新たな動き
第85話「新たな動き」をお届けします。
再会を果たしたアルたちは、それぞれが経験した出来事を語り合います。
龍王との出会い。
龍人となったアルの身体。
そして、アルの手に渡った異界の太刀。
一方で、黒魔石と精霊石を巡る研究も、少しずつ次の段階へと進み始めていました。
今回も楽しんでいただけましたら幸いです。
翌朝。
アルたちは、再びギルドの一室に集まっていた。
昨日はガレスたちの話を聞いた。
今日は、アルたちの話をする番だった。
「それで……」
ガレスが腕を組む。
「お前たちは、あの後どうなった?」
「アルが……」
エルシアの声が少し小さくなる。
「大怪我をして……」
ガレスの表情が変わる。
アルは自分の胸へ手を当てた。
「かなり危なかったと思う」
アルは少しだけ考えた。
「俺たちは……山へ逃げた」
「エルシアが俺を乗せて山脈方向へ……」
「魔物から逃げ続けて、気がついたら山の中に入ってた」
エルシアが頷く。
「追ってくる魔物の気配がなくなるまで、ずっと逃げてた」
アルは少しだけ黙った。
「そこで……龍王に会った」
「龍王?」
部屋の中に、驚きの声が重なる。
「龍王って……あのエイシェントドラゴン?」
イザベラが聞き返す。
「うん。たぶん、みんなが知ってる龍王なんだと思う」
アルは苦笑した。
「巨大な白銀の龍だった」
「そんな……伝説だと思ってた……」
フィオナが呟く。
「うん」
アルは頷いた。
「山の奥に祠があって、そこにいた」
ガレスがしばらく言葉を失う。
「……よく生きてたな、お前」
「俺もそう思う」
アルは苦笑する。
「ただ……龍王のおかげで助かった」
そして。
アルは龍王の血で助かったことを話した。
その血によって傷が癒えたこと。
身体そのものが変わり始めたこと。
そして――。
「俺は、龍人になった」
「……龍人?」
セレスが目を見開く。
「人間と龍の間にあるような存在、ということですか?」
「龍王は、そういうことだと言っていた」
アルは頷いた。
「身体の中に龍の血が流れている」
アル自身も、まだ完全には理解できていない。
だからこそ。
「これについても、これから調べていくつもり」
そう言った瞬間。
イザベラが呆れたように笑った。
「こんな状況でも研究なのね」
「だって……」
アルは少し困った顔をする。
「自分の身体が変わったんだよ?」
「調べない方がおかしいと思う」
「そこは相変わらずね」
フィオナが笑う。
少しだけ。
重かった空気が和らいだ。
「それで、もう一つある」
アルは、自分の腰にある太刀へ手を置いた。
「これ」
鞘に収められた一振りの太刀。
ガレスたちの視線が集まる。
「……それって?」
「龍王から譲り受けたんだ」
アルは説明を始めた。
龍王の古い友人だった異界の鍛冶師。
この世界とは違う場所から来たこと。
究極の一振りを求めて旅をしていたこと。
そして、最後にこの太刀を残したこと。
「龍王は、その人と約束してたんだ」
「この太刀を理解できる者が現れたら、その者に渡すって」
「それで……お前が?」
ガレスが聞く。
「うん」
アルは頷いた。
「最初は抜けなかった」
「でも、構造を調べて、素材を調べて、魔力の流れを確認して……」
「それで、理解できた瞬間に抜けた」
ガレスが苦笑する。
「なるほどな」
「お前らしい」
「そうかな?」
「ああ」
イザベラも太刀を見る。
「で、それは何が特別なの?」
「素材が特殊なんだ」
アルの目が少し輝く。
「アダマンタイトと龍王の鱗が使われている」
「……龍王の鱗?」
セレスが驚く。
「しかも、この太刀は魔力をすごく効率よく通す」
「炎、風、水、土、雷……全部に反応した」
「特に雷は強かった」
アルがそこまで話したところで、ガレスが手を上げた。
「待て」
「その話、詳しく聞くと長くなるだろ」
「……うん」
「なら、今日はそこまでにしておけ」
「お前、まだ本調子じゃないんだろ?」
「……分かった」
アルは素直に頷いた。
研究したい。
もっと調べたい。
だが。
今は仲間たちと再会したばかりだ。
それに。
これから考えなければならないことは多い。
黒魔石。
精霊石。
魔人族領。
エルフ領。
黒ローブたち。
そして、自分自身の身体。
まだ、何一つ解決していない。
「……これから、どうする?」
エルシアが尋ねる。
アルはしばらく黙っていた。
「まずは、情報を整理する」
「それから、エルフ領の状況を確認したい」
ガレスが頷く。
「俺たちが聞いた話が本当なら、急いだ方がいいかもしれない」
「うん」
アルも頷いた。
「でも、今すぐは俺たち自身が動けない……」
「身体も完全じゃないし、敵がどこにいるのかも分からない」
「だから不用意に動かず情報収集してから決めようと思う」
皆が頷いた。
「リシェルには……つらい話だと思うが……」
俯くリシェル。
しかし。
「分かっています。行くにしても万全でなければいけません……」
「だから……」
皆も同じ意見だった。
身体と心を整えて。
そして、可能な限り準備する。
「……だから、少しだけ休む」
アルが言った。
「その間に、分かっていることを整理しよう」
「それから次に進む」
ガレスが笑った。
「それでいい」
こうして。
アルたちは再び歩き出すための準備を始めた。
一方。
大陸のどこか。
薄暗い部屋の中。
一つの魔法陣が淡く光っていた。
その中央に置かれているのは、黒魔石。
そして。
その隣には、エルフ領から持ち出された精霊石が置かれている。
「……この術式であれば、おそらくは……」
黒ローブの男が報告する。
その前に立つ別の男が、二つの石を見つめていた。
「うむ。この二つが融合すれば……」
「はい」
「どうしても安定しなかった、命の供給が……」
魔法陣の光が揺らぐ。
黒魔石の表面に、黒い亀裂のような光が走った。
その瞬間。
精霊石が淡く輝く。
「……申し訳ありません……」
「またも、融合には至っておりません……」
「いや、よい。以前より近づいている」
男は静かに笑った。
「術式の解析を進めよ」
「はい」
「もう少しで、事は成るであろう」
黒ローブたちが動き始める。
まだ完成してはいない。
それでも。
研究は、確実に前へ進んでいた。
そして。
エルフ領でも、異変が起きていた。
再び現れた黒ローブたち。
エルフたちは戦った。
だが。
今回は戦うことだけを優先しなかった。
リシェルからの知らせにより戦術が決まっていた。
世界樹を守る。
住民を逃がす。
そして、精霊たちを守る。
そのために、エルフたちは防衛を優先した。
人的被害は最小限に抑えられた。
しかし。
里は大きく荒らされた。
そして。
いくつかの精霊石は奪われてしまっていた。
第85話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、アルたちがそれぞれの出来事を語り合い、これからの行動について考える回でした。
龍人となったアル。
異界の鍛冶師が残した太刀。
そして、黒魔石と精霊石を巡る研究。
それぞれの場所で、少しずつ新しい動きが始まっています。
エルフ領では、再び黒ローブたちが動き出しました。
アルたちが次に向かう先は、そして精霊石を巡る謎はどう繋がっていくのか。
次回もよろしくお願いいたします。




