれしいって話だよ」

「この世界を楽しんでね」 

 その言葉を最後に。

 光は静かに消えていった。

「ああ。ありがとう」

 アルが礼を言って別れの挨拶をすると辺りの静寂が解かれる。


 目を開く。

 再び祈りの間の祭壇の前・・・現実世界に戻ってきた。

 重厚な扉が開いて司祭が入ってくる。

 神のお声はお聞きになれましたか?

「はい」

「属性は……」

 アルは静かに隠ぺいを発動する。

 五属性の光は一つへ収束した。

 青白い稲妻。

「雷属性」

 神官が驚きの声を漏らす。

「おお……!」

「雷属性とは!」

 祈りの間の外には家族が待っていた。

「どうだった?」

 エルディオンが尋ねる。

 アルは笑って答える。

「雷属性でした」

 一瞬の静寂。

 そして。

「はっはっは!」

 父が豪快に笑う。

「そうか!雷属性か!」

 母も優しく微笑み、レオナルトは弟の肩へ手を置いた。

「おめでとう」

「ありがとう、兄様」

 アルは家族を見渡す。

 胸の奥で、小さく呟いた。

(ごめんなさい。)

(でも、今はまだ。)

(この秘密は僕だけのものだ。)


第8話を読んでいただきありがとうございました。

今回はアルの成長と「天恵の儀」、そして創造主との再会を描きました。

ここで一区切りとなりますが、アルの物語はここからさらに大きく動き始めます。

次回からはいよいよ新たな環境、新たな出会いが待っています。

少しずつ世界が広がっていく様子を楽しんでいただけたら嬉しいです。

面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想をいただけると今後の励みになります。

これからもよろしくお願いいたします。

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