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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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散り散り

第73話「散り散り」です。

撤退を決めたアルたちでしたが、魔物の群れは容赦なく追いかけてきます。

逃げ道を塞がれ、次第に追い詰められていく一行。

果たしてアルたちは、無事にこの窮地を脱することができるのか。

そして――。

それでは、どうぞお楽しみください。


 撤退を決めた。

 だが。

 魔物たちは、そんなことを待ってはくれなかった。

「来るぞ!」

 ガレスの叫び声と同時に、魔物の群れが押し寄せてくる。

「走れ!」

 アルたちは一斉に駆け出した。

 北へ。

 戦場から離れるために。

 だが、アルの身体は思うように動かなかった。

「……っ」

 胸が痛む。

 呼吸をするだけで、肺の奥が焼けるようだった。

「アル、がんばって!」

 エルシアが身体を支える。

「……分かってる……」

 アルは息も絶え絶えに答えた。

 それでも。

 足を止めるわけにはいかなかった。

 後ろから。

 魔物の咆哮が迫っている。

「こっちだ!」

 ガレスが叫ぶ。

「街道を外れるぞ!」

 魔物が街道を埋め尽くしている。

 このまま進めば、追いつかれる。

 アルたちは道を外れ、森の中へ入った。

 木々の間を抜ける。

 枝が身体を引っ掻く。

 足元が悪い。

 それでも走る。

 その時。

「くそ!」

 ドノヴァンが突然足を止めた。

「……どうした?」

 レオンが振り返る。

「このままじゃ追いつかれる」

 ドノヴァンは後方を見る。

 木々の向こうから。

 大量の魔物がこちらへ向かってきている。

「……数が多すぎる」

 レオンも理解した。

「誰かが残らないと、全員やられるな」

「そういうことだ」

 ドノヴァンが剣を握る。

「お前……」

 レオンが呟く。

「行け」

 ドノヴァンはアルを見る。

 胸を押さえながら、それでも歩こうとしている。

「アルは……ここで死なせるわけにはいかない!」

 レオンが黙り込む。

「……そうだな」

 ドノヴァンが振り返る。

「お前だけじゃ心細いだろ」

「ふっ……そうかもな」

 二人は顔を見合わせて、笑った。

 そして。

「ガレス!皆をとにかく逃がせ!」

 ドノヴァンが叫んだ。

「振り返るな!」

 レオンも叫ぶ。

 ガレスが一瞬だけ二人を見る。

 「お前ら……」

 だが。

「……任せろ!」

 ガレスはアルたちを先へ進ませた。

 アルは振り返った。

 木々の向こう。

 ドノヴァンとレオンが立っている。

「ダメだよ……ドノヴァン、レオン……」

 声にならない声で呟く。

「行け、アル!」

 その声が響いた、次の瞬間。

 二人へ魔物の群れが押し寄せた。

「――!」

 アルの足が止まりかける。

「アル!」

 エルシアが強く支える。

「行こう!」

「でも……!」

「ドノヴァンたちが残った意味わかるでしょ!」

「彼らの意思を無駄にしないで!」

 アルは唇を噛んだ。

 そして。

 前を向いた。

 走る。

 その背後から。

 剣戟の音が響いていた。

 だが。

 それも次第に遠ざかっていく。

「……っ」

 アルは胸を押さえた。

 息が苦しい。

 意識が霞む。

 それでも、足を動かす。

 森を抜けようとした、その時。

「前から来るぞ!」

 ガレスが叫んだ。

 別の魔物の群れが、前方から現れた。

「挟まれた……!」

 フィオナが声を上げる。

「こっちだ!」

 ガレスが叫ぶ。

 全員がガレスについて走る。

 だが。

 そこにも魔物がいた。

 そこからも咆哮が響く。

「……囲まれてる」

 イザベラが呟いた。

 魔物たちは。

 ただ追いかけているだけではなかった。

 逃げ道を塞いでいる。

 まるで。

 こちらの動きを理解しているかのように。

「黒ローブが指示してるんだ」

 フィオナは息を切らしながら言った。

「……このままじゃ……」

 その時。

 オークジェネラルの巨体が木々をなぎ倒しながら突っ込んできた。

「散れ!」

 ガレスが叫ぶ。

 全員が別々の方向へ飛び退いた。

 地面が大きく揺れる。

「アル!」

 エルシアがアルの身体を抱き寄せる。

「……みんなは?」

 アルが周囲を見る。

 だが。

 さっきまで近くにいた仲間たちの姿が見えない。

「……グラン!」

 ガレスが叫ぶ。

「カイン!」

 返事はない。

「セレス!」

 遠くから。

「こっち!」

 セレスの声が聞こえた。

 だが。

 その方向には大量の魔物がいる。

「セレス!」

 イザベラが叫ぶ。

「こっちへ来て!」

 セレスが叫び返す。

「こっちは大丈夫!」

 その声の直後。

 巨大な魔物が間に割り込んだ。

「セレス……」

 アルは駆け出そうとする。

 だが。

「アル!」

 エルシアが止める。

「今行ったら、二人とも動けなくなる!」

「でも……!」

「今は逃げるしかない!」

 アルは歯を食いしばった。

 セレスの姿が。

 魔物の群れの向こうへ消えていく。

「……セレス!」

 返事はなかった。

 さらに。

「ガレス!」

 今度はイザベラの声。

「こっちも囲まれてる!」

「そのまま西へ抜けろ!」

 ガレスが叫ぶ。

「アルたちは俺が連れていく!」

「分かった!」

 イザベラの姿も。

 木々の向こうへ消えていった。

 誰がどこにいるのか。

 もう分からない。

 戦場の音。

 魔物の咆哮。

 木々が倒れる音。

 誰かの叫び声。

 すべてが混ざり合っていく。

「……みんな」

 アルは呟いた。

 その時。

 目の前に大型の魔物が現れた。

 アルは反射的に右手を向ける。

 だが。

 魔力を集めようとした瞬間。

 胸に激痛が走った。

「――っ!」

 呼吸が止まる。

 魔法が途切れた。

「アル!」

 エルシアが前へ出る。

 風が吹き荒れる。

 魔物の身体を横へ弾き飛ばした。

「走って!」

「……分かった」

 二人は再び走り出す。

 森の奥へ。

 どこへ向かっているのかも分からない。

 ただ。

 魔物から離れるために。

 その頃。

 少し離れた場所では。

「……来い!」

 ガレスが剣を振るっていた。

 魔物の爪を受け止める。

 一体。

 また一体。

 倒しても。

 次々と襲いかかってくる。

「くそ……!」

 ガレスは後退する。

 その視線の先。

 アルたちが逃げていった方向には、もう魔物の姿はない。

「……これでいい」

 ガレスは呟いた。

 次の瞬間。

 横から巨大な魔物が襲いかかる。

「――!」

 ガレスは剣を振るった。

 だが。

 間に合わない。

 鋭い爪が。

 腕を捉えた。

「ぐああああっ!」

 血が飛び散る。

 ガレスの身体が地面へ転がった。

 それでも。

「……まだだ」 

 ガレスは立ち上がる。

「俺は……まだ倒れねぇ」

 魔物の群れが再び迫る。

 ガレスは。

 一人でその群れの前に立ちはだかった。

 そして。

 仲間たちは、散り散りになった。

 魔物の波に飲み込まれ皆の安否はアル達には分からない。

 そして。

 アルたち自身の生存すら、危うい状況になっていた。


第73話「散り散り」を読んでいただき、ありがとうございました。

魔物の群れから逃れるため、アルたちは森の中へと撤退しました。

しかし、圧倒的な物量と追撃によって、仲間たちは次第に離れ離れになっていきます。

これまで一緒に旅をしてきた仲間たちが、それぞれ別の場所へ。

果たして、この状況を乗り越えることができるのか。

ここから物語は、大きな転換点へと入っていきます。

次回もよろしくお願いいたします。


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