再び迫る黒い影
第63話「再び迫る黒い影」です。
精霊王から警告を受けたアルたち。
しかし、考える間もなく、エルフの里に再び黒い影が迫ります。
アルは精霊たちの力を感じながら、仲間たちとともに里を守ることになります。
それでは、どうぞお楽しみください。
轟音が響いた。
森の奥まで届くほどの大きな音だった。
アルは反射的に振り返る。
「……今の音は?」
セレフィアの顔から、血の気が引いていた。
「里の方からです」
「え?」
「エルフの里で、何かが起きています」
その言葉と同時に。
周囲にいた精霊たちが、一斉に騒ぎ始めた。
風が乱れる。
木々が大きく揺れる。
それまで静かだった森の中に、無数の気配が広がっていく。
「精霊たちが……」
セレフィアが胸元を押さえた。
「怯えています」
「何が起きてるの?」
エルシアが尋ねる。
「分かりません」
セレフィアは森の奥を見つめる。
「ですが……」
その声が震えた。
「里の方から、精霊たちの強い警戒を感じます」
「黒ローブか……?」
ガレスが低く呟いた。
アルは答えなかった。
頭の中では、いくつもの情報が繋がっていく。
汚染された精霊石。
黒魔石。
森に残された魔法陣。
そして、精霊王が示した強い拒絶。
もし、黒ローブたちが再び動いたのなら。
「……精霊石を狙ってる?」
アルが呟く。
セレフィアが振り返った。
「おそらく……」
「急いで戻ろう」
アルが言った。
今度は迷わなかった。
未知を追いかけることよりも。
今、起きていることを止めることの方が優先だった。
「いくぞ!」
一行は森を引き返し始めた。
アルの足は速かった。
だが、以前とは違う。
ただ闇雲に走っているわけではない。
周囲の魔力。
風の流れ。
精霊たちの気配。
それらを感じながら、最短の道を探していく。
「……こっち」
アルが進路を変える。
「アル様?」
「この先の方が早い」
セレフィアが目を見開いた。
「分かるのですか?」
「精霊たちがいる」
アルは答えた。
「それに……向こうから風が来てる」
イザベラがアルを見る。
「風を感じ取ってるの?」
「うん」
自分でも少し不思議だった。
昨日までなら、風はただの風だった。
だが今は違う。
空気がどこから来ているのか。
どこへ流れているのか。
その変化が、以前よりはっきりと分かる。
まるで。
誰かが教えてくれているようだった。
「……これが」
アルは走りながら呟く。
「精霊が魔法に触れているってことなのか」
答えるように。
頬を風が撫でた。
その風に押されるように。
一行は森を抜けた。
そして。
「……!」
アルが足を止める。
目の前に、エルフの里が広がっていた。
だが。
朝とは明らかに違う。
里の入り口付近から、煙が上がっている。
エルフたちが走り回っていた。
怒号。
叫び声。
金属がぶつかる音。
そして。
魔法が炸裂する音。
「襲われてる……!」
エルシアが叫んだ。
「全員、急げ!」
ガレスが駆け出す。
アルたちも後を追った。
里の入り口へ近づくにつれて、状況がはっきりしてくる。
エルフたちが防衛線を作っていた。
その向こう側。
黒いローブを身にまとった者たちがいる。
「黒ローブ……」
アルは目を細めた。
数は多くない。
だが。
今回の襲撃は、以前とは明らかに違っていた。
黒ローブたちは、最初から里の奥へ向かっている。
「何を狙ってる?」
アルが呟く。
その時。
一人の黒ローブが叫んだ。
「精霊石を確保しろ!」
アルの目が見開かれる。
「……やっぱり」
目的は明確だった。
精霊石。
黒ローブたちは、里そのものを滅ぼそうとしているわけではない。
精霊石を奪うために来ている。
「セレフィアさん!」
アルが叫ぶ。
「精霊石は?」
「世界樹の根元に保管されています!」
「守れる?」
「はい!」
セレフィアが頷いた。
「ですが……」
その瞬間。
里の奥から、巨大な魔力の爆発が起きた。
地面が揺れる。
「――っ!」
アルたちは足を止めた。
「世界樹の方です!」
セレフィアが叫ぶ。
アルは拳を握った。
「……行こう」
その声に迷いはなかった。
「精霊石を守る」
そして。
黒ローブたちの目的を、ここで止める。
一行は里の奥へ駆け出した。
「くそっ!」
エルフの戦士が剣を振るう。
黒ローブの一人が後ろへ飛び退いた。
「邪魔をするな!」
「この里の精霊石を渡すわけにはいかない!」
別の場所では、魔法の光が弾ける。
炎。
風。
土。
様々な魔法が飛び交っていた。
アルは走りながら周囲を観察する。
黒ローブたちは、無差別に攻撃しているわけではない。
エルフを倒すことよりも。
防衛線を突破することを優先している。
「……やっぱり」
アルが呟いた。
「目的は精霊石だけだ」
「そのようですね」
セレフィアが答える。
「なら……」
アルは前を見る。
世界樹へ続く道。
そこを塞ぐように、数人の黒ローブが立っている。
その中央に。
一際大きな魔力を持つ男がいた。
「精霊王と話すエルフだな」
男が低い声で呼ぶ。
「精霊石を渡せ」
セレフィアの表情が険しくなる。
「断ります」
「ならば、力ずくで奪う」
男が手を上げる。
黒い魔力が集まり始める。
アルはその魔力を見つめた。
以前感じたものと同じ。
異質な魔力。
生命力を奪う、あの感覚。
「……黒魔石」
アルが呟く。
男の動きが一瞬だけ止まった。
「……」
アルは確信した。
この男たちは。
あの黒魔石を使っている。
そして。
その先には。
精霊石がある。
黒魔石と精霊石。
それぞれが何を意味するのか。
アルはまだ、すべてを理解しているわけではない。
だが。
精霊王が見せた光景を思い出す。
黒い石。
苦しむ精霊たち。
そして。
強い拒絶。
「……絶対に」
アルは一歩前へ出た。
「精霊石には触らせない」
その瞬間。
アルの周囲で、風が静かに渦を巻いた。
炎が揺れる。
地面の砂がわずかに動く。
風が、アルの周囲を静かに巡る。
地面の砂が、わずかに揺れる。
そして。
アルの周囲に集まった精霊たちの気配が、今までよりもはっきりと感じられた。
黒ローブの男が目を細める。
「……何だ、あの魔力は」
アルは答えない。
ただ。
自分の中にある魔力と。
その周囲にいる精霊たちの存在を感じていた。
これまでとは違う。
魔法を使うのは、自分一人ではない。
そんな感覚があった。
「アル……」
エルシアが小さく呟く。
アルは拳を握る。
次の瞬間。
黒ローブたちが一斉に動いた。
エルフの里を舞台に。
二度目の戦いが始まった。
第63話「再び迫る黒い影」を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、エルフの里への二度目の襲撃が始まりました。
前回とは異なり、今回の黒ローブたちは明確な目的を持って動いています。
そしてアルも、精霊王との接触を経て、少しずつ新たな魔法の感覚を掴み始めています。
ここから戦いが本格化していきます。
次回もよろしくお願いいたします。




