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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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変わりゆく身体

第78話「変わりゆく身体」をお届けします。

龍王の血によって、一命を取り留めたアル。

しかし、それは単なる治療ではありませんでした。

アルの身体では、少しずつ新たな変化が始まっています。

今回も楽しんでいただけましたら幸いです。


 静かだった。

 あれほど激しく響いていたアルの叫び声も、今は聞こえない。

 祠の奥にある巨大な空間には、ただ静かな呼吸だけが残っていた。

 エルシアは、岩の上に横たわるアルを見つめている。

 その顔には疲労が滲んでいた。

 どれだけ時間が経ったのか。

 エルシアには、もう分からない。

 ただ。

 アルが生きている。

 それだけを確かめるように、何度もその胸の動きを見ていた。

「……よかった」

 かすかな呼吸。

 それが続いている。

 エルシアはそっと手を伸ばし、アルの額に触れた。

 熱はある。

 けれど、先ほどまでの異常な熱さではない。

「……少し、落ち着いたかな」

 返事はない。

 アルは眠ったままだった。

 その少し離れた場所では、龍王が静かに目を閉じている。

「まだ目を覚まさぬか」

「うん……」

 エルシアは頷いた。

「でも、呼吸はさっきより安定してる」

「それならば、今は待つしかあるまい」

「……本当に、これで助かるの?」

「分からぬ」

 龍王の答えは、やはり簡潔だった。

「我の血が、その者の身体にどのような変化を与えるのか。我にも確かなことは言えぬ」

 エルシアはアルを見る。

「……今までのアルじゃなくなっちゃうんだよね」

「ああ」

 エルシアは黙った。

 腕の中で苦しんでいたアルを思い出す。

 あのまま何もしなければ、助からなかった。

 エルシアはアルの手を握った。

「生きていてくれるなら、それでいい」

 龍王は何も答えなかった。

 ただ、静かに二人を見つめていた。


 翌朝。

 祠の外から、小さな鳥の声が聞こえた。

 エルシアは目を覚ます。

 眠っている間も、アルから離れることはなかった。

「……おはよう、アル」

 返事はない。

 けれど、昨日とは少し違っていた。

 アルの呼吸が、わずかに力強くなっている。

「……よかった」

 エルシアは水を含ませた布で、アルの額を拭いた。

 それから傷口を確認する。

 出血は、ほとんど止まっていた。

「龍王様……」

「ああ」

「傷が……」

「我の血が働いているのだろう」

「じゃあ……」

「まだ安心するな」

 龍王の言葉に、エルシアは頷く。

「身体の変化は、まだ終わっていない」

 その言葉どおり。

 アルの身体の奥では、静かな変化が続いていた。

 三日目。

 アルの呼吸は、さらに安定した。

 エルシアは少しずつ水を飲ませる。

 食事はまだ無理だった。

 それでも、身体には明らかな変化が現れていた。

「……肌が、少し違う」

 エルシアが呟く。

 以前よりも傷口の周囲が滑らかになっている。

 ただ塞がっているだけではない。

 傷跡そのものが、少しずつ消えているようだった。

「再生している」

 龍王が言う。

「我の血によって、身体が新しい状態へ適応しているのだろう」

「新しい状態……」

「ああ」

 エルシアは不安そうにアルを見る。

「それって……龍になるの?」

「そう単純なものではない」

「では……何になるの?」

「人族と龍族の中間といったところか……」

 龍王は静かに答えた。

「そなたの知る人族でも、獣人族でもないものになる」

 エルシアはアルの手を握り直した。

「……アルなら、大丈夫だよ」

 自分に言い聞かせるように呟く。

「きっと、起きたら……また色々調べたがるから」

 龍王の口元が、ほんの僅かに緩んだ。

 五日目。

 アルが、初めて目を開けた。

「……ここ……」

「アル!」

 エルシアが顔を近づける。

「分かる?」

「……エルシア……?」

「うん。私だよ」

 アルはゆっくりと周囲を見る。

 薄暗い祠。

 そして、その奥にいる巨大な龍。

「……龍王……様?」

「ああ」

 低い声が返ってくる。

 アルは自分の胸に手をやった。

 胸の傷。

 そこには、以前とは明らかに違う感覚があった。

 視線を胸に落とす。

 そこには、もう傷口らしい傷は残っていなかった。

「……傷が……」

 龍王が答える。

「まだ、完全に治ったわけではない」

 アルは自分の腕を見る。

 皮膚。

 筋肉。

 骨。

 魔力。

 どれも以前と同じようでいて、何かが違う。

「……すごい……自分じゃないみたいだ」

「どうなっているんだろう?」

「アル?」

 エルシアが呆れたように見る。

「こんな時に……」

「だって……」

 アルは弱々しく笑った。

「自分の身体が……未知の現象になってる」

 その言葉に、龍王が目を細める。

「やはり、そなたは……」

「……?」

 アルは首を傾げた。

 しかし、すぐに顔をしかめる。

「……っ」

「アル!」

 胸の奥に鋭い痛みが走った。

「無理をするな」

 龍王が低く告げる。

「今のそなたの身体は、変化の途中にある」

「……変化の途中」

 アルは呼吸を整える。

「具体的には……?」

「龍人への変化……とでも言おうか」

「……龍人?」

「さよう。人と龍の中間の種族と言えるだろう」

「そうか……今までのオレではないんだね」

「元気になったら自分のことも調べなきゃね」

「ならばまずは体力の回復に努めよ」

「そうだよアル。ちゃんと元気になってから」

 エルシアが即座に言った。

「……はい」

 珍しく素直に答えるアルに、エルシアは少しだけ笑った。


 

第78話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回は、龍王の血によって変わり始めたアルの身体についてのお話でした。

これまで魔法や精霊、そしてこの世界そのものを研究してきたアルですが、今度は自分自身の身体が研究対象になってしまいました。

果たして龍王の血によって、アルの身体にはどのような変化が起こるのか。

次回もよろしくお願いいたします。


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