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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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84/114

敗走の真実

第84話「敗走の真実」をお届けします。

再会したアルたちは、ガレスたちが経験した敗走について話を聞くことになります。

仲間たちの安否、魔人族領で起きたこと、そして黒ローブたちの目的。

少しずつ、これまで見えなかった事実が明らかになっていきます。

今回も楽しんでいただけましたら幸いです。


 ギルドの奥にある一室。

 アルたちは、長いテーブルを囲んでいた。

 誰も、すぐには口を開かなかった。

 再会できた喜びはある。

 けれど。

 今から語られることが、それだけでは終わらないことを全員が分かっていた。

 最初に口を開いたのは、ガレスだった。

「撤退を決めた、その後だ」

 アルは、あのときの言葉を思い出していた。

 ――撤退するぞ。

 ――このままじゃ……全滅だ。

 あの判断がなければ。

 自分たちは生き残れなかった。

「そこからは……散り散りになっちまった」

 ガレスが言った。

「魔物の圧力が強すぎた」

「俺たちは何度か隊列を組み直したが、最後にはそれも無理だった」

「そして……」

 ガレスが一度、目を閉じる。

「ドノヴァンとレオンが残った」

 アルの胸が締めつけられた。

「……二人は?」

 ガレスはすぐには答えなかった。

「俺たちが逃げる時間を作るためだ」

「魔物を引きつけて、その場に残った」

「俺たちが振り返ったときには、もう姿が見えなかった」

 沈黙。

 アルは俯いた。

 あの戦いの中で、何度も聞いた怒号。

 魔物の咆哮。

 土煙。

 黒い石。

 そして、途切れ途切れになっていった仲間たちの気配。

「……ドノヴァン……レオン……」

 アルの頬を一筋の涙が流れた。

 エルシアが、そっと隣に立つ。

 何も言わない。

 ただ、そこにいる。

 それだけでよかった。

 ガレスが言う。

「俺もこの有様だ」

 残った腕で、失った腕の付け根をさすった。

「それでも生き残った」

「フィオナが何とか手当してくれてな」

「イザベラとセレスの魔法とリシェルの弓で何とかしのいで逃げ延びたって訳だ」

「……うん」

 アルは一人ずつ確認する。

 だが。

「……カインとグランは?」

 ガレスの表情が曇る。

「……分からん……」

「……行方不明?」

「……ああ」

 ガレスは頷いた。

「戦場ではぐれてそのまま……」

「その後の消息は確認できていない」

「……そっか」

 アルは頷いた。

 断定しない。

 分からないものは、分からない。

 それが今できる唯一の答えだった。

「そして……魔人族領だ」

 ガレスが話を続ける。

「俺たちが見た限りでは、かなり酷いことになっている」

「魔人族たちは?」

 セレスが顔を伏せる。

「……多くが、巻き込まれたわ……」

 震える声で言った。

「魔物に踏み荒らされて……逃げることもできなかった者も多い」

「そして……」

 言葉が止まる。

 フィオナが代わりに続けた。

「黒ローブたちは、倒れた魔人族の生命力を……黒い石へ変えていた」

「例の魔法陣を使って……」

 アルの目が見開かれる。

「……黒魔石に?」

「ええ」

 フィオナは頷いた。

 アルは拳を握る。

 黒魔石。

 生命力を奪い、蓄える石。

 それは単なる研究材料ではなかった。

 誰かの命そのものを、石へ変えている。

「でも」

 セレスが顔を上げる。

「全滅ではないわ。私たちの介入と魔人族たちも懸命に戦って……」

「多くの仲間を森の奥へ逃がすことができたわ」

「皆の犠牲は無駄じゃない……」

 アルは少しだけ息を吐いた。

 すべてが失われたわけではない。

 だが。

 それでも被害は大きすぎる。

「……黒ローブたちは、そのために魔人族領へ来たってことだよね」

 アルが呟く。

「黒魔石を作るために」

「おそらくな」

 ガレスが答える。

「魔力量の多い魔人族が格好の標的になったってことだろう……」

「黒魔石を作る原料として蹂躙しやがった」

 ガレスは悔しそうに右腕をテーブルに叩きつけた。

 アルは考え込む。

 黒魔石。

 魔人族。

 黒ローブ。

 そして精霊石。

 まだ、すべてが一本の線にはならない。

 それでも。

 確実に繋がり始めている。

「もう一つ、気になる話があるの」

 イザベラが言った。

「何?」

「黒ローブたちの会話」

「私たちが逃げる直前、奴らが話しているのを聞いた」

 ガレスの声が低くなる。

「次は……エルフ領だ、と」

 アルの表情が変わった。

「……エルフ領?」

 アルはリシェルの顔を見た。

 リシェルも押し黙ったままうつむいている。

「確実にそう言ったとは断言できない」

「だが、俺にはそう聞こえた」

 エルシアが眉を寄せる。

「精霊石……」

 その言葉に、全員が黙った。

 アルも同じことを考えていた。

 黒ローブたちは、一度エルフ領から精霊石を奪おうとしている。

 そして。

 目的を達成できなかった。

「……また狙う可能性があるってことか……」

 アルが言う。

「そう考えた方がいい」

「俺もそう思う」

 ガレスは頷いた。

「実際に奴らがもう動いているかどうかは分からない」

「うん」

 アルは頷く。

 分からないことを、分かったことにはしない。

 それでも。

 可能性があるなら、確かめる必要がある。

 アルは静かに息を吐いた。

「……精霊石を守らないと」

 エルシアがアルを見る。

「うん」

 するとリシェルが言った。

「エルフの里にはメッセンジャーホークを飛ばして危険を知らせてはいる」

「警戒することと、敵の数が多すぎる場合は撤退を優先するように、と」

 その瞳には、里が無事であってほしいという願望があらわれていた。

 ガレスが椅子の背もたれへ身体を預ける。

「まずは、俺たちが知っていることはこんなところだ」

「詳しいことは、もっと整理してから話した方がいい」

「アルも、まだ身体が完全じゃないだろ」

「大丈夫」

 アルは答えかけて。

 少し考える。

「……いや」

 そして言い直した。

「ちゃんと休んでから考える」

 ガレスが苦笑した。

「それがいい」

 久しぶりに。

 少しだけ、いつもの空気が戻った気がした。

 けれど。

 アルの胸の奥には、重いものが残っていた。

 ドノヴァン。

 レオン。

 行方不明のカインとグラン。

 そして、傷ついた仲間たち。

 魔人族領に残された多くの犠牲。

 黒魔石。

 精霊石。

 黒ローブ。

 まだ、知らないことが多すぎる。

「……これから、どうする?」

 エルシアが尋ねる。

 アルは答えなかった。

 窓の外を見る。

 夕暮れの街。

 その向こうには、巨大な山脈がある。

 そして、その先には魔人族領とエルフ領がある。

「……まずは」

 アルは静かに言った。

「今まで分かったことを、全部整理しよう」

「それから考える」

 研究者として。

 感情だけで動いてはいけない。

 けれど。

 見過ごすこともできない。

 アルは、そう思っていた。

 その夜。

 再会した仲間たちは、長い敗走の話を終えた。

 しかし。

 それは、すべての始まりに過ぎなかった。

 黒魔石と精霊石。

 二つの石を巡る謎は、まだアルたちの知らない場所で動き続けていた。


第84話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回は、ガレスたちが経験した敗走の詳細と、その後の魔人族領の状況が明らかになる回でした。

ドノヴァンとレオンのこと。

行方不明となったカインとグラン。

そして、黒魔石と精霊石を巡る謎。

アルたちが知る情報は、少しずつ増えてきました。

それでも、まだ分からないことは多く残されています。

次回は、アルたちがこれまでの出来事を整理しながら、これからの行動について考えていくことになります。

今後ともよろしくお願いいたします。


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