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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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精霊の力

第64話「精霊の力」です。

今回は、アルたちを襲撃した黒ローブとの戦いを描いています。

前話でアルの魔力に触れ始めた精霊たちが、戦いの中でどのような影響を与えるのか。

そして、アル自身がその力をどう受け止めるのか。

ぜひ読んでいただければ嬉しいです。


 黒いローブの男が、地面を蹴った。

 その視線の先にあるのは、エルフの里。

 そして――精霊石。

「精霊石を確保しろ!」

 声と同時に、黒ローブたちが一斉に動き出した。

「来るよ!」

 エルシアの声が響く。

「分かってる!」

 アルは掌をかざして構えた。

 その瞬間。

 周囲の空気が、かすかに揺れた。

 風が吹いたわけではない。

 けれど、アルには分かった。

 ――いる。

 森の中にいる精霊たちが、こちらを見ている。

(……手伝ってくれるのか?)

 答えの代わりに、頬を撫でるような風が通り過ぎた。

「アル!」

 エルシアの声に、アルは前を見る。

 黒ローブの一人が、こちらへ迫っていた。

 手には黒い短剣。

 アルは咄嗟に魔力を集める。

「ウォーターバレット!」

 水弾が放たれる。

 しかし。

 黒ローブは身体をひねって避けた。

「遅い!」

 短剣が振り下ろされる。

 アルは後ろへ跳んだ。

 思ったより踏み込みが深かった。

 (切られる!)

 そう思った瞬間――。

 風が吹いた。

 ほんの僅かな風。

 それだけだった。

 だが、黒ローブの腕がわずかに逸れる。

 短剣がアルの頬をかすめた。

「……!」

 アルは目を見開く。

(今の……)

 精霊。

 アルは直感的に理解した。

 自分が魔法を使ったわけではない。

 精霊が風そのものを僅かに動かした。

 ほんの数センチ。

 それだけで攻撃の軌道が変わった。

「……なるほど」

 アルの口元が僅かに上がる。

「そういうことか」

「何を笑っている!」

 黒ローブが再び迫る。

 アルは右手を前へ出した。

「今度は――外さない」

 魔力を集める。

 炎を作る。

 だが、今までとは違う。

 魔力が、自分の意思に合わせて滑らかに動いていく。

 まるで、魔力の流れを誰かが整えてくれているようだった。

「フレイムアランス!」

 炎の槍が一直線に飛ぶ。

 黒ローブが身をかわす。

 しかし。

 炎の軌道が僅かに曲がった。

「なっ……!」

 炎の槍が黒ローブの肩をかすめる。

 ローブが焦げた。

「魔法が……曲がった?」

 アル自身も驚いていた。

 自分で曲げた感覚ではない。

 魔力の流れを、何かがほんの僅かに変えた。

(これが……精霊の干渉)

 その瞬間。

 背後から別の黒ローブが迫る。

「アル!」

 エルシアが叫んだ。

 アルが振り返る。

 だが、黒ローブの方が早い。

「もらった!」

 拳が迫る。

 アルは咄嗟に土魔法を発動した。

「アースウォール!」

 地面が盛り上がる。

 拳が土壁に叩きつけられた。

 同時に、土壁の一部が崩れた。

「……!」

 アルは目を細める。

 土の動きまで、今までより速い。

 魔力が無駄なく流れている。

 まるで、自分の魔法を誰かが一緒に操作しているようだった。

「アル、今の……!」

 エルシアが驚いた声を上げる。

「俺にも、まだよく分からない」

 アルは答えながら、黒ローブを見る。

「でも――」

 その瞳が鋭くなる。

「今は使える」

 アルは地面へ手を向けた。

「アースバインド!」

 地面から伸びた土が、黒ローブの足へ絡みつく。

「くっ!」

 男が足を引き抜こうとする。

 だが、動かない。

「今だ!」

 エルシアが駆け込んだ。

 一瞬で距離を詰め、黒ローブの腕を叩いて武器を叩き落とす。

 短剣が地面に刺さった。

「ぐっ……!」

 エルシアはそのまま男を地面へ押さえ込んだ。

「一人、確保!」

 するとガレスが叫んだ。

「自決するかもしれん! 口を塞げ! 毒を飲み込ませるな!」

 その声を聞いたアルは、黒ローブに猿ぐつわを噛ませた。

 そして周囲を見渡すと、他の黒ローブたちは、まだ戦っている。

 だが。

 エルフたちの反撃も始まっていた。

 森の中から放たれる矢。

 風魔法。

 土魔法。

 黒ローブたちは少しずつ追い詰められている。

「撤退するぞ!」

 一人の黒ローブが叫んだ。

「ですが、精霊石が!」

「今は無理だ!」

 その言葉に、アルは反応した。

(やっぱり……)

 目的は破壊ではない。

 最初から、精霊石だけを狙っている。

 黒ローブたちは仲間を助けることもせず、森の奥へ逃げていく。

「待て!」

 アルが追おうとした。

 しかし。

 その前に、一陣の風が吹いた。

 森の奥へ向かう道を塞ぐように、木々の枝が大きく揺れる。

 アルは足を止めた。

(……追うな?)

 精霊の意思。

 そう感じた。

 今までとは違う。

 明確だった。

 ――ここから先へ行く必要はない。

「……分かった」

 アルは追跡を止めた。

「今は、こいつを確保する」

 地面に押さえ込まれた黒ローブを見下ろす。

 男は荒い息を吐きながら、アルを睨みつけていた。

「……子供が……」

「子供だからって、何も分からないと思った?」

 アルは静かに問い返す。

「おまえたちは精霊石を狙っている」

「……」

「どうしてだ?」

 黒ローブは答えない。

 アルは少しだけ考える。

 無理に聞き出す必要はない。

 今は戦いが終わったばかりだ。

 まずは安全を確保する。

 そして、落ち着いてから調べればいい。

 研究と同じだ。

 焦って答えを求めれば、見落とす。

「……セレス、拘束を頼める?」

「任せて」

 セレスが近づき、黒ローブの腕を縛る。

 その様子を見ながら、アルは森へ目を向けた。

 風が静かに吹いている。

 木々の葉が揺れる。

 その中に、目には見えない何かの気配を感じる。

 ――精霊たち。

 そして。

 そのさらに奥には、もっと大きな気配がある。

 アルには、まだ姿すら見えない。

 けれど。

 確かに感じる。

(……ありがとう)

 心の中で呟く。

 すると。

 頬を撫でるような優しい風が、一度だけ吹いた。

 アルは小さく笑った。

「……これから、もっと分かっていきそうだ」


 だが。

 今はまだ知らない。

 捕らえた黒ローブが持っている情報が――。

 この里だけでなく、遠く離れた場所で起ころうとしている大きな事件へとつながっていることを。

 そして。

 その行き先が――魔人族領であることを。


第64話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回は、アルが初めて精霊たちの干渉を実戦の中で体験する回でした。

精霊の力は、単純に魔力を増やしたり、強力な魔法を与えたりするものではありません。

魔力の流れや周囲の現象に、ほんの少しだけ影響を与える。

その小さな変化が、アルの魔法をこれからどう変えていくのか。

今後のアルの成長も楽しんでいただければ嬉しいです。

次回もよろしくお願いいたします。


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