襲撃
第70話「襲撃」です。
魔人族領で起きていた異変が、ついにアルたちの目の前で動き始めます。
これまでとは少し違う形で始まる今回の戦い。
アルたちは、この異常事態を止めることができるのか。
それでは、どうぞお楽しみください。
複数の魔物が、山間からこちらへ向かって駆け下りてくる。
アルたちは、とっさに身構えた。
だが。
魔物たちはアルたちを見ても、こちらへ襲いかかってこない。
ただ必死に。
南へ向かって走り抜けていく。
「……やっぱり」
アルが呟く。
「何かから逃げてる」
その先。
山の向こうから、再び大きな衝撃音が響いた。
ドンッ――!
「……急ごう!」
セレスが叫ぶ。
その声には、焦りが滲んでいた。
アルたちは逃げていく魔物を避けながら、北へ向かって走る。
そして。
山道を抜けた先。
アルたちの目の前に、魔人族領の街並みが現れた。
だが。
「……ひどい」
セレスが呟いた。
家々の一部は壊れ、街道には荷物が散乱している。
遠くでは黒煙が上がり、断続的に爆発音が響いていた。
「急ごう!」
セレスが再び駆け出す。
「待って、セレス!」
アルたちも後を追った。
街へ近づくにつれ、状況がはっきりしてくる。
逃げている魔人族。
子供を抱えて走る者。
負傷した者を支えている者。
そして――。
そのすべてを追い立てるように、魔物の群れが押し寄せていた。
「魔物が……」
アルは足を止める。
数が多い。
大小様々な魔物が、街道を埋め尽くしている。
オーク。
ゴブリン。
大型の獣。
見たことのない魔物まで混じっていた。
「どうして……」
セレスの声が震える。
「こんな数の魔物が、街の中に……」
「おかしい」
アルは魔物たちを観察する。
普通なら、これだけ多くの魔物が一か所に集まれば互いに争うはずだ。
種類も違う。
生息地も違う。
それなのに。
魔物たちは同じ方向へ進んでいる。
魔人族を追うように。
北へ。
「……奴らが動かしている?」
アルが呟いた。
「え?」
エルシアが振り返る。
「あの魔物たち」
アルは魔物の群れを指差した。
「ただ暴れているだけじゃない」
その時。
群れの後方から、黒い影が現れた。
黒いローブ。
「……黒ローブ」
アルの表情が変わる。
その人物は魔物たちの後ろに立ち、何かを手にしていた。
黒い石。
アルの鑑定眼が反応する。
視界に半透明の文字が浮かんだ。
『名称:黒魔石』
『状態:魔力反応・異常』
『生命力反応:強』
「……やっぱり」
胸の奥が冷たくなる。
黒魔石。
あの石が、この魔物たちを操るために使われているのか。
黒ローブが腕を上げる。
すると。
魔物たちが一斉に動いた。
「!」
アルは息を呑んだ。
明らかに命令に反応している。
「魔物を……操ってる」
ガレスが低く呟く。
「間違いないな」
黒ローブの一人が叫んだ。
「北へ追い込め!」
「逃がすな!」
その声に呼応するように、魔物たちが一斉に動き出す。
魔人族がさらに北へ逃げていく。
街道の先。
その向こうには、海岸線へ続く道がある。
「……そういうことか」
アルが呟く。
街道から消えていた人々。
北から聞こえていた戦闘音。
すべてが一本につながっていく。
「魔人族を……北へ追い込んでる」
セレスが呟いた。
「海へ?」
「おそらく」
アルは頷く。
逃げ道を塞ぐように魔物を配置し、魔人族を北へ追いやっている。
ただの襲撃ではない。
これは――。
「計画された侵攻だ」
アルの声に、全員が沈黙した。
その時。
「セレス!」
遠くから声が聞こえた。
振り返ると、一人の魔人族がこちらへ走ってくる。
「セレス……?」
「知り合い?」
エルシアが尋ねる。
セレスは答えなかった。
ただ、その顔が強張っている。
「お願い……助けて……」
魔人族の男が息を切らしながら叫んだ。
「北へ逃げろと言われた……」
「でも、北にはもっと魔物がいる!」
セレスが駆け寄る。
「一体、何が起きているの?」
「分からない……」
男は首を振る。
「突然、魔物が大量に現れて……」
「黒い服を着た連中が、後ろから魔物を動かしてる」
「俺たちは……ずっと追われている」
「皆、応戦したんだけど数が多すぎて……」
セレスの拳が震える。
「……そんな」
アルは周囲を見渡した。
街の中。
街道。
北へ続く道。
どこを見ても魔物がいる。
そして、その後ろには黒ローブ。
だが。
黒ローブたち自身が、前線へ出てくる様子はない。
「……あいつらは戦ってない」
アルが呟く。
「魔物を操ってるだけなんだ」
「なら、あの黒ローブを倒せば……」
イザベラが雷を纏わせる。
しかし、アルは首を横に振った。
「まだ駄目だ」
「どうして?」
「数が多すぎる」
魔物の群れは、今も増え続けている。
山側。
森側。
街の奥。
次々と姿を現していた。
そして、その中心で。
一人の黒ローブが黒魔石を掲げる。
「進め」
低い声が響いた。
魔物たちが一斉に吠える。
地面が震える。
「……来るぞ」
ガレスが剣を構えた。
アルも刀を抜き身構える。
するとアルの周りに気配が集まってきた。
精霊たちだ。
「……行こう」
アルが前を見据える。
「ここで止める」
魔物の群れが迫る。
黒ローブたちは、その後方で静かに魔物を操っている。
これはまだ。
戦いの始まりに過ぎなかった。
第70話「襲撃」を読んでいただき、ありがとうございました。
魔人族領で起きていた異変の正体が、少しずつ見えてきました。
ここからアルたちは、これまで以上に大きな危機へと巻き込まれていきます。
アルたちがこの状況をどう乗り越えていくのか、引き続き見届けていただければ嬉しいです。
次回もよろしくお願いいたします。




