次なる標的
第65話「次なる標的」です。
今回は、エルフの里を襲った黒ローブへの尋問から、次なる目的地が明らかになります。
アルたちが向かうことになるのは――魔人族領。
そして、セレスにとっては決して他人事ではない出来事が待っています。
それでは、第65話をお楽しみください。
戦いが終わった里には、まだ緊張が残っていた。
焦げた木の匂い。
崩れた土壁。
そして、捕らえられた黒ローブ。
男は里の一室へ運ばれ、椅子に座らされていた。
両手は後ろで拘束されている。
その前に、アルたちが立っていた。
「それじゃあ、話を聞こうか」
ガレスが静かに口を開く。
黒ローブは答えない。
「お前たちは、どうして精霊石を狙った?」
「……」
「里を破壊することが目的じゃなかったな」
男の眉が僅かに動いた。
アルはそれを見逃さなかった。
「やっぱりそうなんだ」
「……何を根拠に」
「戦闘中も、精霊石を優先していた」
ガレスが続ける。
「最初から場所を知っていた」
「誰かから命令を受けていたはずだ」
「……俺たちは命令されたことをやっただけだ」
男が初めて口を開いた。
「誰からだ?」
「……」
男は再び黙り込む。
ガレスの表情が変わった。
部屋の中に、重い沈黙が落ちた。
捕虜はそれ以上、何も話そうとしない。
ガレスはしばらく黙って男を見つめていた。
「……そうか」
やがて、低い声で呟く。
「まだ黙るか」
男は答えない。
「なら、こっちから聞くのはやめよう」
「……え?」
初めて男が顔を上げた。
ガレスは淡々と続ける。
「お前が話したくないなら、それでいい」
「……」
「仲間は逃げた」
「お前だけが残った」
男の表情がわずかに歪んだ。
「前に捕まった連中は、自分で死を選んだ」
「だが、お前は生き残った」
「仲間たちは、お前がどうして生き残ったのかと思うだろうな」
「……違う」
男が小さく呟く。
「お前が話すか、話さないかにかかわらず」
「どうして生かされたのかと思うだろうな」
「俺は……」
言葉が続かない。
ガレスは追及しなかった。
ただ、静かに男を見つめる。
「仲間から見れば、お前はどう見えるだろうな」
「捕まって情報を漏らしたと思われるんじゃないか?」
「……」
「それとも――」
ガレスの声が低くなる。
「最初から、お前だけを捨てるつもりだったのかもしれないな」
男の拳が震えた。
「……そんなことは……」
「なら、なぜ仲間は戻ってこない?」
「……」
「なぜお前だけが残った?」
男は俯いた。
しばらくして、掠れた声が漏れる。
「……俺たちは」
「ん?」
「……ここで、何かをするために来たわけじゃない」
アルが顔を上げた。
「じゃあ、何のために?」
男は答えない。
ガレスも急かさなかった。
ただ、逃げ道を塞ぐように言葉を重ねる。
「お前が今さら黙っても、仲間が戻ってくるわけじゃない」
「だったら、自分が何をさせられていたのかくらい話してもいいんじゃないか?」
男は唇を噛んだ。
「……目的地が、別にあった」
「どこだ?」
「……北だ」
「具体的には?」
「……魔人族領」
「……!」
その言葉に、部屋の空気が変わった。
セレスの身体が、強張った。
「……魔人族領?」
震える声だった。
男はセレスを見る。
その瞬間、セレスが一歩前に出た。
「どういうこと!?」
「セレス」
アルが声をかける。
だが、セレスは止まらない。
「魔人族領で何をするの!?」
「……知らない」
「嘘!」
セレスの声が部屋に響いた。
普段の穏やかな様子からは想像できないほど、強い感情が滲んでいた。
「私たちの故郷で、何をするつもりなの!?」
「……俺たちは命令されたことをするだけだ」
「誰に!?」
男は黙り込む。
ガレスがセレスを見る。
「セレス、少し落ち着け」
「落ち着いてなんていられない!」
セレスは拳を握り締めた。
「魔人族領が狙われているんでしょう!?」
「私の家族も、友人も、あそこにいる!」
「それなのに……ここで黙って待っていろっていうの!?」
その目には、怒りと焦りが浮かんでいた。
今にも一人で飛び出してしまいそうなほどだった。
男はその姿を見て、わずかに目を逸らす。
「……あんたが魔人族だったのか」
「それが何!?」
「……なら、知らない方がいい」
「そんなことを言ってる場合じゃない!」
セレスが一歩近づく。
「話して!」
「何をするの!?」
「魔人族領で……何をするつもりなの!?」
男はしばらく黙っていた。
やがて、観念したように息を吐く。
「……実験だ」
「実験?」
アルが聞き返す。
「ああ」
「何の?」
「……黒い石を使う」
アルの表情が変わった。
黒魔石。
これまでに何度も見てきた、生命力を奪う異常な石。
「黒魔石か?」
アルが問いかける。
だが男は首を振った。
「……知らない」
「知らない?」
「俺たちはそう呼んでいない」
「なら、何と?」
「……ただの黒い石だ」
男は視線を落とす。
「魔人族を使えば……もっと作れると言われた」
「……!」
セレスが息を呑んだ。
「魔人族を……使う?」
その声が震える。
アルはすぐには言葉を返せなかった。
ガレスの表情も険しくなる。
「どういう意味だ」
「……知らない」
「今さらそれは通らないぞ」
「本当に知らない!」
男が初めて声を荒らげた。
「俺たちは詳しいことなんて知らされていない!」
「ただ……魔人族なら、たくさん作れると……」
「何を?」
「……黒い石を」
セレスの顔から血の気が引いた。
「……そんな……」
拳が震える。
「魔人族を……材料にするってこと……?」
「セレス……」
「私たちを……石を作るために使うっていうの……?」
返事はなかった。
だが、その沈黙だけで十分だった。
セレスは俯いた。
肩が震えている。
「……許さない」
小さな声だった。
「絶対に……許さない」
アルがセレスを見る。
その目には、今まで見たことのないほど強い怒りが宿っていた。
「……誰が命令した?」
ガレスが男に尋ねる。
「……知らない」
「本当に?」
「上から来た命令だ」
「その上とは誰だ」
「……」
男は答えない。
ガレスが再び口を開こうとした、その時だった。
「……司祭様はきっと助けに来てくれる……」
男が小さな声でぽつりと呟いた。
全員が止まる。
「……今、何と言った?」
ガレスが聞き返す。
男自身も、口にしてしまったことに気づいたようだった。
「……いや」
「聞こえたぞ」
「……」
「司祭様、と言ったな?」
男は顔を背けた。
「言ってない……」
ガレスはしばらく男を見つめた。
それ以上は追及しなかった。
今の言葉だけでも十分だった。
少なくとも、今回の事件が単なる盗賊や魔道具の研究者によるものではない。
黒ローブたちの背後に教会と何らかの繋がりを持つ者がいる可能性が出てきた。
だが――。
まだ、それ以上は分からない。
「……もういい」
ガレスが立ち上がる。
「今日はここまでだ」
捕虜は何も言わなかった。
部屋を出ると、全員が一度集まった。
誰もすぐには口を開かなかった。
最初に声を上げたのはセレスだった。
「私は行く」
即答だった。
「魔人族領へ?」
アルが尋ねる。
「うん」
セレスは強く頷いた。
「今すぐにでも行きたい」
「私の故郷が狙われている」
「家族や友人がいるかもしれない」
「それなのに、ここで待ってなんていられない」
声が震えていた。
それでも、その言葉には一切の迷いがない。
「もし本当に魔人族が狙われているなら――」
セレスは拳を握り締めた。
「私は、絶対に放っておかない」
ガレスが頷く。
「俺も行くべきだと思う」
「今回の襲撃と魔人族領の話は、間違いなく繋がっている」
イザベラも静かに頷いた。
「私も賛成」
「ここで待っているより、現地を確認した方がいい」
グランが腕を組む。
「ああ、行こう」
リシェルも続く。
「当然です」
カインも頷いた。
「急いで支度しよう」
アルは全員の顔を見る。
そして、最後にセレスへ視線を向けた。
その表情を見れば、答えは決まっていた。
「……急ごう」
エルシアも頷く。
「そうね、急ぎましょう」
ガレスが全員を見渡した。
「各々準備を整えろ。準備ができ次第、すぐに出る!」
こうして――。
次の目的地が決まった。
魔人族領。
そこでは一体、何が起ころうとしているのか。
アルは北の空を見つめる。
その周囲を、精霊たちの風が静かに吹き抜けていった。
向かう先は――。
魔人族領。
第65話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、黒ローブへの尋問を通して、物語の舞台が次の場所へと移っていく回でした。
これまで少しずつ積み重ねてきた「黒魔石」や「精霊石」に関する出来事が、少しずつ大きな事件へとつながっていきます。
そして次回からは、アルたちの新たな旅が始まります。
今後の展開も楽しんでいただけましたら嬉しいです。
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次回もよろしくお願いいたします。




