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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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87/115

王の守護者

第87話をお届けします。

王宮を襲った黒ローブたち。

その中で、エルディオンが守ろうとするものとは――。

今回も楽しんでいただけましたら幸いです。



 大広間は、瞬く間に戦場へ変わっていた。

 悲鳴。 

 怒号。

 剣と剣がぶつかる音。

 床へ落ちる矢。

 魔法による爆発音。

 逃げ惑う人々。

 先ほどまで祝典のために集まっていた場所とは、もはや思えない。

「陛下、こちらへ!」

 エルディオンは剣を構えたまま叫んだ。

 国王を背後へ下がらせる。

 その周囲には、数人の上位貴族たちが集まっていた。

「辺境伯様!」

「分かっている!」

 エルディオンが迫ってきた黒ローブを斬り払う。

 だが、一人倒しても。

 その後ろから、さらに二人。

 また一人。

 敵の数が多すぎる。

「くっ……!」

 エルディオンは歯を食いしばった。

 この人数を相手に、正面から押し返すのは難しい。

 それでも。

 ここで退けば、王が危険にさらされる。

「陛下をお守りしろ!」

 別の上位貴族が叫ぶ。

 その声に応じるように、周囲の貴族たちも剣を抜いた。

 普段ならば戦場とは無縁の者もいる。

 それでも、王を目の前にして逃げ出すわけにはいかなかった。

「道を切り開く!」

「陛下を後ろへ!」

 王を守るように、人の壁が作られる。

 だが。

 敵は、その動きを待っていたかのように攻め込んできた。

「――弓矢に警戒しろ!」

 誰かが叫ぶ。

 エルディオンが振り返った。

 大広間の奥。

 黒ローブたちの後方から、弓を構えた者たちが見える。

「全員、伏せろ!」

 エルディオンが叫ぶ。

 直後。

 大量の矢が放たれた。

 空気を切り裂く音。

 無数の矢が飛んでくる。

 エルディオンは反射的に国王の前へ立った。

「――!」

 一本の矢を剣で弾く。

 続いて、別の矢が肩を掠めた。

「ぐっ……!」

 痛みが走る。

 だが、止まるわけにはいかない。

「辺境伯様!」

「構うな!」

 エルディオンは叫び返す。

「陛下を!」

 再び敵が迫ってくる。

 エルディオンは剣を振るった。

 一人、二人と斬り伏せる。

 だが、次々と敵が押し寄せる。

「多すぎる……!」

 誰かが呟いた。

 エルディオンも同じことを考えていた。

 これは、単純な襲撃ではない。

 敵は王宮内部の構造を理解している。

 王がどこにいるのかも。

 どこを突破すればいいのかも。

 そして――。

 誰を狙うべきなのかも。

 まるで。

 最初から全てを知っていたかのように。

「……謀反、か……」

 エルディオンは呟いた。

 視線を巡らせる。

 戦っている者たち。

 王の側にいた者。

 王国の中枢に近い者。

 その周囲へ、敵が集中している。

「まずい……」

 エルディオンは国王を見る。

 王の顔にも、緊張が浮かんでいた。

「辺境伯」

「はい」

「余を置いて逃げよ」

「……何をおっしゃいます!」

「このままでは、皆が巻き込まれる」

 国王の声は静かだった。

「余一人のために、これ以上――」

「陛下」

 エルディオンは遮った。

「それ以上は、おっしゃらないでください」

 剣を握り直す。

「私は、ヴァルクレイン辺境伯です」

「北方からこの国を守るのが私の務め」

 エルディオンは国王の前に立った。

「この国の王を守ることが、私の務めです」

 国王が目を見開く。

「……エルディオン」

「参りましょう!」

 エルディオンが前を見る。

「まだ道はあります」

 王を連れて、大広間の奥へ。

 そこから別の出口へ向かう。

 そのためには。

 目の前の敵を突破しなければならない。

「行くぞ!」

 エルディオンが踏み込む。

 剣が黒ローブの一人を弾き飛ばす。

 隙ができる。

「今だ!」

 王と数人の貴族が動く。

 だが。

 その瞬間。

 横から別の敵が飛び込んできた。

「――!」

 エルディオンが受け止める。

 剣と剣がぶつかる。

 火花が散る。

「ぐっ……!」

 押し込まれる。

 相手を弾き返す。

 その直後。

 背後から声が響いた。

「――陛下!」

 エルディオンは振り返った。

 一本の矢が、国王へ向かって飛んでいる。

「させるか!」

 エルディオンは身体を滑り込ませた。

 矢が。

 深く身体へ突き刺さった。

「――っ!」

 衝撃。

 一瞬。

 何が起きたのか分からなかった。

 エルディオンは、自分の身体を見下ろす。

 矢が刺さっている。

 血が、ゆっくりと衣服を染めていく。

「辺境伯!」

 国王の声が聞こえた。

「……陛下」

 エルディオンは膝をつきかける。

 だが。

 倒れなかった。

 剣を地面へ突き立て、それを支えに身体を起こす。

「……ご無事で……?」

 息が苦しい。

 視界が僅かに揺れる。

 それでも。

 背後にいる王だけは、敵へ渡すわけにはいかない。

「……早く」

 エルディオンが呟く。

「陛下を……」

 周囲の貴族たちが動く。

「陛下はこちらへ!」

「辺境伯は我々が!」

「行け!」

 エルディオンは叫んだ。

「早く行け!」

 王が連れていかれる。

 エルディオンはその背中を見送る。

 ほんの僅か。

 安心した。

 これでいい。

 まだ、王は生きている。

 ならば。

 自分の役目は終わっていない。

 エルディオンは再び剣を握った。

「……来い」

 黒ローブたちが迫る。

 身体は重い。

 傷は深い。

 それでも。

 エルディオンは一歩前へ出た。

 その姿を見た黒ローブの一人が、低く呟く。

「まだ立つか」

「当然だ」

 エルディオンは答えた。

「私が倒れるのは――」

 剣を構える。

「王が安全な場所へ行った後だ」

 再び。

 剣がぶつかった。

 大広間に、激しい戦いの音が響き続ける。

 その頃。

 王宮の別の場所でも――。


第87話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回は、エルディオンを中心に王宮での戦いを描きました。

守る者として剣を取り、最後まで王の前に立ち続けるエルディオン。

次回は、王都で起きるもう一つの出来事へと視点を移します。

引き続き、よろしくお願いいたします。


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