新たな可能性
第82話「新たな可能性」をお届けします。
龍王のもとで回復を続けるアルは、身体の変化や異界の太刀について研究を始めます。
そして龍王から告げられた、新たな二つの属性。
アルの研究者としての好奇心が、また一つ未知へと向かっていきます。
今回も楽しんでいただけましたら幸いです。
龍王の祠で過ごすようになって、数日が経った。
アルの身体は、少しずつ回復していた。
「……だいぶ動けるようになったな」
祠の外で、アルは腕をゆっくりと回す。
以前なら痛みが走っていた動きも、今ではほとんど問題ない。
龍血によって変化した身体。
傷の治りだけではない。
魔力の流れも、以前とは明らかに違っていた。
「……これも調べておきたい」
アルは自分の身体へ魔力を巡らせる。
以前よりも滑らかに流れる魔力。
その感覚は、最近手に入れた太刀にも似ていた。
「やっぱり、似てるんだよな……」
アルは腰に差した太刀へ視線を向ける。
異界の鍛冶師が残した、唯一の一振り。
刀身へ魔力を流す。
炎。
風。
水。
土。
雷。
五つの属性を順番に試していく。
どの属性でも、魔力はほとんど抵抗を感じることなく刀身を通り抜ける。
特に雷を流した時には、刀身の表面を淡い光が走った。
「……やっぱり雷との相性がいいのかな」
アルは何度も感覚を確かめる。
ただ、まだ結論を出すつもりはない。
条件を揃えて、もっと比較する必要がある。
それでも。
「……面白い」
研究者としての好奇心は、抑えられなかった。
「アル」
背後から声がする。
振り返ると、エルシアが少し困った顔で立っていた。
「また研究してる」
「うん」
「身体、まだ完全じゃないんでしょう?」
「……そうだけど」
「じゃあ、今日はそこまで」
エルシアが太刀を指差す。
「分かった」
アルは素直に太刀を収めた。
まだ完全には回復していない。
今は戦うためではなく、身体を戻すことが先だった。
「そういえば」
その様子を見ていた龍王が、ふと思い出したように口を開いた。
「アルよ」
「何?」
「おぬし、炎、風、水、土、雷の魔法は使えるのであったな」
「うん」
「ならば……こういうものもあるぞ」
「こういうもの?」
アルが顔を上げる。
「光と闇だ」
「……光と闇?」
アルは目を瞬かせた。
初めて聞く話だった。
「この世界には、そういう属性も存在する」
「使える者は少ないがな」
龍王はそれ以上詳しく説明することなく、アルを見る。
「試してみたらどうだ?」
「おぬしなら、できるのではないか?」
「……」
アルは黙り込んだ。
光。
闇。
今まで研究してきた五つの属性とは、少し違う。
だが。
「……やってみる」
アルは掌を前へ向けた。
まずは光。
何を想像するべきか。
太陽。
炎とは違う。
熱でもない。
ただ、暗闇を照らすもの。
目に入れば明るく感じるもの。
アルはそんな「光」の感覚を思い浮かべる。
魔力を集める。
すると――。
掌の前に、小さな光が生まれた。
「……!」
淡い光。
ほんの一瞬だけだった。
すぐに消えてしまう。
「消えた……」
「だが、できたではないか」
龍王が静かに言う。
「……できた」
アルの瞳が輝く。
「じゃあ、闇は?」
今度は闇。
アルは少し考える。
黒い色。
影。
夜。
だが、それだけではない気がする。
「……光がない状態?」
そう呟いた瞬間。
アルの周囲の光が、ほんの僅かに弱くなった。
「……!」
エルシアが目を見開く。
「今……暗くなった?」
「うん」
アルも驚いていた。
まだ理解できない。
光とは何なのか。
闇とは何なのか。
どうすれば安定して発現できるのか。
分からないことだらけだ。
だからこそ。
「……研究しないと」
アルは小さく笑った。
龍王はそんなアルを見て、わずかに口元を緩めた。
「好きにするがよい」
それ以上、龍王は何も教えなかった。
アルも、それで十分だった。
これは自分で調べるものだ。
自分で考え、自分で試して、自分で理解する。
それが、アルの魔法だった。
――その時。
空から羽音が聞こえた。
「……ん?」
アルが空を見上げる。
一羽の鳥が、こちらへ向かって飛んでくる。
「メッセンジャーホーク!」
アルは立ち上がった。
やがて鳥はアルの近くへ降り立つ。
足には、小さく折り畳まれた紙が結び付けられていた。
アルは急いでそれを外す。
「……ガレスたちからだ」
胸が高鳴る。
紙を開く。
そこに書かれていた内容は、短かった。
――生存。
――負傷者あり。
――現在地は安全。
――詳細は直接話す。
「…………」
アルはしばらく黙って紙を見つめる。
「生きてる……」
少なくとも、ガレスたちは生きている。
それだけは分かった。
だが。
「負傷者……」
誰が……。
「……」
嫌な想像が頭をよぎる。
だが、今の情報だけでは何も判断できない。
「会えば分かる」
アルは小さく呟いた。
「だったら……合流しよう」
エルシアが頷く。
「うん」
「龍王様。この近くで人の町はありますか?」
アルは龍王に聞いた。
「この山を下りた先に交易都市があるな」
「ここからどれくらい?」
「人の足なら二日ほどになるか」
「それくらいなら行けそうだ」
エルシアも答える。
「うん。それくらいなら大丈夫だね」
「でも無理しないでゆっくりだよ」
「うん」
「その交易都市なら、ガレスたちも来れるよね」
龍王は静かに頷いた。
「そうするがよい」
アルは太刀を腰に差す。
まだ完全な状態ではない。
それでも、もう歩くことはできる。
「……待っててくれ」
アルは手紙を握りしめた。
仲間たちの詳しい状況は、まだ分からない。
それでも。
連絡はついた。
生きている。
今は、それだけで十分だった。
そしてアルたちは――。
龍王の祠を後にする準備を始めた。
第82話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、アルにとって新たな研究対象となる「光」と「闇」が登場しました。
まだ使いこなせるわけではありませんが、アルならきっと自分なりの方法で少しずつ理解していくのだと思います。
そして、ガレスたちから届いた短い知らせ。
次回は、いよいよ仲間たちとの再会です。
ここからまた物語が大きく動き始めます。
次回もよろしくお願いいたします。




